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戦闘狂の第三王子はパーティーと国からはハブられるが子供受けがいい ~あとついでに動物受けもよかったので魔界に王国を造ろうと思います~

作者: 今野 春

どうも。今野と申します。短編となります。よければ最後までどうぞお付き合い願います。

 ガリル王国、王国騎士団強化部隊長、第三王子、ミガル。ひょろっとした長身に、鎌のごとく丸まった背中。そして、乱れた黒い長髪。

 彼は、他に七人いる王子よりも遙かに優れた“戦闘”の才能を持ってこの世界に生まれた。

 だが、それには問題があった――


「おらおらおらおら次ぃ次ぃ次ぃ次ぃ!」


 ()()()()のだ。


「ちょ、ちょっと兄さん。盗賊相手にやりすぎだって!」

「ああ?! 知るかんなもん!」


 おどおどと、丸い体型の第六王子のミュガルが声を掛けるも、それを無視してミガルはまた敵陣のど真ん中へと突っ込んで行ってしまう。


「ああ。どうしよう・・・・・・」

「ミュガル、あいつはもうほっといていいから、さっさとこっちを片付けような」

「わかったよテガル兄さん」


 背の低い第二王子のテガルが、もう慣れたというように大きなため息を一つ吐く。


「はあ、馬鹿なやつ」

「こら、テガル。そう弟に愚痴をこぼすものではない」

「はいはい・・・・・・って、ジュガル兄?! なんでこっちにいるのさ! あの村は?!」

「もう救った」


 深紅の髪を後ろで結ぶ、ミガルとは違った凜々しいたたずまいの長身の男。焦る弟を尻目に、第一王子のジュガルが、遠くを見つめる。


「に、兄さん。ミガル兄さんが・・・・・・」

「あれはもうほおっておけ。・・・・・・わたしですら勝てぬのだ。誰の手にも負えぬ」


 ジュガルが、諦めたように一度うつむく。そして、自らの近くに現れるその気配に、全神経を尖らせる。


 ガキィン!


「・・・・・・ちっ。なんでわかんだよ」

「あまりわたしをなめるもんじゃない。貴様に戦闘の才能があるように、わたしにも“空間把握”という才能があるのだ」


 ミガルが、不機嫌そうに落ちた投げナイフを拾う。


「けっ。才能とか、古い言葉遣ってんな。知ってるか? 最近は“スキル”っていうんだとよ」

「・・・・・・ふん。古きを見つめるのも長男としてのたしなみだ」

「ジュガル兄。なんか言ってることがはちゃめちゃだよ」


 なぜか顔を上げないジュガルに、ミュガルが顔を覗き込む。


「・・・・・・ああ、そうだ。伝えなければならないことがあるのだ。な? ミュガル」

「ひえっ?! あ、えーっと・・・・・・そ、そうだったね!」

「ミュガル。動揺しすぎ。まあ僕も聞いてないけど・・・・・・何それ?」


 と、テガルがジュガルの取り出したものに興味を示す。それは、禍々しい血色のオーラを放つ拳ほどの水晶。


「ミガル。お前宛てだ」

「ああ? 俺?」


 ぽいっと投げられたそれを、ミガルが片手でつかみ取る。すると、水晶から人が現れた。


『やあ、ミガル。元気か?』

「あー・・・・・・。あれか、会話できるやつか」

『そうだ。お前にしてはよく頭が回るな』

「けっ! ぶん殴るぞ親父!」


 その人は、真っ白なひげを膝まで伸ばし、頭髪はどこにいったのか、とミガルが尋ね、苦い思いをしたスキンヘッドの老人の姿。

 そう。ガリル王国国王。リガルである。


『では、殴られる前に、手早く話を終わらせよう』


 そう言って、リガルが一つ咳払いをし・・・・・・。


『最近のお前の行動は、目に余る。強化用の精鋭兵の、過酷な訓練による全滅。捕獲のはずの盗賊の殲滅。実験用絶滅危険種の殺害。他にも例はたくさんあるが・・・・・・。まあ、つまり、だ』


