放課後…。
「みーやっ、起―きてっ! 放課後だよぉー」
「…んー……後五分…」
一日中。お昼すら食べずにひたすら眠っていた美夜を起こしにと二人は美夜の席まで来たのだが、美夜には未だに起きる気配は見られなかった。
「ったく、もう。朝からずっと爆睡しちゃってるくせにまだ寝る気なの? このコ。おかげで私は今日もさんざんな目にあったっていうのに!
──にしても、一日中寝てるなんてホント困ったこね…。こら!
そろそろ起きなさいよ。」
美夜に起きろと言う一方で、瀬識は美夜の頭をバシバシと容赦なく叩きまくっている。
その行動に、情けの二文字はない。
「──…っ、痛~~っ! あにすんのよ、カイ!」
「──っと、目ぇ覚めた? 美夜。」
瀬識の容赦なき扱いに耐えかね、美夜が伏せっていた机から身を乗り出す。その行動に瀬識は一瞬身を引いたが美夜の言った一人の名前を聞き逃すことはなかった。
「…? 瀬識…。なんで──…。」
寝起きのため、まだ意識がはっきりしないのか美夜がおぼけな事を言った。まぁ、朝からずっと寝ていれば時間感覚や場所感覚など無くなってしまうのも頷けるが…
「まだ寝ぼけてるの?」
おはようの挨拶がてらに、ここは学校もう放課後よ。と教えると美夜は、ああそう言えば今日は学校があったなぁ…などと思い出した。
「? ねー、みや。“かい”って誰?」
何を思ったか梨留は先程、美夜が起きるときに言った名前の人──…について問い掛けていた。
当の本人は、先程自分の口からでた言葉を全く覚えておらず、キョトン…としたまなざしで梨留を見やった。
「…誰?」
「あ、あのねぇ…。貴女が言ったのよ、少しは覚えてないの!?」
全く覚えられていない相手に不憫なものを感じつつ、瀬識は言った。
けれど、美夜から返ってくるのは、覚えていないの一言のみ。それ以外の言葉は全くといっていいほど返って来なかった。
「別に夢ででてきた人かなんかでしょ?
たいした物でも人でもないって。二人とも気にしすぎ!
…でも、もう放課後なんだ…。寝たりな…」
眠気ざましに背伸びをし、ふぁぁぁぁ…と、大きな欠伸を一つする。
──…かい。
確かに、物…かもしれない。かい、は『貝』ととる事もできるのだから。
けれど、あの時のあの台詞。
──あにすんのよっ、カイっ!
あの台詞は、誰かに向けた台詞ではないか?
物に向かって、「あにすんのよっ」とは普通言わないだろう。
…美夜が普通ではないと言われたらそれまでだが、それにしても…
「瀬識? 瀬識、瀬識、瀬識──?」
「え…? あぁ。…ちょっと待って、美夜。」
名前を何度か言われても気付かなかったのは、考え事をしていたからだ。
そんな瀬識を余所に、梨留と美夜は既に準備万端、後は瀬識を待つのみで帰れるのである。
……まぁ、もっとも、最初は瀬識と梨留が美夜を待っていたのだが…
机に置いた鞄を持ち、瀬識は美夜にOKサインを出す。
「じゃ、行こっ!!」
美夜は至極当然の様に言い放ちドアへ向かって歩いて行った。
すでに教室には美夜達三人の人影しかみえない。いつもの事である。
不意に、瀬識達の視界から美夜が消えた。
教室の外にでたから…という理由からではない。教室のドアの前で消えたのだ。
…外へ出る直前で。
慌てて瀬識と梨留は美夜の後を追ったが、追いかけた刹那、奇妙な感覚を覚えた。
* * * * * *
放課後…。:web初出は多分…2003年1月?