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刻の刻印  作者: 舞原倫音
刻の刻印:第一部
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空界人

 揩と神流が言葉を放ったと同時に、蒼とあかの光が絡まり、そして、柱となって空中そらを貫いた。


 この光により空中に開いた穴が少しずつ狭まっていき、やや半分の大きさになった所でそれは起きた。


「──…な…に……!?」


「穴が……


 広がっていく…? これは…」


「あぁ、チッとばかし…やばい…な」


 額に冷や汗を浮かべ、揩が、神流が、顔をしかめる。


 穴が狭まり、そして、広がっていく。


 ──己の意志に反して。


 その時だった。


 ガタン


 と、音を立てドアが開いたのは。


「!?」


(やっぱり…)


「帰らなかったのか… あいつら…」


 チラリと視線を移す。


 そこには、リィフィンを筆頭に美夜達が立っていた。


「知られたくは無かったんですが…」


(仕方…ないですね──…)


 美夜達に視線を送り、神流は思う。


 あの学校も、そう長くは居られないなと。


 折角遠くの学校へと転入し、普通の生活が出来ると思っていたのに。


 けれど。


 ──…仕方ない。


 今自分達がやらなければ、この中から出てくる奴が、何をしでかすか解ったものではないのだから。


「揩…、学校は諦めましょう。」


「………あぁ。」


 クスリと自嘲的に笑い、神流は自分の中の整理を付ける。


 こんな普通ではない所を見られてしまっては、諦める他ないのだから。


「おい、てめぇら三人! 邪魔だ。どいてろ!」


 感傷に浸っている神流の代わりに、揩が美夜達に向かって怒鳴る。


 普通に暮らしたいのに暮らせない。


 暮らしたいと願っていた神流を、自分は知っている。


 だからこそ無理をして側にいる。神流を再び塞ぎ込ませないために。


「あいつら……。


 リィフィン。あいつらって、やっぱりもしかして──…」


『…えぇ、実は先程、じゅの気配を感じたんです。


 もしかしたらと思ってたんですが…やっぱり、そうだったみたいですね。


 おそらく──…彼らが…


 探していた、最後のメンバー…です。』


(……そろっちゃったのか…)


 予想しなかった展開に、美夜は溜息を漏らす。


 揩と神流から発せられる光。


 光を帯びた体から、光が消えていく。 


 僅かに、力が及ばない…。


『…美夜、言葉を』


 揩と神流力を横目で見ながら、リィフィンが美夜に言葉を求める。


 そんなリィフィンに、美夜はコクリと頷いた。


(まだ早いけど…しょーが無いか…)


みどり宿りし 加護の力


 源辿りし カオスの力


 聖なる力 イシュラスの御手


 慈悲の力で 我らを助けよ──…


 ──ソール聖力ギャザー


 懐かしい記憶の糸を手繰り寄せ、美夜は言葉を放つ。


 と、同時に。


 美夜の腕輪が光り輝き、五つの宝珠オーブ空中そらより現れ…、そして、その場に居るリィフィンを除く五人の体に溶け込む様に消えていった。


 途端──美夜の腕輪が崩れ去る。


「!? 今の…」


「力が…」


(沸いてくる…? 何故…)


「神流、あの女何モンだ? …まぁ、尋問なら後でも出来る!」


(これなら──…)


「いけるぜっ!」


 揩の台詞に、神流が静かに頷いた。


「──邪悪なるモノ 時空より来しモノ


 我らが前に……姿を現せ…」


 神流が、言葉を紡ぐ。


 刹那、空中そらを渦巻いていた穴が漆黒に染まり、何やら形を象っていく。


 不気味で禍々しい……


 そう、何かに例えるなら、空想の生物『魔物』といった所だろうか。


「な…何よ、あれ……。」


「ふぇぇっ 何あれぇぇぇっっっっ」


 目の前で起こっている事を理解できず、瀬識と梨留が明らかに狼狽の声を発する。


 当たり前である。


 何せ漆黒のそれは色こそ違うけれど「人」という形を造りつつあるのだ。


 もしも、ああいった輩が知らず知らずのうちに世の中に住みついていたら……。 


 考えるだけでゾッとする。


「──ふん…、いい加減相手にすンのも疲れてくるぜ。


 …エン斬剣ヴィーア!」


 言葉と同時に、揩の手元に剣が現れる。名前の通り炎の剣……、剣に炎がまとわりついている。


 そう、それは、触れたモノすべてを塵と化す、死の──…炎。


 揩の腕がスッ──…と、一条の光を生んだ。剣をそいつにに向かって薙いだのだ。


 が、それを予想していたかの様に、そいつはそれを軽々と避けてしまった。


『『──能力の…匂いがする……。


 何処だ…何処に隠れている……。見つけて……貪り食ろうてやる…………』』


 …………………………。


 それは、すぐ側に居る揩や神流を無視し、周りを眺め、美夜、瀬識、梨留の居る場所で視線らしきモノを置き止めた。


『『そこ…か…、フフッ……、久しぶり……だ……な……


 何処まで…この私…を…楽しませ…て…くれる…かな……』』


 ネタリとした物言いに、三人は僅かに息を飲む。


(いけない──…)


「三人とも! 逃げて下さい!!」


「…ったく、あのあま、余計な手間かけさせやがって!


 ……おい、空界人ヴェルザー! てめぇの相手は俺らだ、俺ら!! 


 ──よそ見してっと……怪我ぁすんぜ。」


 揩が、そいつに向かい手を振りかざす。


(──ほむらっ!)


 途端、揩の周りに、炎の玉が現れた。


 それは揩の意志に従い、空界人ヴェルザーに向かって飛んでゆく。


 ガキンッッッ…


 飛んできた塊の幾つかが、そいつに当たり音を発てる…。


 音? 


 見たところ揩が操っているのは炎のみ、炎だけで、どうやって音を発する事ができるのだろうか。


『『…なに!? アンチ能力が…なぜ…』』


 自分の身体を見て驚愕する。


 避けきれず、僅かに衝撃を受けた箇所が凍り付いていたのだ。


 けれど今、目の前に存在するこの男──…揩が扱う能力は、手にした剣や今の焔から炎をその身に宿していると簡単に予測はついていた。


 だが──…凍りつくというその能力は揩の能力とは相反している。


 反能力を操ることは特殊な能力を宿していない限り不可能な筈なのだ。


「──僕の事を忘れてもらっては困ります。


 ねぇ? ヴェルザー……さん??」


 背後から声が届く。


 いつの間に揩と正反対の方に行っていたのか、神流が美夜達三人の前に立ち、冷酷な笑みを浮かべていた。


 空界人ヴェルザーを驚愕させた能力は、揩ではなく彼が操ったものだった。


『『…馬鹿な…貴様も…能力者か…』』


「テメェの事なんか知ったこっちゃねぇよ。


 襲った相手が悪かったな、あばよ、空界人ヴェルザー!」


 神流に気を取られ、揩に背を向ける形になった空界人ヴェルザーに揩は言う。


 瞬間。


 揩の持つ剣が、そいつの体をまっぷたつに薙ぎ払う。


 数秒の間それは蠢いていたが、追い打ちをかけるかのように剣の炎がそいつを包み込む。


 そして…


 ……ヴィ……ァ……ァ……ルゥ……ゥ…ゥ……


 最後の一声を残し、そいつは消滅きえた…。


 残ったのは、そんな事が在ったという事実と、元、漆黒の体だったのだろう…と、思える塵、一山だけだった。



     *  *  *  *  *  *

空界人:web初出は多分…2003年1月9日?

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