 リガルが、一つひげをなでた。


『お前のような、王国の汚点はいらん。さらばだ』

「は?」


 瞬間。ミガルは真っ赤な霧に包まれた。

 たまたま目に入った兄弟たちの、苦笑いが憎たらしかった。


 ―― ―― ―― ―― ――

「・・・・・・なんつー家族だ」


 ミガルは、仰向けになりながらそう呟く。

 確かに、リガルの言っていたことは事実だ。だが、それもミガルが精一杯やってのこと。


「あの精鋭兵とかいうやつらは脆かった。盗賊はみんな自爆魔法を持っていて、村の近くだったから、殺すしか無かった。実験用のやつは・・・・・・単純に戦いたかったんだっけか」


 そこまで独り言を言って、自分で自分がむなしくなった。なぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのか――


「ま! あいつらとバイバイできたしいっか! いやー! これで自由にのびのびとできるぜ!」


 だがしかし。本人はそこまで気にしていないもよう。

 そして、ミガルは改めて辺りを確認する。

 そよ風に揺れる深緑の草花。遠くに見える小高い丘と山に、亭々と高くそびえる木々――そこから、紫色の空が明るく輝いている。


「・・・・・・魔界か?」


 紫の空は、魔界の特徴とされている。ガリル王国は、魔界からかなり遠かったはずだが、どこであんな水晶を手に入れたのか・・・・・・。


「ま、あいつらが来ることはねえな。よーし! じゃあ・・・・・・」


 と、背後で草を踏みつける音がした。


『グルオオオォォォ!』


 それは、真っ黒の毛皮で体を覆った、巨大な熊。


「よおし! 魔界の魔物がどんなもんか確かめてや」

「ちょっと待ちなさーい!」


 その声に、殺す気満々で、刀身が大きく湾曲した剣。ショーテルを放とうとした動きを止める。


「ちょっと! ブルリン! いきなり突進したら・・・・・・だめって・・・・・・」


 その大熊に乗りながら、説教をする少女と、ショーテルを握ったらんらんと輝くミガルの目が合った。


「ぶ、ブルリン! やって!」

『ブルオオオオオォ!』

「危ねえ!」


 正直、和解になるんだろうと油断していたミガルが、予想外の攻撃に大きく後に飛びすさる。


「い、今のは戦う流れじゃなかったじゃねえか!」

「し、知らないわよそんなもん! ぶ、ブルリン!」

『ブフォアアアァ!』


 ブルリンと呼ばれた大熊が、容赦なくミガルの体に襲いかかる。


 ーーが。


「しゃらっくせええぇぇぇ!」

「ひっーーきゃあああ!」


 ミガルが、向かってくる大熊の勢いを受け流し、そのまま後に向けてぶん投げた。


「あ、やべ」


 と、ミガルが宙に投げ出された少女に気づき、急いで駆け出す。


「た、助け・・・・・・」

「おう。助けに来た」


 そして、ミガルは驚いたように目を見開く少女を抱えて地面に着地した。


「あー・・・・・・。やべ、お前の熊投げちった。すまん」

「・・・・・・え? あ、ああ。ブルリンのこと? あの子なら心配しなくて大丈夫だわ」


そう言って、少女がミガルの背後を指さす。


「あの子、丈夫だから」

「ほー。そういう問題なのな・・・・・・。ま、どうでもいいか」


 その少女は、肩掛けカバンを背負った八歳ほどの可愛い少女だった。身に纏うワンピースと同じ色の短い銀色の髪の生える頭に、二本の可愛らしい角を生やし、手足を若干の鱗で覆っていた。


