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刻の刻印  作者: 舞原倫音
刻の刻印:第一部
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デ・ジャブ

 ──どうして、こんなところに──?


『──ねぇ? 君達は、ここがどこなのか不思議に思ったりしないの?


 いや……、大体なんでここに来る事が出来たんだ?』


「不思議に思うって…。」


「ふぇ? どーしてぇ!?」


『え……いや、だって、ここは…、どう見ても君達の住んでる空間とは違う…と思うんだけど…』


 一向に疑問を感じていない梨留や瀬識に向かい、リィフィンが問う。


 が、かえってその事を聞いたリィフィンの存在自体を不思議がられてしまった。


 そして、梨留は別に何がどうしたという事はないが、瀬識の視線がいささか冷たい様な気がするのは、リィフィンの気のせいだろうか。


「空間? …フアフアしてて面白いよ~。


 宇宙って、こんな感じなのかなぁ…」


「あぁ、そんな事?


 美夜が関わってるんなら《常識》に捕らわれて考える必要…ないもの。」


「だよねぇ、…美夜ってホント常識はずれしてるから。


 あ、それにね。ここがどこか知りたいって思ったら、美夜をここに連れてきた張本人に会えば済む事でしょぉ?


 梨留は大して気にしてないから別にいーけどさっ」


「そうね、確かに不思議な空間かもしれないわ。


 地面ってモノが無いんだもの。


 …でも、美夜はここに居るし、大騒ぎしてどうこうなるってわけじゃないし。


 それに、考えるだけ無駄な時間を費やすだけだもの。


 だから考えるよりも行動あるのみってわけよ」


「そぉそぉ、美夜ってば、昔から少し変わってたからねー。


 美夜と一緒なら何が起こっても今更って感じだもん」


 一向に動じる気配の無い二人。


 しかし、これでは自分の話しかけた意味がない。というより、それがいけなかった。


 二人して機関銃のように喋りまくっている。


 梨留と瀬識…、二人の言葉はとどまる事を知らない。


 けれどそんな二人の言葉は、美夜が「常人ではない」という風にも聞き取れる。


 だとしたら、やはり美夜は自分の探していた人物なのではないだろうか…。


 そんな考えが、一瞬リィフィンの頭に浮かんでくる。


 美夜の言う通り「ミヤ」という名前の人は、世の中探せば沢山居るだろう。


──チガウカモシレナイ……


     デモ…ソウカモシレナイ──


 不安と期待を胸に抱き、困惑する。


「──…で? ここは何処なわけ? 美夜。」


「さぁ? 


 なんでもこいつが言うには時間の狭間…解りやすく言うと異次元って事らしいけど?」


「異次元…ねぇ…。


 それはまた随分な場所ね…。重力が無いのはそういう事だからなのね…」


 未だくうに浮いている自分の体を見て、瀬識は肩をすくませた。


「それより。なんでここにいんの?」


「──え?


 あぁ、貴女が突然消えたじゃない?


 それで梨留と一緒に追い駆けたのよ。


 教室のドアをくぐったらこの空間に居たってわけ。」


 美夜の素朴な疑問に答えたのは瀬識だった。


 瀬識は尚も言葉を続ける。


「ま、すぐに見つかって良かったわ。


 これで美夜と違う場所だった…とかいう結果だったら追い駆けた意味、ないものね。」


 瀬識の言葉になるほどと美夜は頷く。


「でも、今までどーしてたの? あたし、ここにきてから…十分位は経ってんだけど」


 時計を確かめ言葉を放つ。


 すぐ追い駆けたにしては、会うのに時間が経ち過ぎている。


「え…? 私は今ここに来たのよ? 十分?


 そんなに経って無い筈よ。」


 そう言って瀬識は時間を確かめた。


 時間は、四時二十八分を指していた。


 自分が来てから、まだ二・三分しか経っていない。


(うそっ!)


 美夜は驚き、瀬識の腕をグイと引っ張り時計を奪う。


「…違う」


「え?」


 ──四時四十一分──


 それが美夜の腕時計の時刻だった。


「ちょっと──」


 痛いわねぇ! と反論しかけ、言葉を失う。


 時間が違う…? 何を言っているのだ、美夜このこは。


 やはり、朝からおかしかったから…。


 納得する理由があるため、瀬識は美夜の額に手を当てた。


「熱…は、ないわね。でも一応薬飲んでおいた方がいいかしら。」


 完璧に、風邪扱いである。


 美夜の言葉を瀬識は熱のため幻影を見たと思ったのだ。


 風邪薬程度なら瀬識はいつも所持している。


 鞄を漁り、それを取り出すと、「後で飲めば?」と美夜に向けて放る。


 美夜は難なくそれをキャッチして。


「風邪なんかひいてない!」


 と放り返し。…いつもの事である。


 あはははは、


 と、そんな二人を見て梨留は笑い声をあげた。


 そんな三人を遠目にリィフィンは思う。


 何が起きても動じないのは、何処かに余裕があるからかもしれない。と。


『──当たり前です』


 瀬識と美夜の会話に入り、断言する。


 当たり前といわれ、二人は「何が?」とリィフィンに聞いた。


『言ったはず…


 ここは、刻の狭間だと…。


 時間の流れは、君達が思っているように一定じゃない。


 この世界の一分が、君達の世界の一分である保証はない。


 現に、ミヤが来てから追い駆けて来るまでのほんの些細な時間がその事を証明してるだろう?』


 チラリと、視線を瀬識達の元へと移しかえ 三人を見渡し視線を止める。


 梨留と視線があい、梨留のまっすぐな瞳からリィフィンは何故か視線を逸らした。


(あれ…?)


 その瞳に、梨留はデ・ジャヴを感じていた──…


 懐かしい何かを──…


 その目に見た気がした。 


「じゃあ、あたしが来た時間がホンの少し早かったから?


 それだけで、こんなに差がでたの?」


『そうだよ。


 …そして僕は、その刻の中をずっと──…


 生きてきたんだ』


 突き放す様に、リィフィンは言った。


 時の流れが違う空間で、一人。生きていた。


 無の空間とも言える場所で。たった一人で。


 ──…生きてきた。


 残酷…。


 美夜はそう思った。


 今、自分はホンの数分の差だったから大した事はなかった。


 話す相手も居たのだから。


 けれど。


 永遠ともいえる時間を過ごしたリィフィン。


 彼は、孤独だったに違いない。


 話を語ろうにも誰も居ないのだから。


 そんな事を考えた。


 不意に、もしかしたらと、一つの考えが脳裏をよぎる。


 あの夜感じた気配に敵意はなかった。


 あの気配がリィフィンだったのならば、彼は──、孤独を癒しに、外へ出ていたのかもしれない。


「一人…か」


 目を閉じ、ポツリと呟く。


 そんな美夜は、どこか──…寂しげだった。

デ・ジャブ:web初出は多分…2003年1月?

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