名は体を表す?
※初投稿です。
※短期間で書いたので色々とおかしなところがあるかもしれません。
「……嘘」
私、有河瑞貴は驚愕していた。
初夏。クラス替えで新しくなった環境に少しずつ馴染んでくるこの季節、それは唐突にやってきた。
怪訝な顔でこちらを見るクラスメイトは一般的な学生鞄ではなく、パンパンに膨らんだスポーツバッグを肩から掛けている。
目線の高さから推測すると身長はおよそ180センチ前後。適度に引き締まった体格は運動部の活動に熱心に取り組んでいる影響だろう。
その身を包む制服はもちろん、学校指定のブラウスと長ズボンだ。
「? どうしたの?」
既に声変わりの時期も過ぎた低音が耳に届く。私よりも20センチほど高い身長のクラスメイトは、紛れもなく“男子”生徒だ。
その事実を目の当たりにし、私は思わず叫んでしまった。
「―――沢渡芳美って、女子じゃなくて男子かよ!!??」
「えっ、あっ、ごっごめんなさいっ!?」
理不尽な怒りをぶつけられて戸惑いを隠せない彼に、私は朝から大きな溜息をついてその場に崩れ落ちる。
その様子を見た男子、つい先程まで『小柄な可愛い文化系美少女』だと思われていた芳美はさらに慌てふためく。
床の木目をじっと見つめた私はこの日、名前のイメージと実際の人物の性別は必ずしもイコールで結ばれるわけではないと痛感したのだった。
*****
私の身長は同年代女子の平均より少し大きい。周りにいる友人も小柄な体格の子がほとんどだったし、異性の友人はあまりいない。
そのせいもあって、同年代で自分より背の高い人物との関わりは他と比べて少なかった。
また、私自身が他人の名前と顔を覚えることを苦手としていたため、彼のことも名前だけのイメージで完全に『女子生徒』だと勝手に思い込んでいたのだ。
「ねぇ有河さん。新学期になった最初のホームルームの時、全員の自己紹介したよね?
今朝は勢いで謝っちゃったけど…俺が男だってことがそんなに意外だった?」
昼休み。友人との楽しい昼食を終えて席に戻ってきたとき、何の気まぐれか彼の方からおずおずと声をかけてきた。
あれだけ酷い勘違いをクラスメイトの前で盛大に叫んでしまった張本人としては、彼の姿をしっかり認識した瞬間の出来事は一刻も早く忘れ去りたかったのだが、そう簡単に上手くは行かない。
未だに慣れない見下ろされるプレッシャーから、私はまくし立てるように早口で彼の問いに答えた。
「じっ、自己紹介のとき何言えばいいのかずっと考えてて顔までちゃんと見てなかったから驚いたの!
――あと、そんなまじまじと見ないで。隣の席に来るまでサワタリ君のこと『小柄な可愛い文化系美少女』だと思い込んでた自分が恥ずかしい」
「名前だけでフツーそこまで飛躍する!?」
「しょうがないじゃん、そう思っちゃったんだから!もう何も言……っ」
「…どうしてそこで撃沈?」
一般的な高校生男子にしては幼い顔立ちの彼が、私の二度目の失言に目を丸くする。
ついムキになって彼を睨みつけようとしたが、視界に飛び込む姿で再びイメージとのギャップに撃沈して机に突っ伏した。
名前と顔を覚えることもそうだが、人の目を見るのも苦手なのに余計恥ずかしさと罪悪感がこみ上げてくる。
何故だろう。別に何かと戦っているわけではないのに負けた気がする。それももう完膚なきまでに。
「…ゴメンナサイ。私が悪うござんした」
「なに最後変な言い方してんだよ。
有河さんのオーバーリアクションに驚いたのは確かだけど、俺は別に気にしてないからいいよ。昔からよく勘違いされたし。
でも、顔真っ赤になったと思ったらすぐ真っ青になったり机に突っ伏したり…忙しい奴だなぁ」
くすくすと上品な笑い声をあげて彼は言った。
こちらとしては全く面白くもないが、私は一つの確信を持った。
性別は男だが、『芳美』という名の彼の眼差しと言葉は、女性らしい印象のままに穏やかで優しいものであると。