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死霊術師は未練を晴らす ~白骨に魔力をこめたら美少女に~  作者: どらねこ
1章 リリー・エーレンフェルス編
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6話 過去と現在と……

「作戦としてはこんな感じで良いかな?」


 僕は作戦を書いた紙を手に取り、眺める。

 数時間かけて練った作戦だ。我ながらよくできていると思う。


「いいんじゃないかしら。あとは上手くいくかどうかね」


 リリーも心なしか満足げというか、達成感に満ち溢れた表情だ。


「僕が上手くいかせるさ。君と約束したからね」

「少しくらいは信用してるんだから、頼むわよ」


 リリーは少し照れくさそうに言った。

 それを見て、僕は少し微笑む。


「あまり早くに決行する訳にもいかないから、一週間くらいは間を開けなければならないだろう。その間ずっと気負っているわけにもいかない。こういう時こそ平常心を持たなくてはね」


 こういうのは気負いすぎても上手くいかないものだ。リラックスしすぎているくらいがちょうどいい。

 僕の意見に同意してくれたのか、リリーも少し体勢を楽にした。


「なら、お互いのことでも話しましょうか。あたしたち、そういうのここまであんまりしてきてないでしょ?」

「いいね、そうしよう」


 思えば僕たちはあまりパーソナルな情報を交換していないかもしれない。

 これから同じ目標に向かって邁進していかねばならないというときに、それはあまりよろしくないだろう。


「じゃあまずあたしの質問からね。あなた、今までどうやって生きてきたの?」

「どうやって、とは? すまない、質問の意味がよくわからない」

「ここに来るまでは何してたのかってことよ。それに、死霊術師なのにあたしに会うまで一人の死霊も連れていなかったことにも引っかかるのよね」


 聞き返した僕に、リリーが質問を噛み砕いてくれる。

 後半も、たしかにリリーからしてみれば気になるところだろう。

 といっても、どういえばいいものか……。

 僕は頭の中で言うべきことを纏めながら、ポツポツと自らの過去を話し出す。


「そうだね……少し前までは、ただ世界中を旅していた」

「世界中を?」

「うん。ある意味一番楽しかったときかもね」


 辛いことも楽しいことも、今よりずっと多かったように思う。

 その時のことを思い返し、当時の自分を少し羨ましく思ったりも何度かした。


「たださ、寂しくなってしまったんだよね。旅の間は一人きりだろう? 道連れが欲しかったのさ」


 結局僕も他の人間と同じ。いくら一匹狼を気取ったとしても、人とのつながりが無ければ生きていけなかったのだ。


「でもおいそれと死霊術を使ったりはしなかった。それはまあ、僕が他人とやって行ける気がしなかった、というのが大きな理由かな」

「ああ、確かにそんな感じするわ」


 大きく頷くリリー。


「遠慮なしだね君は」

「気に障ったならごめんなさい」


 僕は首を横に振る。

 気兼ねなく言いあえるのが仲間だと思っている。そういう意味で、彼女のこの言動に悪い気は全くしていなかった。


「いいよ、僕はとても嬉しい。だから、むしろドンドン言ってくれ」

「それだと変態みたいよ? ……って、あなたはいつもパンツパンツ言ってる変態だったわね」


 心外だな。僕はパンツが好きなだけの紳士なのだが。

 抗議の意味も込めて、リリーの下腹部を凝視する。

 あのスカートの下には確実にしましまパンツがあるのだ。そう思うと感動で涙さえ零れそうである。

 僕は瞬き一つの手間さえ惜しんでリリーを見つめ続ける。

 するとリリーは顔を赤くして服の上からさらに手で下腹部を隠した。


「……変態」

「違う、僕はパンツがみたいだけだ」

「それを変態っていうのよ」


 ふう、と僕は一つため息を吐く。

 どうもこの点に関してはリリーと相いれられる気がしない。

 仕方ないので、僕はいつの間にかずれてしまった話題を修正することにした。


「まあそういう訳で、当時の僕はあまりに他人と一緒に旅したくてね。理想的な出会い方も頭の中で考えたんだよ」

「へぇ?」


 リリーが興味を見せる。

 ここは一つ、当時の僕が考えた理想の出会い方を実演してみるべきだろう。

 そう思った僕は立ち上がり、部屋の中を街角に見立てて演技を始めた。

