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Honey so Sweet

作者: オーシャン

一編の詩の主題が、その詩にとって、無関係でありまた重要なことは、ちょうど一人の人間とその名と同じである。                         ウ゛ァレリー


手櫛デ梳ク音がイタイ。

サンメンキョウがワタシをツクル。サシアタッテ。

壜がアル。其のチュウシュツしたアロマオイルのPOTノ頭ノ余熱デ飛んだニオイがワタシをイニョウする。ツキアタリ。MOJO. 「ワタシからワタシへ」

            影法師

海の近い故郷では自分の影が地上でも空でも放恣に伸びて、泣いても笑っても影が差した。

それで大東京の影の居場所の無さは、彼女の気に入った。

正午前は紙魚のように、夕さりは涎のように正体を失う影。

黒のスウェットの下に世界地図のプリントされたシャツを忍ばせ、歩幅の狭い器用な歩調で、夜の歌舞伎町をなるべく賑やかな方面に向かって歩いていた。

           新・御油の宿      

光源が小さい電飾の連続と知れると、やうやう白粉と香水の綯い交ぜになったのが匂い立つのに気付いた。

客引きの女は誰も顔色が均されていて、空は上海風の招牌に劃され、いつまでも「いつか来た道」のそれで、樹海に迷い込んだようだ。

軍靴のマーチが聞こえてきた。ホスト連が隊伍してHomeBaseに帰順してゆく。片手に日の丸を戴いた扇を颯爽としながら、鼈甲色のグラサンを通して今宵の景気を調べている。

と、扇紙を閉ててちょうど落語家のやるように指呼した。

            

雨が申し訳に降っている。肩が延べ三回叩かれる。

囃子と洪笑と円の内と外。

しかし、なんと静かなことだろう。内側は。

彼女は少し悪い酒でも飲んだように頭が冴えていた。


水平屋根のアパートには、タペストリーもタヌキの木彫りもなく、玄関口に瀬戸物の皿もない。

今、彼女は裸だ。

朝ぼらけに吐く息のように白い肌。湯気が紅を塗っていく。

鏡の中にはどこにも日本人の女はいなかった。

が、黒子の少しも“そばかす”でないところが懐石の紫蘇のようである。

「こんな所に影がいたのね」と、ひとりごちた。

床に寝るのには、まだ抵抗がある。

ラブソファーにひとり。

天井が低いので不思議に落ちるのが怖い。

今日という日のために、思わず爪を噛む。

滋味の豊かな海の色の眼には、寄せては返る潮目があった。

意外に日の出の遅い大東京の夜には。さらに。

                      お仕舞い。


エピグラフは堀口大學訳。

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