「・・・・・・竜人(サラマンダー)か?」

「そーそー。よく知ってるじない。あんたは人間?」

「ああ。国からハブられた可哀想な人間だ」

「へー。かわいそうね」

「適当かよ」


 ピクリとミガルの口角が引き攣る。


「あ、あとブルリンについて補足だけど」


 苦笑いをした少女が、嫌味たっぷりに一言。


「あの子、女の子なの。強い男の子が好きなのよね・・・・・・」

「は?」


 背後で、ざりっという音が聞こえた。


「ーーちょ、まっ」

『ブルルアァ!』


 逃げようと足を踏み出すも、時すでに遅し。がっちりと大きな鉤爪に掴まれる。


「あっははははは! ぶ、ブルリンに懐かれてる!」

「おい! 爆笑してんじゃねえ! ちょ・・・・・・鉤爪がすげえこええからどうにかしろ!」

「へー? 頑張ってね」

「てめえガキンチョォ・・・・・・!」


 なんとか抜け出そうともがくが、たとえ戦闘に長けていようが身は人間。大熊の握力には適わず、その様子を見て少女がまた腹を抱えて笑う。


「あっはは! ーーはー。いいもん見れたわ。ブルリン。下ろしてあげなさい」

『ブルォ!』

「くっそてめえ・・・・・・」


 ゆっくり地面に下ろされるミガルのこめかみに青筋が浮かぶ。そこらの子供ならば泣いて逃げ出しそうな雰囲気だが、少女は意に介さないように、目尻の笑い涙を拭っている。


「え? 何? 殺すの?」

「けっ。ガキがなめた口を聞きやがる。俺にガキを殺す趣味はねえよ」

「何よ。カッコつけかしら?」

「てめえ・・・・・・殺してやろうか?」


 何気なくそう言った一言に、少女がその緑色の瞳を曇らせる。


「ああ・・・・・・そうね。このネックレスの玉の色が全部消えたら殺してもらおうかしら」


 そう言って、少女が肩に掛けたカバンの中から一つのネックレスを取り出す。それは、丸い宝石のようなものが繋ぎ合わせて作られていて、多様な色に輝いている。


「・・・・・・んだそれ」

「これ? あ、ちょっと話してもいい?」

「構わねえけどよ」

「・・・・・・わたしね、逃げてきたの」


 少女が悲しそうに表情を歪める。


「わたし、その日は近くの友達と遊んでたのよ。そしたら、急に襲われて・・・・・・。友達七人と一緒に攫われたの。その時にね、一人がこれをくれて・・・・・・。これが光ってる限り、あたしたちは生きてるよ。って」


