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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

キミをこの剣で…~新選組~

過去話(昔話)と乾杯

作者: 三日月

近藤が樋口へ文を出して1ヶ月あまり。

遅れの盆休みで屯所が手薄になってしまうため呼び出した。




『やっと着いたか』



(ん?ふ…よく狙われる奴だ)





屯所へ着いて早々に智香は門の外で

捕まっていた。

智香は樋口を不思議そうな目で見た。

どこか安堵しているようにも見える。




『樋口…さん…』

『樋口だぁ?』

『ふん。そいつに何の用事だ?』

『弱そうだからよ。人質だ。あんたも乗るかい?』


『新選組の奴を人質にとるとは…命知らずもいいとこだ…そいつを離せ』


『いい気になっている軍の犬の一人だろう?』


『離せと謂ったのが聞こえなかったか?』

『聞こえないねぇ 』

『痛っ!』




男の手は智香の両手首を力一杯握り締める。

彼女は身体全体を使い抵抗している。




『しかし女みてぇな奴だな?お前?』


『…離せないとみた。俺は知らぬ。命乞いをしても助けぬぞ?』


『判らなねぇのはお前だろう?』



樋口は隊務から帰宅した土方へ視線を送った。暑い為か汗が頬を伝っている。





『…土方か…』

『おう。お前何しに来た?…それとそこのデカいの …そいつをどうするつもりだ?』


『離して欲しけりゃ銭と交換だ』

『新選組へ喧嘩を売りにきたそうだ』

『土方さん…』

『斬るか…』



そういうと樋口は刀に手を伸ばした。 するとーー。




『お前使えなくなったんじゃ…』


『確かに刀は片腕でように扱えるものではない。だ が鍛えれば片腕だけだろうと扱う事は出来る』


『まさか…』




ヒュンッ!





『俺の自慢は治りが早い。鍛えるなど容易いこと』

『そうかよ…おいっ!斬られない様にしろよ?』

『はいっ!』


土方と樋口は 一斉に飛びかかった。 智香は隙を見つけて逃れる。


が、男は智香を盾にしてきた。 足がよろけてしまう。




『わっ!』


見事。倒れてしまった。 土方と樋口はその隙に男に襲いかかった。智香が顔をあげるといつの間にか沖田が居て智香へ手を差していた。





『騒がしかったから見に来たんだよ。無事だったみたいで良かったよ』


『総司、樋口が着たと近藤さんに知らせに行くがお前はどうする?』

『やることも無いし、一緒に行きます』





その日の晩、夕餉を終えた

沖田、斉藤、樋口の三人が広間で

ちびちびと晩酌をしていた。





『ねぇ、あれから気になってたんだけどさ…あんた下の名前』


『ああ…それは俺も気になっていた』


『謂っていなかったか?』

『訊いてません』

『なら、そのままで良いではないか?』

『いや、気になるし』


『総司はこうなったらしつこい。教えた方が良いと思う』


『そうか…なら仕方ない。名は総一朗だ…』





名を明かすと樋口総一朗はどこか遠くを

見るように、ポツリ…話出した。

過去の事を思い出している様だと

沖田と斉藤は思った。





『俺が産まれて間もなく、母親という者は死んだと祖母から訊いている。この俺の名をつけた親と一度も会った事もないが

生んでくれたことに感謝はしている…子供の頃の記憶は薄れているが、名を明かしたのは初めてだ。父親は俺が生まれる少し前に戦死したらしい…忘れたりしたら

この片腕が黙っては居ないぞ?』


『…結構辛い思いをしてたんだね』

『人には人の理由や人生があるからな…』

『ちゃんと覚えておくよ。君の大切な名前』


『誰かに話したりするな』

『大切におもっているならそうしよう』

『そうだね…僕はどうだったのかな?

全然覚えてないや。子供の頃なんて…一君は?』

『…少しなら覚えている』

『ふぅん。僕だけ?』


『『らしいな』』

『何も声を合わせなくても…』


『ところで沖田は智香へ好意を寄せているのか?』

『ぶふっ!』

『不意を突かれたか?』

『一君まで…僕と智香ちゃんの事は

良いじゃない?…もしかして二人とももう酔ってるの?』


『俺はそうでもない。沖田こそ顔が赤いぞ?』


(誰のせいだと思ってるの…)

『顔が赤いのは智香との関係を訊かれたからでは?』


(また一君…鋭い…)






三人で盛り上がっていると

土方と近藤がやってきた。

近藤が”盛り上がっているな?何の話だ?”と訊いてきた。




『いえ、特になにも…』





沖田の応えに土方が隣へ

腰を下ろしながら口をひらく。





『お前の話か?目が泳いでいるぞ?』

『土方さん…突っ込みすぎですよ…』

『なんだなんだ?恋の話か?』






近藤も混ざり沖田は目を瞑り酒を

口へと流し込む。




『樋口さんも何とか謂ったらどう?

