シュールレアリスティック・ガール/五
私たちは東京の夜の七時を迎える前に三人で日曜日の夜にやるべきようなことを見失い、途方に暮れた。とりあえず新宿のタワーレコードに入ってはみたものの、三人は自動ドアを通り過ぎた瞬間に離散して、それぞれ違うジャンルのコーナーに向かった。ちーちゃんはクラシック、木間ちゃんはサウンドトラック、そして私は洋楽のコーナーに進んだ。私はフラテリスの新譜を視聴しながら高ぶった気をどうにか和らげようとする。そうして私は自分の気が高ぶっているのだということに気付かされる。私は枕木ユウが二人に理解されない現実に苛立っているのだ。
私は親友の二人には枕木ユウのことを受け入れてもらいたかったのだ。そして私自身が枕木ユウの存在についてなんらかの形で納得したかったんだと思う。枕木ユウは、突然私の目の前に現れた変な奴。間違いなくそうなんだけれど、しかしそれだけじゃない。枕木ユウはすでに私の心の奥の方で大きな存在感を占めていて、ふとした隙に散歩でもするかのように私の体の中をゆったりと通過して刺激した。その度に私はドキドキしてしまう。そして体は熱を持った。どうしてドキドキしてしまうのか、私には理解不能意味不明だったが、枕木ユウが私にとっての気がかりであるということは紛れもない事実だった。そして私はその気がかりの中身を隅から隅まで解き明かす必要があると思った。解き明かすことが出来ずとも、おおよその輪郭を私は把握しておかなくてはならないと思った。私は二人に枕木ユウのことを受容してもらうことによって、枕木ユウという存在に分け入る際のとっかかりのようなものを見つけたかったのだ。枕木ユウは未だ漠然としすぎている。だから二人の口からヒントのような助言が出てくることを私は期待したのだ。それなのに二人は枕木ユウのことをペテン師などと言って端から寄せ付けない。
だから私はヒステリックになる。
そんな現実に苛立っている。
枕木ユウは二人が思っているような人じゃない。
帰り道には不穏な空気が漂っていた。
私たちは言葉を失っていた。
それは私のせいだって分かっていた。
絶賛ヒステリック中の私のせいだって。
でも、私をヒステリックにさせているのは紛れもなく親友の二人だった。
私は二人に対して初めて、激しく渦を巻くように立ち昇る、怒りを覚えている。
枕木ユウは二人が思っているような人じゃないんだから。
「さよなら」
私たちはそれぞれの家の方向へと向かう交差点で解散した。
ちーちゃんも、木間ちゃんも、最後まで私に何か言いたげだったが結局何も言わずに終わった。例え何か言ったとしても、私はそれを聞かなかっただろうけど。
「ただいま」
家に帰り、自室のベッドの上で横になり、少し気持ちが落ち着いたところで私はスマートフォンを右手に持ち、左手に枕木ユウの名刺を持った。しばらく電話番号を眺めてから、私はその番号にダイヤルする。
私は凄くドキドキしてしまう。
仰向けに姿勢を変えて面白味の欠片もない真っ白な天井をいつになく情熱的に見つめ続けた。
私はじっと枕木ユウの声を待つ。
しかし枕木ユウは電話に出なかった。
留守番電話サービスに繋がり、私は通話を切る。
スマートフォンを足元へと投げ捨てる。
なぜか私は、絶望的な気分になっていた。