 まず普通に歩き、立ち止まって何かを拾う動作をする。


「そこなお嬢さん。……パンツ、落としましたよ?」

「そんな女いないわよ」

「黒のレースとは、顔に似合わず大胆なお嬢さんだ」

「何で続けてるのあなた」

「どうでしょう。もしよろしければこのパンツ、僕の前で履いていただくことはできますか?」

「通報されてもおかしくない発言ね」


 うん、我ながら完璧な演技だったな。自分でも満足だ。


「……とまあ、こんな感じの出会い方が理想だったんだけど、中々現実には起きなくてね」


 晴れやかな気持ちの僕だが、対照的にリリーの顔色は曇りに曇っている。


「エディルは現実をなんだと思ってるのよ。そんなこと起きなくて当然でしょ」

「生まれる時代を間違えたってことかい?」

「そんな時代は未来にも過去にも存在しないわ。強いて言うなら生まれる世界を間違えてるわね」

「……悲しい世の中だね」


 僕はこの世を憂いた。

 しかしいくら憂いても現実は変わらない。

 ならば僕はこの世を少しでも理想に近づけるために努力しなければならないのだろう。

 ……少し脱線しすぎたか。


「まあそんな感じに人恋しさにやられそうになっていたとき、偶然君を見かけてね。『なんて魅力的な人なんだろう』と思ったよ」


 僕はその時のことを思い返す。

 あれはある晴れた日のことだった。ギルドから出てきたリリーを見たときに、僕の心はドクンと跳ねたのだ。


「思い描いていた理想の出会い方とは違ったけれど、そんなことは気にもならなかった。……僕はそういうことに疎いから確実ではないのだけれど、もしかしたらあれが一目ぼれという感覚なのかもしれないね」


 僕の言葉にリリーは目に見えて赤面する。

 もじもじと脚をくねらせるその仕草はとても女性的だ。


「……え? ちょ、ちょっとエディル、急に何言いだして――」

「そして同時に、『この人には何としてもしましまパンツを履かせたい』とも思った」

「早とちりして好感度上げちゃうところだったわ。危ない危ない……」


 リリーは一瞬でいつもの顔色に戻る。


「上げていいんだよ?」

「上がるわけないでしょうが! むしろ下がるわよ!?」


 下がるのか? 人の心というものはつくづく不思議なものだ。

 ともかく僕は説明を続ける。


「それからしばらくしてジーグルに殺されかけた僕は、ばれないように彼の周囲を探っていた。すると、君が彼に殺されるところに遭遇した。助けたかったんだが、もう間に合わなくてね」


 本当は助けてあげたかった。

 自分の無力をれほど痛感したことはない。

 息絶えた彼女に近づき痛みで見開いた眼を閉じてあげたときなど、あまりのやるせなさに自死しそうになったほどだ。


「……そう。まあ、それはもう自分の中で納得した。結局冒険者なんて自己責任だものね。『なんで助けてくれなかったのよ!』なんて責め立てる権利はあたしには全くないわ」


 俯く僕に、リリーは声をかけてくれる。


「君を顕現させたのは、正直罪滅ぼしの意味合いも少しはあった。だけどそれ以上に、君となら楽しく生きていけると思ったからさ」

「……そう」

「……仮契約が終わったら、君には二つの道が選べる」


 いい機会だ、ここで復讐を終えた後のことを話しておくのもいいだろう。


「二つの道――それはすなわち、実体化するか、成仏するかの二つだ。実体になれば他人からも見えるようになるが、僕が死ぬと君も自動的に成仏することになる。それといくら僕が優れた死霊術師であるとはいっても、何か月に一回かは魔力の補給に来てもらうことが必要だ。……あとは、死霊術で生き返った人間は年を取らないから、長期間同じ場所に定住することもできないね。反対に成仏すれば、君という存在は輪廻の輪で再構築されて、そして新たな人生が与えられるだろう」


 僕は包み隠さず全てを打ち明けた。

 普通の死霊術師では実体化させた霊魂をあまり遠くに行かせるのは無理なのだが、僕なら出来る。

 これは自惚れでも何でもなく、ただの事実だ。

 ……目の前でリリーを殺されておいて、自惚れるも何もないけれど。


「どちらを選ぶか、今から考えておいてくれ」

「……わかったわ」


 そこまで話して僕たちは会話を終える。

 リリーの話を聞いていないと思ったが、無言で考え込むリリーに今から改めて話を聞くことはできそうになかった。

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