 先程まで笑い涙を浮かべていたところから、新たに滴が頬を伝っていく。ミガルに体を触れさせるブルリンも、体をもぞもぞと動かした。


「でね。今残ってる友達が・・・・・・そこの、ブルリン。この子とわたしを庇って、みんなは行っちゃった・・・・・・」


 止められなくなった涙が、緑色の芝生の上に落ちる。

 その少女の髪を、ミガルがくしゃりと撫でた。


「・・・・・・ガリル王国第三王子。王国騎士団強化部隊長。自称人間最強の戦闘のスキル持ち。俺の名前と肩書きだ。・・・・・・今は無意味だけどな」

「・・・・・・あんたがいても意味無いじゃん」


 諦めたような、乾いた笑いがミガルの脳に響く。


「意味ねえ? 何言ってんだ!」


 いきなり発せられた怒号に、少女がビクリと大きく体を揺らす。


「聞こえなかったか? ()()()()だぞ?!」

「そ、それでも人間じない。あいつらはもっと凶悪な・・・・・・」

「さっきまでその最強を見て笑ってたやつが何言ってやがる」


 そう言って、ミガルがニヤリと笑う。


「そいつらの情報、なんでもいい、教えろ」

「・・・・・・うん」

「あとーー」


 思い出したように、ミガルが少女の顔を見る。


「あー・・・・・・なんて呼べばいい?」

「・・・・・・ツーデ。ツーデよ。改めて、よろしくね」

「おう。よろしく」


 ーー ーー ーー ーー ーー

「あれか?」

「そう。あれ」


 ミガルとツーデが、敵のアジトを茂みから伺う。


「・・・・・・城みてえだな」

「お城みたいな何か。中に入ったらわかるけど、ほとんどハリボテよ」

「けっ。見掛け倒しかよつまんねえ」


 そして、アジトの次はその周りの魔物と思しき敵を眺める。


「おー。ハリボテの割にわんさかいるな」

「あれ、このアジトの主のネクロマンサーが量産したゴーレム。勝てないわたしが言えないけど、脆いわ」

「・・・・・・敵まで見掛け倒しかよ」

「あ、でも、あそこの飛んでるやつ」


 ツーデが、真っ黒い羽と尻尾を生やした人型の魔物を指して続ける。


「あれだけ強いわ。魔法が使えるの」

「へー。そうか」


 そう言って、ミガルがショーテルを手に茂みから立ち上がる。


「じゃ、言ってくるわ」

「うん。ーーよろしく」

「任せろ」


 ミガルが敵陣のど真ん中に飛び込む。

 そして、仁王立ち状態のゴーレムをーー


「おらぁ!」


 粉砕。


「?! 敵だー!」

「ちっ。あいつからやるべきだったか?」


 ミガルが小さく毒づく。


「まあ、敵は多くて強え方が楽しいからウェルカムだ!」


 訂正。ミガルは楽しんでいる。


「ゴーレム部隊! 行けー! 行けー!」

「雑魚はいらねえ!」


 指示を受けて集まってきたゴーレムを、ミガルはショーテル一本で粉砕していく。

 湾曲した刃が、ゴーレムの頭部を捉えーー粉砕。

 粉砕。粉砕。粉砕。粉砕。


「う、な・・・・・・なんだお前!」


 もう、ハリボテの城の周りにゴーレムの姿はなかった。あるのは、岩の塊と、笑うミガルと魔物一匹。


「ひひ・・・・・・。雑魚でも壊すのは楽しい。なあ? なあ! ひゃはは!」


 そして、動けないでいる魔物の首にショーテルを突き刺ーー


 バギィン!


「あ?」

「ひっ・・・・・・え?」


 ショーテルが、粉々に砕け散った。

 そう。硬いゴーレムとの連戦は、少なからずショーテルの刀身にダメージを与えていたのだ。


「は、ははは! ざまぁみろ! これでてめえは終わぐふぁ!」


 高笑いをする魔物が、顔面を強打されて吹っ飛ばされた。


「ははは! 無様だなあ!」


 ギランと、ミガルの瞳が赤く輝く。


「誰が終わりだってえ?!」

「ひっ、うわあーーー!」


 ーー ーー ーー ーー ーー

 城の中は、ツーデの言う通りハリボテであった。

 見かけの半分ほどしかない部屋の広さ。

 一階。


「おるぁ!」

「ぐべえ!」


 二階。


「死ねぇ!」

「のはあ!」


 三階。


「お、武器か・・・・・・」


 ここまで素手一つで二階分を攻略していたミガルだが、その体には傷一つなく。疲労も見えない。

 そんな彼の前に、ハリボテの城は与えてしまった。


「・・・・・・いいねぇ」


 それは、殴る動き、突き刺すのに特化した、武器。


「ジャマダハル。久しぶりに使うな」


 先端が三角形に尖った、ジャマダハルだ。


「切る。刺す。殴る・・・・・・お、これ守りもできんのか」


 持ち手を覆うように鉄の板が貼られている。


「ま・・・・・・」


 その時、正面を歩いてくる魔物と目が合った。


「試してみようかなぁ!」

「ひいいいい!」


 四、五階をいとも簡単に突破しーー

 最上階。


「・・・・・・あ、ついた」


 謎にだだっ広い空間が突然現れたので、少し理解が遅れたミガル。


「ようこそ」


 そのミガルに、どこかからか声がかけられる。


「ふっ。我の姿が見えぬのは仕方がない。まあ、黙って聞いて」

「そこだあああ!」

「ギャバァ!」


 手応えあり。


「な、なっ・・・・・・」

「おい、俺の目的は一つだ。攫ったやつら、どこにやった?」

「さ、攫った?」

「殺したっつったら殺す」

「こ、殺してない殺してない! ちゃ、ちゃんと生かしている! というか、そいつらもぐるだ! ま、魔王様の命令で、魔王様自身の娘を殺したいと言っていたから、攫ったのに逃げて・・・・・・」


