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刻の刻印  作者: 舞原倫音
刻の刻印:第一部
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刻の狭間 Ⅰ

(景色が…無い…。空間が…歪んだ…?)


 瀬識達より一足早くその感覚を感じた美夜は、直感的にそう思った。


 何故かなんて分からない。ただ、そう思ったのだ。


 普通に考えてこのハイテクの時代だ。景色が無いなど、考えられない。


 ならば、誰かに連れて来られたのだ。何処かに。


 そう考えなければ、つじつまがあわなかった。


 …もっとも、その空間自体が既に常識外れであり、その誰かが人間ではないと語っている様なものなのだが。


「な…に? ここは…──」


 頭の中では分かっていても、やはり意味不明な空間に居る自分自身…そして、空間自体に疑問を抱いてしまう。


 …普通なら考えられない事なのだから。


『ここは──…刻の狭間だよ…。そして、君達が異次元と呼ぶ空間──』


 周囲から、声が聞こえる──。


 にも関わらず姿は見えない。いつぞやの夜と同じ気配。


「…誰? あんた──…」


 美夜が声のトーンを下げて言う。


 一応警戒はしている…という事だろう。そんな美夜を嘲るかのように、また、声が聞こえた。どうやら相手にはこちらの行動が見えるようだ。


 『アハハハハハハハ……


 僕は──、…時間を、操りし者…さ』


「──時間を操る? …へーぇ?


 ──…そんな奴があたしに何の用があるって?」


 美夜がそいつの声に応え、声を張り上げた。


 うさんくさい…とは思いつつ、ついつい相手にしてしまうのは、やはり人間の性というものだろうか。


『勘違いしてるとこ悪いけど、僕が用のあるのは君なんかじゃないんだ。


 …僕は、僕の落とし物に用があるんだ』


「落とし物…?」


『そう、この間──…


 君が持ち去ったもの…、あれは僕たちにとって…とても大事な人からの──…』


「あぁ! これあんたの? これ返せとか言う前にれないんだけど──」


『嘘だ、れないなんてこと、あるわけ無いじゃないか。


 そんな事言って、本当は返したくないんだろうっ!』


 刹那。声の主に。殺気が生まれた。


 美夜自身は事実だと思って言っているのだが、声の主はその言葉を信じようとはしなかった。殆ど懇願とも言える声音で否定する。


「って言ってもなぁ…」


(……事実だし)


 心の中で呟く。


 美夜は無意識に頭を掻いた。


 事実を言っているのに信じない。ならば、どうしろというのだ?


 責められても、どうしようも無いというのに。


 どうしようもないなぁ…と、ため息をつき美夜は目を瞑った。


 瞬間。


 グラリと空間が歪む気配がし、体を支えるバランスが一瞬崩れる。


「……っ!?」


 突然の事に、瞑った瞳を思わず見開く。気を引き締め、周囲を見渡す。


 美夜の野生の勘とも言える第六感が、美夜に何かを知らせていた──…


 精神を集中し、それの元を探る。先程声の主と話をしていた時と、何も変わらない。


 けれど。何かが違っていた。目に見えない、何かが。


「……っ!?」


 キィ……ィィィィイイ……


 突然、聴覚を奪われた。頭に響く、鋭い音。


 そして、それと同時に今まで何もなかった所へ、光が集ってゆく。


 音はその為の副産物だろうか。


 非科学的な光景ことが美夜の目の前で起こっていた。


 光の粒子が一つの姿を創造つくっていく。


 それは鳥に近い動物に思える面もちで美夜の前に現れた──…。


 と言うより、遠目から見れば完全に鳥そのものにしか見えなかった。


「…鳥──?」


『失礼な奴だな!


 君が僕の事を見えない様だったから具現化してやったのにっ!


 僕は君が思っている様な『鳥』っていう下等な動物じゃないよ。


 それに…僕には<リィフィン>って名前があるんだから…』


 美夜の言葉に光の集合体はリィフィンと名乗り憤慨した。


 どうやら、この鳥の様な生き物が先程の声の主らしい。


 先程の声の主と同じ声で美夜と対峙した。 


「…立派な名前…?


 ただ単にヘンッな名前って気がするんだけど──?」


 勝手に名乗ったリィフィンに、美夜は直に感想を述べた。


 ──ヘンな名前──


 自分ではそう思っていなかったのか、リィフィンの眼が鋭く光る。


 美夜の事を睨み付け、


『──本っ当に失礼な奴だな!』


「わけわかんないとこに突然呼び寄せる奴よりはまし、でしょ」


『…ッ!』


 喧嘩腰に言い放ったリィフィンの言葉を、美夜は軽く受け流した。


 そんな美夜にリィフィンは瞬間言葉を失った。


 けれど何よりもの理由は、奇怪な事が起こっても怯える素振りすら見せない美夜の性格である。


 あきらかに。彼女は普通ではない。


 今までこの空間に迷い込んだ、もしくは招き入れた人間は、自分の世界とのギャップにパニックを起こし大騒ぎになるのが常であった。


 しかし、彼女はそんな事は気にならないという感じで、…まぁ、少し警戒してはいるものの、冷静そのものである。


 そんな美夜に、リィフィンは興味を示す。


『…お前、名前は──?』


「…名前? どーして見ず知らずの鳥なんかに自分の名前教えなきゃいけないのよ」


 さらりと言い返す。


 その美夜の物言いにリィフィンのがギラリとひかる。


『僕は名乗ったぞ。


 お前は相手に名乗る事も出来ない礼儀知らずな奴なのか?


 それとも、お前呼ばわりがいいか?』


「────……」


『なまえは?』


「~~~…美夜よ。

 …吹雪、美夜」


 別にお前呼ばわりでも構わなかったのだが、そうまで言われて名乗らなかったら、性格の悪そうな奴である。


 この後もしつこく聞いてくるのだろう。


 ならばどの道、遅かれ早かれというものである。


『ミヤ!? ミヤだって…? …もしかして──…』


 ミヤの言葉に何を思ったのか、リィフィンは明らかに驚いている様だった。


「────? 何? 美夜なんて名前別に珍しくないでしょ?」


(…どっちかってーと、名字の方がめずらしーって言われんだけどな…)


 ポツリと心の中で呟く。


『──…そうか、どうりで…』


 美夜の言葉に何か思うことがあったらしく、リィフィンが一人で頷いていた。


 かと思えば、パタパタと羽を忙しく動かし美夜に向かって飛んで来る。


 リィフィンの不可解な行動に、美夜はひたすら呆れていた。


「あーっ、美夜みぃーつけた!」


「美夜、貴女ねぇ…!

 今度は一体なにやらかしたのよ。」


 と、リィフィンが美夜の肩まで空間を泳ぎ寄って来たとき、美夜の現れた正反対の場所から梨留と瀬識が姿を現した。


 空間が一定していないのか、梨留も瀬識も空中にフワフワと浮いたままでいる。


 その空間を泳ぐ様な形で二人は美夜に向かって寄ってきた。


 景色のない空間。


 二人は美夜と同じくその空間に存在していた。


 けれど、美夜同様、その事には何の疑問も感じてはいないのか梨留も瀬識もパニックを起こして大惨事に見舞われるという様な事にはなっていない。


 と言うよりむしろ冷静そのものである。


『あの二人は──…』


「どうして──?」



     *  *  *  *  *  *


刻の狭間 Ⅰ:web初出は多分…2003年1月?

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