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刻の刻印  作者: 舞原倫音
刻の刻印:第一部
13/24

不可欠なもの。

 一階に降りる階段で美夜達は揩に行きあった。


 神流に言われ美夜達を迎えにきたらしい。


 揩の案内で食事の在処に辿り着くと、梨留が席に座っていた。


 既に料理は出来上がっているのか目の前のテーブルには所狭しと料理が並んでいた。


 梨留は二人に気付くと、「ふたりとも、こっちだよー」と自分の隣と前の席をバシバシと叩く。


 どうやらその席に座れということらしい。


 梨留に促され美夜は梨留の隣、瀬識は前の席へと腰をおろした。


 席につき食事をよく見ると、一人一人のおかずが違うことに美夜は気がついた。


 自分が電話をかけている間に彼はこの料理を作ってしまったらしい。


 さすがの瀬識もこれには思わず目を見張ってしまう。


 既に慣れている筈の揩も「今日は随分と気合い入ってんじゃねーか?」と


 ポツリと言葉を漏らしていた。


(さ~て俺の飯は…)


「──…ん? おい神流、俺ん飯何処だ?」


 瀬識の隣の席に着こうとしていた神流に声をかける。


 ハタと気づいたのだ。


 机に備え付けの椅子は四脚しかないことに。


「なに言ってるんです。揩は自立するために家を出てきたんでしょう?


 僕は貴方のハウスキーパーでも無ければ奴隷でも無いんです。


 たまにはご飯くらい自分で作ったらどうなんです?」


 目の前のテーブルに並んでいる食材に自分好みの物が無い事をふまえての質問だったのだが、神流の答えは冷たく厳しく、早い話が「食べたかったら自分で何か作って食べろ」という事だった。


 聞き方によっては、神流が揩をいたぶっているだけにしか聞こえないが、神流曰く「これも揩の為です」ということらしい。


 ──全く…何処まで信じて良いのやら……。


 まぁ、とにかく、揩は傍らでご飯を食べている四人を見ながら自分の食事を造る羽目になったのだった。


 絶っっっ対に神流のあてつけだ!!


 心の中で密かに思いつつ、揩は食事を作りに台所キッチンに向かう。


 しかしながら揩が神流の様に食事を作るのは至難の業だった。


 何しろ同じ食材を使い、同じ時間を費やして出来た物と言えば、炭と化した食材で、揩は結局神流にギブアップを求める事になったのだから…。


 ──それから約十五分


 神流は揩の食事を作り終える。


 揩はと言うと、自室から椅子を運び込み、美夜達の食べ終えている皿を台所キッチンへと返し、自分の場所テリトリーを確保していた。


 揩の確保した場所に神流が今作った料理を並べ終えると揩はスープを口に運ぶ。


 ふと手にもったスプーンで美夜を指すと、


「なぁ、お前…」


「美夜」


 無感情な美夜の声に揩は先程のことを思い出す。


「なぁ美夜っ」


 慌てて言い直す。


「結局さっきの宝珠オーブってのは俺らの能力だったんだよな?


 俺の記憶を解放すれば、俺の能力は上がるのか?」


 完全ではないにしろ前世かこの記憶を思い出している美夜。


 先程上がった能力は元々自分にあったものなのか。


 それを確認したかった。


 記憶を思い出せば全てが明らかになると踏んでの質問。


 その質問に。


『現時点では不可能です。』


 ポツリと呟かれる言葉。


 答えたのは美夜ではなかった。


 この声は食事を必要としない為、部屋の隅にいた者の声。


「「リィフィン!」」


『各々の聖法石せいほうせきが行方不明ですから…』


 一同の注目を集めリィフィンは淡々と言葉を紡ぐ。


聖法石せいほうせき? なんだそりゃ?」


じゅを扱う上で不可欠なもの。それが聖法石せいほうせきです。』


「…でも、どこかの馬鹿は使えてたわよね?」


 そういって瀬識は隣に座った揩に向かって視線を流す。


 一瞬揩と視線が合った。


「あ? 誰が馬鹿だ誰が!?」


「誰とは言ってないでしょう?」


「…っ!」


 先程と似た様な雰囲気がその場に流れる。


 ──しかし。


「揩、いい加減にして下さい。まったくもう、転入を決めた時に『もう問題は起こさない、学校連中の間ではお祭り男を演じてやる、安心しろ。』そう言ったのは誰でしたっけ?


 彼女達は僕のクラスメイトです。貴方のいう学校連中とは違うんですか?」


 神流に釘を刺されると揩は先程の事を思い出し、「…わりぃ…」と一言呟いた。


「……わかればいいんです。


 さてと、話を進めて下さい。」


『え…あ、はい。えと、揩の言った事ですが、それについてはですね、ある程度なら自身の体を通じて能力を使う事も可能なんです。


 ただ、コントロールが難しいだけで…。


 それと、宝珠オーブなんですが、あれは前世で僕が引き継いでいたものなんです。


 ──…あれは、ミヤが腕に付けていたブレスレット。


 あれに宿っていたんです。


 けれど…。』


 語るリィフィンの表情がかすかに曇る。


 静かに押し出される声は、擦れている様だった。


『あのブレスレットは解放の咒により形を失ってしまいました。


 そして、解放されたことにより、そこに宿っていた能力は、既に個々の身体へと封印されています。


 聖法石という、本来宿るべき場所を失ったまま。』


 あの一時の感情で美夜の記憶を解放してしまったことを、リィフィンは深く後悔していた。


「本来…宿るべき場所?」


『はい。聖法石は自身の体。


 成長した能力を宿らせる場所。


 貴方達が、永い輪廻を繰り返し、能力を封じてきた代物。』


「封じてきた…?」


『…、聖法石なくして成長した能力は、己の体の器を超えたとき…暴走してしまうんです…。』


 問いかけられた質問に、戸惑いをみせながらもリィフィンは語る。


 ──…それは、一片ひとかけの真実。


『おそらく──…』


『『言う必要は無いよ、キルリア…。


 彼らには必要無いからね』』


「──…!?」


     *  *  *  *  *  *

不可欠なもの:web初出は多分…2003年2月2日

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