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死霊術師は未練を晴らす ~白骨に魔力をこめたら美少女に~  作者: どらねこ
1章 リリー・エーレンフェルス編
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9話 二つの路

三話目です。

「さてリリー。君には二つの道がある。実体化か、成仏か……どちらかを選んでくれたまえ」

「……」


 リリーは言葉を詰まらせる。

 まあ、そう簡単に決められることではないだろう。

 僕もゆるりと待つとしよう――


「あたし、実体化してエディルと一緒にいるわ」


 少し気を休めようかと思ったところで、リリーがそう口にした。


「……」

「……何よ、なんで何も言わないわけ?」


 訝しがるリリー。

 その様子を見ると、今の発言はふざけて言ったという訳でもないらしい。


「……いや、少し驚いたんだ。まさかそんなに即答されるとは思わなかったし、未練を絶った君が実体化を選ぶとはもっと思わなかった。それも、僕と一緒にいる? ……冗談ではないのかい?」


 僕は正直に心の内を吐露する。

 僕はこれでも他人とあまり上手くやっていけないのは自覚している。

 おそらくリリーも、僕が気づいているもの、気づいていないもの合わせて何度も不快な思いをしてきたはずだ。

 それなのに、なぜそういう結論に至ったのかが理解できなかった。


「……冗談ではなさそうだね」


 しかし、リリーの顔は真剣だ。

 とても冗談を言っているようには見えない。


「あなたがこれから先一人で生きていくのか、新しい霊魂を顕現させるのかはあたしにはわからないわ。別に以心伝心ってほど親しいわけじゃないし」

「まあ、それはそうだろうね」


 もし彼女の気持ちを全て読み取ることができたなら、僕は彼女を傷つけたり怖がらせたりすることはなかっただろう。

 僕とリリーは確かに親しくなった。だけどまかり間違っても互いを半身と思うような境地には至っていない。

 そんな僕のために、リリーは悲しげに眉を下げる。


「でももし一人で生きていくなら……そんなの可哀想じゃない」

「可哀想? ……もしや、それが実体化を選んだ理由だと?」


 そんなことがあるのだろうか。

 これから何年続くかわからない選択を、同情で決める。僕には考えられない思考だ。

 しかし現実に、リリーは首を縦に振る。


「ええ、そうよ。……悪い?」

「いいや」


 嬉しくないと言ったら嘘になる。

 ずっと孤独に苛まれていた僕にとって、リリーは本当に久方ぶりに出会えた友なのだから。


「……でも、もしも僕が新しい霊魂を顕現させようとしていたならどうなんだい? それなら君が実体化して残っている必要はないと思うが」

「ああ、それなら単純よ。パンツ狂であるあなたの魔の手から他の霊魂を守るために決まってるじゃない」


 あまりにひどい物言いに、僕は肩をすくめて首を横に振る。


「まったく酷い言い草だ」

「あら、自覚がないのかしら?」


 僕たちはニヒルな笑みを見せ合う。


「……ふっ」

「……ぷぷっ」


 そして耐えきれなくなり、二人同時に噴き出した。





「まあそういうわけで、あたしはエディルと一緒にいるわ。……それとも、あたしがいたらお邪魔かしら?」


 リリーは僕を挑発するように艶やかな表情を浮かべる。

 そんな顔もできたんだね、知らなかった。


「いいや、とんでもない。ありがたくて涙がでてくるよ」


 僕がそう言うと、リリーは僕の目前にひゅうと飛んできて、僕の黒い目を凝視する。

 そして演技がかった動作でぷぅと頬を膨らませた。


「出てきてないじゃない。嘘つかないでよねー」


 そりゃあ、実際に涙は出てきてはいないが……。


「……ありがたくて涙がでてきそうだよ」

「……うん、それなら許すわ!」


 ニッコリと笑うリリー。

 彼女は人を明るくするような、そんな雰囲気を持っている。

 リリーといるだけで、なんだか自分が太陽の元に出てきたような、そんな温かさを覚えるのだ。

 いつぞやに感じた心の壁は、皮肉にもジーグルの死によってほとんど取っ払うことができたように思えた。

 ただし、このまま「はいそうですか」と僕と共にいることを了承する訳にもいかない。


「ところで、君が本当に僕と一緒にいるかどうかを決める前に言っておきたいことがあるんだけどさ。一ついいかな」


 僕は指を一本ピンと立てる。


「ええ、何?」

「僕と一緒にいるということはつまり、パンツを見せてくれるということかい?」

「うん、そんなこと一言も言ってないわよね」

「言葉で言わなくても伝わるさ。僕と君との仲じゃないか」


 真面目な顔をした僕に、リリーは深くため息を吐く。


「ハァ……。そんなに見たいなら、あたし以外にもそこら辺の女の子に声かけてみればいいじゃない。あなた顔だけはいいんだから、きっと何人かは騙されると思うわよ」


 呆れた声色で僕に告げてくるリリー。

 今度は僕がため息を吐く番だった。


「ハァ……。馬鹿だな君は」


 ここは一つ、彼女に僕のパンツ道というものを教示してやるとしよう。


「いいかい? 君はどんな男に詰め寄られても嬉しいと思うか? 違うだろう? 僕もそれと同じように、パンツが見れるなら誰でもいいってわけじゃない。僕は君のパンツがみたいのさ」

「じゃあ、例えば凄い美人がパンツを見せてあげるって言ってきても、あなたは見たいと思わない訳ね?」

「……まあ、それは一旦置いておこうじゃないか」

「ちょっと!? ここは嘘でも見たくないって言うところじゃないの!?」


 リリーは憤慨するが、僕は発言を撤回する気はない。


「普段ならそう言ったかもしれないけどね。今は嘘はつけないよ。これからの君の人生を左右する決断を、僕の嘘が左右してはいけないからね。もし君が実体化を選んで、その上僕と共にこれからを過ごしていくというのなら、ありのままの僕を知った上で選択してもらいたいのさ」

「……よくカッコ付けられるわね。あなた今パンツについて語ってるのよ?」

「カッコなんてつけてないさ。ただの本心だよ」

「そういうのがカッコつけてるっていうのよ、まったく……」


 そう言いながらも、リリーの表情は柔らかい。

 それを見た僕は、一番聞きたかった問いを投げかけた。


「こんな僕とでも、一緒にいられるのかい? 自慢じゃないが、僕はあまり人と上手くやって行ける方ではないよ」


 その質問に、リリーは迷わず頷く。


「ええ、いられるわ。……ただし!」


 と、そこでリリーは言葉を切り。


「パンツは見せてあげないけどねっ!」


 そう言って華やかに笑った。

 その笑みがあまりに可憐で暖かい感情で満ち溢れているものだから、僕も思わず笑みが零れてしまう。


「いつか見せてもらえるよう、精いっぱい努力させてもらうさ」

「そんなこと努力するならもっと他のことに力を注いだ方がいい気がするんだけど……あなたには、言っても無駄かもね」

「僕のことをよくわかってきたじゃないか。これはパンツを見せてもらえる日も案外近いかもしれないな」

「安心して、そんな日は未来永劫来ないから」


 僕たちは二人で笑いあう。

 森の中から見る夕暮れは、まるでパンツのように綺麗だった。

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