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死霊術師は未練を晴らす ~白骨に魔力をこめたら美少女に~  作者: どらねこ
1章 リリー・エーレンフェルス編
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1話 出会いは雨の中で

 激しい雨が降り注ぐ中、僕は墓場に立っていた。


「うん、間違いなくこの墓だ」


 墓石に書かれた名前が間違っていないことを確かめ、僕は墓石をどかす。

 そしてその下の地面を掘りはじめた。

 この辺りに埋葬されている人々はもれなく生前お金も身寄りもなかった者たちであるから、墓荒らし対策などなされていない。

 したがって数分も掘れば、コツン、と白骨の固い感触を感じることができた。


 僕は掘り出した白骨に数秒手を合わせ、そしてポケットからパンツを取り出す。

 白と水色のストライプのものだ。

 そしてそれを、白骨の大腿骨を通して丁寧に履かせてあげた。


「素晴らしい……」


 全体を眺めた僕は思わず感嘆の息を吐く。

 健康的な白い骨にストライプのパンツがとてもよい対比だ。

 これはさながら骨とパンツの協奏曲コンツェルトといっても過言ではないだろう。

 雨の中、僕はしばらく骨を凝視していた。

 そしてそれにも満足したので、次の作業に移ることにする。


 と丁度その時、頭上の黒雲が雷を吐き出す。

 僕はそれに構わず、骨に触れながら言った。


「エディル・クリストファーの名において命ずる。現世に留まる霊魂よ、我が元に顕現せよ!」


 雷鳴が轟音を響かせる、その光は眩しくも荒々しい。

 だが、僕の周りを満たしているのはそれとは対照的な儚く淡い光だった。

 それらは徐々に僕の目の前に収束し、そして一人の人間を形作る。


「……あれ、あたし、こんなところで一体何を……?」


 戸惑っているのは赤い髪をした十七、八歳の少女だった。

 腰まで伸びた赤い長髪に、凛々しくかつ女性らしい目つきをしている。

 胸は無いとは言わないが、全体的にすらりとしたモデル体型であった。


 僕は頭の黒ハットを右手で押さえながら、彼女に軽く頭を下げる。


「初めまして、リリー・エーレンフェルス。戸惑っているところ申し訳ないが、まずは自己紹介をさせて頂こう。僕はエディル。エディル・クリストファー。しがない死霊術士だ」