 透明状態を解かないそいつの言葉に、ミガルは一瞬違和感を覚える。


「は? 魔王の娘を殺す? 逃げられた?」

「そ、そうだ! 確か、名前は・・・・・・ツーデだ!」


 そう言い終わったそいつの顔面を、無言でジャマダハルで貫いた。


「・・・・・・ふーん」


 ーー ーー ーー ーー ーー

「お、おかえりなさい!」


 ツーデが、心配そうな顔で近寄ってくる。


「血、血がいっぱい・・・・・・あ、あの子達は」

「これは返り血だ。おい、ツーデ。お前魔王の娘だったのか?」


 ツーデの言葉を遮って、ミガルが目を合わせずに尋ねる。すると、ツーデは一瞬怯えたような表情を見せる。


『ブルリ』

「ブルリン!」

「そうなんだな・・・・・・」

「え、あ・・・・・・うん」


 しゅんと、落ち込むように俯くツーデ。その顔を、ミガルが下から覗き込む。


「おい。真実を話していいか?」

「・・・・・・うん」

「お前のオトモダチと、魔王はお前を排除するつもりだったらしい」

「・・・・・・え?」


 驚愕を顔に貼り付け、ツーデが首にかかるネックレスを強く握る。


「で、でも、逃がしてくれたし、このネックレスも・・・・・・」

「ああ、それは多分本物だ」


 そして、ツーデが言いにくそうに、ミガルを見ずに言った。


「・・・・・・お、お父様は・・・・・・」


 ツーデの頬を涙が伝う。それを見て、ミガルが一つため息を吐いた。


「おーい。出てきていいぞ」


 ミガルが、誰かをそう呼んだ。すると、がさがさと茂みが揺れ、そこから何人もの子供と、一人の女が現れた。


「あ・・・・・・みんな・・・・・・」

「いやー。ぐるっつってたのに牢屋に入ってたからびっくりしたぜ」


 そう。彼らはツーデのオトモダチ。息を呑むツーデと、気まずそうな彼らの間で息苦しい沈黙が流れる。

 と、その沈黙を破ったのは、一人の少年だった。


「ごめん! ツーデ!」


 そう謝って、律儀に頭を下げる。すると、他の皆皆もそれに続いて「ごめん」と言って頭を下げた。


「え、あ、う・・・・・・」


 ツーデは、その光景に違和感を覚え、思わず後ずさる。だが、その体はブルリンに押し返された。


『ブルルリ』

「・・・・・・うん」


 そして、一歩、二歩。その少年たちに近寄っていく。すると、唯一の大人の、女が口を開いた。


「ごめんね、ツーデ。私たち、魔王様の命令で、あなたと仲良くしてたの」


 「魔王様の命令」という単語を聞いて、ツーデが足を止めた。それを見て、「でも」と女が続ける。


「でもね・・・・・・無理よ。友達を、殺す計画を完遂させるなんて・・・・・・」


 その目には、確かに涙が溜まっていた。


「だからね、許して? 本当にごめんなさ」

「わかってるわよ」


 女の言葉を遮るその声は、先程までの弱々しさを吹き飛ばすほど、堂々としていた。


「わかってるわよ。あんたたちが、わたしを、守ってくれたことぐらい」


 涙が止まっているわけではない。心が傷ついていないわけもない。

 ただ一つ。言い切っただけだ。


「無事で、よかったわ」


 そう言って、笑った。


 ーー ーー ーー ーー ーー

「・・・・・・あー。感極まってるとこ悪いが、俺も話していいか?」


 その場のみんなが落ち着いてきた頃。ブルリンにいつの間にか抱えられていたミガルが、口を開いた。


「あ! そうだツーデ! この兄ちゃんすごかったんだそ!」

「あ?」

