お飾りの王妃様
あるお城に、とても綺麗なお妃様がいた。
雪のように白い肌、バラのように赤い髪、空のように青い瞳。
誰もが喜んで迎えたはずのお妃様なのに、王様は知らんぷり。
今日も愛人を部屋に連れ込んで遊んでいる。
お妃様はいつも忙しい。
王様のかわりに大臣たちと話をし、あれやこれやと書類整理。
王様はその書類を見て「うむ」と肯くだけ。
あとは愛人とお船に乗って遊んだり、歌を歌ったり。
時には馬で遠乗りに行く。
お妃様は、いつもおいてけぼり。
お妃様は、いつも寂しそう。
いつのまにかお妃様は、笑わなくなった。
いつからかお妃様は、いつも悲しそうな顔をしていた。
ある日、お妃様は考えた。
私は何のためにいるのかしら?
――お前はお妃様になるんだよ。
お妃様になって、次の国王を生むんだよ。
そう父親は言っていた。
けれども、王様はお妃様を知らんぷり。
いつも愛人と一緒にすごしている。
そして、愛人がお姫様を産んだ。
お妃様はまた、悲しい気持ちに襲われた。
沢山の人がお妃様を攻め立てた。
お妃様は、そこにいるのが辛くなった。
でも、王様のことは恋しかった。
どんなに声をかけても知らんぷりでも、王様の事を愛していた。
お妃様は、考えた。
私がいなくなったら、あの人はどんな顔をするだろう?
お妃様は、思いつく。
そうだ、人形になってしまおう!
お飾りのお妃様にはそれがぴったりだわ!
お妃様は、魔法使いを呼んで人形になった。
お人形となったお妃様は硝子のケースに入れられて、王様の部屋に飾られた。
王様はいなくなったお妃様を不思議に思っていたけれど、お人形を見て呟いた。
あいつも、君みたいに可愛げがあればめでたのに。
お妃様は悲しくて泣きたくなった。
けれどお妃様はお人形だから、泣く事なんかできやしない。
王様はそのお人形を優しい目でながめつづけた。
愛人が2人目の子を産んだとき、まだお妃様は見つからなかった。
王様は愛人をお妃様の後添えにし、お妃様は死んだ事になった。
王様は愛人をお妃様にしたら、しっかり仕事をするようになった。
お妃様はそれを感心したように見つめていた。
お人形のお妃様は事あるごとに王様に話しかけられた。
けれどお人形だから笑う事も話す事もできやしない。
王様はそのお人形に嬉しい事、悲しい事、怒った事、笑った事。
みんなみんな話して聞かせた。
お妃様は、とても悲しかった。
お人形のお妃様はずっとずっと王様に愛されたけど、ずっとずっと悲しい気持ちだった。
王様は、本当のお妃様の気持ちも、行方も知らないまま静かに年老いて死んでいった。
愛人も、育った子どもたちもいつの間にかいなくなり、人も変わって。
それでもお妃様だけがそのまんま。
今日もお城のどこかで、お人形のお妃様は悲しい笑顔で愛でられている。
(終)
読んでくださり有難うございました。