「し、死霊術士……? ってことは、あたし……」

「ああ、君はもう死んでいる。死後も現世を彷徨い続けていた君の霊魂を、僕が死霊術で呼びだしたという訳だ」


 自分が死んでいることを自覚していない霊魂は多い。

 まるで夢うつつのように、彼らは皆、死んだ後にこの世を彷徨っていた間の記憶がほとんどないのだ。

 ただし、一度死んでいると伝えられれば大抵の霊魂は納得してくれる。彼女もその例に漏れず、自身の死をゆっくりと咀嚼し飲み込んだ。


「ああ、そうか。あたし、死んで……って、きゃあああああっ!?」


 突然金切声をあげたリリーは見る見るうちに顔を真っ赤に染めていく。

 そしてもじもじとなりやら恥ずかしそうだ。

 何があったのだろうか。


「どうしたんだいリリー」

「あ、あのあたし、ぱ、パンツしか履いてないんですけど! これはどうなって――」

「ああ安心したまえ、それは僕の趣味だ。良い眺めだよ」


 骨だけの時もよかったけれど、やはりパンツというのは生身の人間が履いてこそだね。とても美しいよ。

 僕はニコニコと柔和な笑みを浮かべながら、パンツ部分以外の肌を露出しきったリリーを凝視する。

 それに対し、リリーは必死で胸を隠している。


「へ、変態ぃっ! 終わった、完全にヤバい人に生き返らさせられたっ!」


 ……ふむ。

 僕はあまり礼節にうるさい方ではないのだが、少々気になるな。


「初対面の相手を変態呼ばわりとは些か失礼ではないかな?」

「初対面の相手にパンツだけ履かせて楽しむ方がどう考えたって失礼でしょうがっ!」


 ほう、そういうものなのか。


「……ソックスもいるか?」

「そういうことじゃなあぁい!」


 どうやら僕の気遣いは見当違いであったらしい。

 困ったな……。

 目の前の少女の心情を理解できるほど、僕は女性の心の機微に精通しているわけではないのだ。


「服とか持ってないの!? ……持ってないんですか!?」

「ああ、そういうことか。生憎と僕が持っているのは女性物のパンツだけだ」

「何でなのよ! おかしいでしょうが!」


 何で、だと? 愚問だな。


「何かあった時にないと困るからに決まっているだろう。大抵の非常事態はパンツがあれば乗り越えられるからな」

「ヤバい、この人あたしと住んでる世界が違う! おかしい、おかしいよ!」


 ……思っていたよりもやかましい女性だ。

 まあ、そういう相手も嫌いではないのだけれど。


「そういうわけで、服は僕ではどうしようもないから君が自分で用意してくれ」

「そんなことできたらすぐにしてるわよ! それが出来ないから今こんな醜態を晒してるんじゃないの! ……ないですか!」


 どうやら一応敬語は意識してくれているらしい。

 別にそのあたりは気にしないのだが、パニックでほとんど敬語ができていない様子は少し微笑ましい。

 僕は微笑みながら言う。


「醜態だなんてとんでもない。君の身体はとても綺麗だよ。パンツが良く映えている」

「身の毛がよだつからやめてください!」


 はて、なにやら嫌われてしまったようだ。

 やはり人間というものはよくわからない。


「まあ、とにかくだ。霊魂は不自由だが、ならではの利点もある。君が想像すれば、それだけで自由に衣服を着れるはずだよ」

「ほ、本当ですか!?」


 リリーは目をつぶり、むむぅと衣服を想像し始める。

 数秒もすれば、その身はすでにピンクのフード付きパーカーを纏っていた。

 下はピンクのミニスカートと黒のレギンスだ。

 様変わりした自分の格好を見たリリーは目を見開く。


「うわあ……っ! すごいすごい、あたしこういう可愛い服着たかったんですよ!」

「へー、そうなのかいー」

「……なんで露骨にテンション下がってるんですか?」

「パンツが見えないからに決まっているだろう。……そうだ、スカートだけでも脱いでみないかい?」

「どれだけ最低なのよあなた」


 冷たい目をするリリーに構わず。僕は深いため息を吐く。

 まったく、折角のしましまパンツだったというのに……。

 隠れては意味がないではないか。……うん?


「……いや、死霊術士が着せた衣服は消せないんだったな。その可愛らしいスカートの下にあのしましまパンツを履いていると思うと、それはそれでクルものがあるか」

「~っ!? ほ、本当に最低ねあなた! 頭おかしいんじゃないの!?」

「うむ、うむ」

「ちょっと、ニマニマすんのやめなさいよ! やめなさいってば!」






 しばらく後。

 リリーの混乱と僕の興奮が収まってきたところで、ようやく本題に入ることにする。


「それにしても、死霊術士に会うなんて思わなかったわ」

「僕たちは数が少ないからね」


 死霊術はほんの少し昔までは禁忌とされていた魔術だ。現代でも使用自体を規制・禁止している国は多い。

 死者の魂を無為に愚弄する、倫理観の欠如した魔術だと信じられているのだ。まあ、僕にとってはどうでもいい話だが。


「生き返らせてくれたことには礼を言うわ。ありがとう。……じゃあ、あたしはこれで」

「それは無理だねぇ」


 そう答える僕に、そのまま場を去ろうとしていたリリーは怪訝そうな顔をした。


「……無理? どういうこと?」

「どうやら君は死霊術について『死人を生き返らせる術』以上の知識を持っていないと見える。……知らないのも無理はない。死霊術の知識なんて一般人には必要ないからね。まあ、冒険者なら知っていてしかるべきだとも思うけれど」


 冒険者は博識でなければならない。未知の異変に遭遇した時、頼れるのは己の知識のみだからだ。

 可愛らしいパーカーとスカートを履いた、生前冒険者であった少女を見やる。

 命を担保に戦う職業で知識を蓄えることを放棄していると、容易にこうなる・・・・。

 少女は僕に言い返すこともできないようで、ただただ黙っていた。

 見苦しい言い訳をしないところは好感が持てるな、などと上から目線の考えを繰り広げながら、僕は説明を続ける。


「僕が君を顕現させた時点で、エディル・クリストファーとリリー・エーレンフェルスの間には仮契約が結ばれたのさ。仮契約中は霊魂は死霊術士の元を離れられないし、同業者以外には姿を視認することもできない。良く見てみなよ、君の身体少し透けてるだろ?」

「ほ、本当だ……で、でも、仮契約とかそんなの聞いてないわよ!?」

「当たり前だよ、言ってないんだから」


 術を行使する前に霊魂に話しかけるなんてことは死霊術士でもできない。

 つまり伝える手段は皆無だということだ。

 ただし、霊魂となってしまった者にとってはそんなことはしったことではない。

 突然顕現させられて、仮契約をさせられて、それで悪感情を持つなという方が無理な話だ。


「あなた……あたしをどうするつもりなのよ」


 リリーも僕に対して警戒心を露わにする。

 気持ちは痛いほどよくわかる。

 だから僕は、出来る限り優しい口調で彼女に言った。


「いやいや。僕は君の味方さ、リリー」


 そして何か言われる前に、こちらの言いたいことを伝えてしまう。


「仮契約を終える条件はただ一つ、霊魂がこの世を彷徨う原因となった『未練』を断ち切らせること。……君も、何か未練があるんだろう? それを断ち切ることが出来れば、君は晴れて仮契約を終えられる。真の自由を手に入れられるよ」


 ごくりと唾を呑みこむリリーの前で、僕はにやりと笑って言った。


「――さあ、君の未練はなんだい? リリー・エーレンフェルス」

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