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死霊術師は未練を晴らす ~白骨に魔力をこめたら美少女に~  作者: どらねこ
1章 リリー・エーレンフェルス編
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2話 止まない雨はない

「……さあ、君の未練はなんだい? リリー・エーレンフェルス」


 僕の問いに、リリーは数秒黙り込む。

 頭の中で話すべきか話さぬべきかを考えているのだろう。

 それを見て僕はひとまず安心する。

 その時点で話すことは決定したようなものだからだ。


 考えるという行為をおこしたということは、彼女には理性と知能がある。

 ならば、たとえすぐには話してくれないとしても、いずれ結論付けるものだ。

『僕の説明には何一つ嘘はなく、未練を絶つこと以外には仮契約を終える方法はない』と。

 なぜならそれは事実であるから。

 ならば、僕はその時を待てばいい。彼女がその結論に至る時を待てばいい。

 よしんば十年や二十年待たされたとしても、そのくらいの対価は安いものだ。

 僕にとって、こんなチャンスは早々ないのだから。


「……わかった。話すわ」


 数分の間逡巡していたリリーは、意を決した眼で僕を見る。


「それはよかった」


 僕はそう返した。

 リリーは唇を噛みながら、自身の未練を語りだす。


「あたしは親ももう死んじゃってるし、未練と言われて思い当たることは一つよ。……憎い。あの男が、憎いの」

「あの男とは?」

「ジーグル・ベールヴァルド。あたしを殺したクソ野郎よ」

「そうか。……リリー、唇が切れているよ」


 僕はリリーの唇から流れ落ちた血を親指で拭う。


「感情的になってしまうのはわかるけれど、自分を傷つけてしまうのはよくない。その男は君が血を流す価値すらない人間だ。そうは思わないかい?」

「……そうね、その通りだわ」


 リリーも納得してくれたようだ。よかった。

 こんなに可憐な女性が自分を傷つけるような姿を見ると、心が痛むからね。


「それで、どうなの? あなたに付いていないといけない以上、あなたが了承しないとあたしは未練を晴らせないんでしょ?」


 そう尋ねてくるリリー。

 彼女からすれば当然の疑問だ。

 僕はそれに笑って答える。


「大丈夫。その人間には僕も色々と思うところがあってね。喜んで協力させてもらうよ」

「それは……凄い偶然ね」

「そうだね、この偶然にはさすがに僕も驚いたよ」


 そこで一瞬の沈黙。

 そしてぽつりと彼女は言う。


「……そんな偶然、あり得ないわよね?」

「あり得ないってことはないんじゃないかな。人の世はいつもの奇怪な偶然で満ち溢れている」

「でも要は、適当に選ばれたあたしが、偶然あなたと同じ相手に恨みを持っていたってことでしょ? どれだけ低い確率よそれ」

「……もしかして君は、僕が君の死を仕組んだと言いたいのかい?」


 僕の質問にリリーは首を横に振る。


「いいえ、そこまでは言わないわ。アイツが誰かと組むなんて考えられないし。……ただ、『あたしを死霊術で利用するために、殺されそうなのを知っていても助けてくれなかった』なんてことくらいはあり得そうだなと思っただけ」


 リリーはそう疑いの目を向けてきた。

 その嘘を許さない眼力の強さに、中々の胆力だ、と僕は舌を巻く。

 この辺りは冒険者の面目躍如といったところだろうか。

 僕は簡潔に答えを返す。


「正解。勘が鋭いね。そういう人は好みだよ」


 答えは簡潔に。余計なことを言うと、色々と面倒なことになるからね。

 するとリリーは気勢を削がれたように、すこし間抜けな顔を浮かべた。


「……ねえ、それあたしに言っていいの? 普通当人に伝えないでしょ、そういうのって」

「さあ? ……でも、そうだねぇ。例えば今ので君が僕に愛想を尽かしたとして、君には僕を許す以外にとれる手段はあるのかな?」


 仮契約中の霊魂は行動範囲も著しく制限される上、物に触ることもできない。

 できることといえば死霊術士との会話くらいなものなのだ。

 僕の言葉の意味を理解したのか、リリーの表情が固まる。


「……あなた、優しそうな顔に似合わず中々黒いのね」

「そうかな? 自分ではよくわからないけど。あ、それとね。君を選んだ理由はもう一つあるよ」

「へぇ、何よ」

「生前の君を見て、しましまパンツが似合いそうだと思ったからだ」

「黒い上に変態とか救いようがないわ」

「君に救ってもらう必要はないよ。僕は君を救う側だからね」

「言うじゃない」

「事実だろう?」


 ニヤリと笑って首を僅かに傾ける。

 リリーはそれに対して何も答えはしなかった。ただ、軽く呆れたような笑いを浮かべた。




 振っていた雨はいつの間にかその勢いを落とし、太陽が再び顔を出した。

 僕は手の平を天に向ける。いつまで待っても手の平に雨粒は振ってこない。


「止んだみたいだね。……じゃあ、そろそろ行こうか」


 僕はそう言って一歩目を踏み出し、そしてすぐにくるりとリリーの方を振り返った。


「ああ、僕のことは気軽にエディルと呼んでくれて構わないよ。堅苦しいのは嫌いなんだ。ちなみに好きなものはパンツだよ」

「……あたしあなたと上手くやって行ける気がしないんだけど、大丈夫かしら……」

「大丈夫だよ。僕は平気だ」

「あなたじゃなくって、あたしが・・・・大丈夫か不安なのよ」

「それも大丈夫さ。ただ、もし何か困ったことがあったらすぐに僕に言うと良い。出来る限り協力させてもらうから」


 そう伝えると、リリーは意外そうな顔をする。


「いいところもあるのね、あなた」

「僕があげたパンツを履いてくれているんだ、このくらいはね」

「……そういうこと、あんまり言わない方がいいわよ? 関わる女の子全員に嫌われたいなら話は別だけど」

「嫌われたくない」

「……ぷっ。ちょっと、急に素直にならないでよ」


 初めて見たな、彼女の笑顔。

 無垢な少女の笑顔は、僕には決してできない表情をしていた。

 それを少し羨ましく思いながら、僕は口を開く。


「僕は最初から素直だよ。これでも性格がいいと自負しているからね」

「それはないと思うけど……まあともかく、あなたとも上手くいくよう努力はしてみるわ」

「ああ、それはありがたい」


 そんな会話をしながら、僕とリリーは墓地を後にするのだった。

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