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刻の刻印  作者: 舞原倫音
刻の刻印:第一部
6/24

記憶

 気が付くと、美夜は至る所に何かの扉が存在する空間に居た。


 トントン。


 肩を軽く叩かれ、美夜は反射的に後ろを振り向いた。


 すると、丁度幼い少女が駆けて行くのが視界に入った。


「──…?」


 どこか見覚えのある少女に、美夜は首を傾げた。


 そして、瞬間的に。


 美夜の足は少女のいる方角目指し、駆けてゆく。


 無意識的な行動。


 …美夜が幼き少女を追いかける。


 少女うさぎ美夜アリス


 二人の奇妙な追い駆けっこは続く。


 少女は空間に無数に存在している扉を開け放ちながら追いかける美夜から逃げ回る。


「──………?


 ……なに………?


 今……、何か……見えた………?」


 扉が開くその瞬間瞬間ときどきに、ぐわん、と意識がゆらぐ。


 一瞬気を失いそうになり、美夜は気付いた。


 幼い少女。


 少女には、やはり見覚えが──…ある。


 彼女は──、自分だ。


 あの幼い少女は。昔の自分。


 アハハハハハハハ……


 少女が、笑う。


 人を喰った様な笑顔で。


 クスクス、クスクス。


 ──…ハヤクシナイトダメナンダヨ……


 マタ……ジャウヨ………?


 ニコニコと笑顔のまま、少女は呟いた。


 少女と美夜の距離は、あるようで無く、無いようであった。


 ──…追いかけても追いかけても、決して距離は縮まない。


 そんな中で、美夜に聞こえるか聞こえないかの声を──…少女は発した。


「──? はや…く?


 なんの……こと…?」


 少女の声を聞き、美夜は呟く。しかし、その声が少女に届く事はなかった。


 更に前へと駆け抜けて、少女がまた扉の一つを開け放つ。


「…! また…!? なに…これ…?」


 少女の手によって、扉が一つ開かれる度、美夜の記憶には流れ込んでくるものがあった。


 それは──…昔の記憶だ。


 自らが消去した筈の……。


 忘れ去った筈の記憶。


「……なに………? これは──…」


(──駄…目…。これ…以上…、思いだしちゃ……)


 駄目なんだ。


 …──風が流れ、幾つと数える事の出来ない映像ビジョン一瞥いちべつしながら、美夜は過去の記憶を見ていた。


 無意識に拒絶している事に美夜は気付いていない。


 自分の中の自分が、一つ一つの過去をゆっくりと解き明かしているのは、紛れもない事実だった。


 ──…生まれる前の、……前世。一つばかりでは無い。


 無数にある、過去の記憶。


 美夜の意思に背いて、過去の記憶が蘇る。


 鮮明に。生々しい程、リアルに、鮮やかに。


 そして──…ゆっくりと。


 ……そう、ビデオのコマ送りの様に──。


『忘れてなんか、無かったんだ。


 君は、やっぱり「ミヤ」だったんだ。


 思い出していた記憶を、自分で覆い隠していたんだね──』


 その様子を実体無き体で見ながら、リィフィンは言葉を呟いた。


 コッチダヨ、コッチダヨ!


 ハヤク、ハヤク!


 オイテッチャウヨ…


 少女が美夜を呼んだ。


 手招きをして、また駆ける。


 美夜の頭の中に、少女の声は響いてまわった──…


『ごめんね、ミヤ…。


 でも、もう僕一人じゃ、ダメなんだ。


 ──ふう刻咒じゅこう……』


 美夜の意識の中へ、言葉が巻き込まれてゆく。


 少女のせいでは、ない。


 意識の中の美夜へ向けて、リィフィンが咒を唱えたからだ。


 その意味は…解放…


 無情にも、美夜の意思こころは開かれた──…


 リィフィンと、幻影しょうじょによって…。



     *  *  *  *  *  *

記憶:web初出は多分…2003年1月?

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