口元で笑いながら見学してないでさ?』

『何故?』

『っ…何故って…一君も何か謂ってよ?』

『局長に図星を突かれ戸惑っているだけです』


『クス…』



『へっ?!樋口さんでも笑うの?!』

『総司、それはいくらなんでもだなぁ…』

『いや、近藤さん…俺も初めて見るぜ?』





沖田の言葉に土方も同感の様子だ。

近藤は何気なく斉藤を見ると、目を丸くしていた。

どうやら彼も二人と同じなのだろう。




外は鈴虫が鳴いている。

五人はその虫の声を聴き暑さを忘れているようだ。樋口は今まで旅をし、出会った者達の話を訊かせてくれた。


初めて家を出た時は複雑だったという。






ー何故か気になる様子だな?…それはたった一人の身内の死が原因だった。母親代わりであって父親の代わりでもあった祖母が老衰で亡くなった。

その時、初めて別れを知った。俺は暫く何も飲み食いなど出来ずに居たんだ。


程なくし、初七日が終わり現実を受け止められ、ひと月が経った。思い出の詰まった家に一人居るより外の世界へ出る決心をした後…


祖母が眠る墓へ行き、それを報告した。ー






『俺は家を出る事にした…あの場所は貴女との思い出が沢山有りすぎる。耐えられない…許して下さい…』






四人は樋口の話に耳を傾ける。

彼の目はあの冷たさなど、何処にもなかった。ある目は切ない目。






ー俺は知らせを終えるとそのまま故郷を出た。山道に入ると何処かの浪士が二人出て来た。刀を操れる俺はその時、初めて人に刃物を向けた。ー





『やるのか?小僧?』

『まぁ、待て俺が引き受けよう』


『………』


『怪我ですまなくなるうちに有り金全部

置いていって貰おうか?』


『……』


『おい、こいつ喋れねぇのか?』





ーこの時だ。俺は無言のまま二人を斬った。急所は外してやったが、あまり人が多く通る山道でない場所。

二人がどうなったかは察しがつくだろう?


一年が過ぎる頃、俺は雇われた。いつ何処で俺を見かけたかは知らぬが

どこぞの頭の悪い殿様が居てな。剣を教えてやってくれと頼まれた。仕事熱心らしいが…誰が教えても剣の使い方だけは

覚えられないと。

最初は断ったがそれからと謂うもの


毎日俺につきまとってな。

そして、その日から俺はそいつに

刀と謂うものを教える事となった。

…構え方からして俺は絶望を覚えたが

ふた月すると、構え方や刀の使い方を


少しずつではあるが覚えていった。ー






『僕だったら逃げ出すよ』

『黙って話を訊いてろ』





沖田は土方に注意されてしまった。

ふてくされるかと思えば案外素直に従う。

樋口はまた、話し出した。





ー刀を使いこなせるまで任された俺は

練習用の竹や藁を集めていた。その時に初めて稽古以外で殿が話しかけてきた。ー







『すまんなぁ…樋口君…仕事は覚えられるのだが剣、刀といった物はどうしても苦手で…覚えが悪くてすまぬ…』


『別に…俺は雇われた身。全て覚えるまで俺は教えます』


『有り難う樋口君』




ーこの時ばかりは緊張した。それまでは

何処か転々としていたからな。殿の城で護衛を任されたり、稽古に励んだ事が

未だに信じられん。ー





『へぇ…そんな話訊いちゃうと…敵視出来なくなるなぁ…』

『ずっと此処に居ても構わないんだぞ?』



沖田と近藤はそういうと

彼を見る。




『気持ちだけ、受け取っておこう』




『俺もお前を勘違いしていた様だ…樋口…何かあれば謂ってくれ』


『…ああ』





そう言葉を交わすと

猪口を手にし乾杯をしあった。







如何でしたでしょうか?

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