「そうそう! ゆうしゃみたいだった! ・・・・・・そんなこと言っちゃダメだけど!」

「お、おう」

「すっごいかっこよこかったのよ!!」

「・・・・・・そこまで褒められると調子狂うな」


 ついに、有り余るほどの賞賛に耐えかねて、ミガルが顔を背ける。

 と、そのミガルに一人の少女がとてとてと近寄って言った。


「ミガルお兄ちゃん、ありがとう!」


 そして、久しぶりに聞いた、感謝の言葉であった。


「う・・・・・・あ、当たり前だ! 俺だからな!」

「わー! かっけえー!」


 きゃっきゃきゃっきゃと、子供たちがはしゃぐ。ブルリンに抱えれているのを除けば、それはまるでーー


「私たちの勇者ね」


 女がそう呟いた。


「そうね」


 ツーデも、それにそう答えたのだった。


「おいツーデ! こいつらどうにかしろ! こ、こんなガキどもに・・・・・・く、屈辱だー!」

「いいじゃない。勇者なんだし」

「ああ?! ()()だろうが!」


 ミガルが、遠目にこちらを見ているツーデに向けて叫んだ。


「おい! てめえの親父! 魔王が、てめえを殺そうとしたんだろ?!」


 そして、ニヤリと、笑う。


「ぶっ潰しに行くぞ!」

「・・・・・・それ、ミガルが戦いたいだけじゃなくて?」

「否定はしねえよ!」


 ーー ーー ーー ーー ーー

 ガリル王国、通信の間。


「こ、国王! 王子!こちらを見てください!」


 一人の兵士が、大慌てで国王であるリガルと、六人の王子を呼ぶ。


『あー。あー。ん? 撮れてるか? ツーデ』

『ええ。その斜めの鼻の傷までばっちり映ってるわ』

『やかましいわ! 魔王が剣なんて使うと思わねえだろ!』


 そこに映ってるのは、鼻どころか、体中に傷をつけたミガルの姿と、少女のような高い声。


「こ、これはーー」

『よう。生存報告だこのクソ兄弟アンドクソ親父』

「リアルタイムではないです! 録画したものを転送したようで・・・・・・」

「黙れ! 静かにしろ!」


 説明をする兵士を、動転したジュガルが黙らせる。

 嫌な予感が、したのだ。


『なあ! どう思うよ元()()! このクソ家族!』

『す、すごく最低だと思います!』


 ミガルが、誰かを引っ張ってきた。それは、魔王と呼ばれた角の生えた男。


『で、そんなてめえらに報告だ』


 その嫌な予感は、的中した。


『俺、魔界に国造るわ! な! ツーデ!』

『ええ! ()()()!』

「「「・・・・・・は?」」」


 その場の全員が、口を阿呆のようにポカンと開ける。最初に我に返ったのは、第一王子ジュガル。


『てなわけで、仲良くしような! じゃ!』

『・・・・・・オッケー。ねえ、これどうやって止めるの?』

『あ? あー・・・・・・こうじゃね?』


 そして、乱暴に通信が切られた。


「・・・・・・あ、あいつは何を言っている! おい! デガル! 今すぐ隊を組め!」

「兄さん?! 何言って・・・・・・」


 驚く第七王子デガルを黙らせるように、ジュガルが机に手を叩きつけた。


「あいつを、我がガリル王国の汚点を! 排除する!」


 かくして、人間魔王と人間による戦いが起こるのだか・・・・・・それはまた別のお話としておこう。

最後までお読みいただきありがとうございます。いかがでしたか? かなり題名を無視してしまいました・・・・・・。よければ、評価、感想をよろしくお願いします。

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