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与謝日記 The last chance  作者: 浅キチ
5/12

戦わずして救いなし

今日も同じく通常授業だ。

 毎日毎日同じ学校生活で、もう飽きる頃合いだ。

 ……だが、これが終わったと同時に俺のやるべき事は飽き足りないほどの事だ。絶対に何とかする。


「真、私の情報、頼りになったかしら?」

 美里がそう言った。

「お前の情報がなかったら俺は今頃途方に暮れてただろうよ。マジで助かった」

「そ……そう。なら、良かったわ……」

 途方に暮れているかどうかは知らないが、手間が省けて何よりだ。だが一つ疑問に思う事があった。

「そういえば昨日美里、リーマンみたいな男から話を聞いたんだよな?」

「うん。メガネもかけててノートパソコンを持参してたわ」

 やはり……そのリーマンもGSF集団に関わるハッカーグループの一員なのかもしれないな……。

 やはり奴らは二グループに分かれているのか。


 昼放課、放送がかかった。

『3年D組の与謝野真。至急職員室に来なさい。もう一度言う――』

 前と同じパターンか……。一体何だろう。


 速やかに職員室に行くと、教頭が前と同じ位置に立っていた。

「………与謝野、御手洗千春の守護は順調か?」

 いやに怖い顔だ。……まさか俺が守護できずにいた時があったのか?

「順調……。まぁ彼女に危害のあるような事はまずない」

「そうか。なら良かったんだが……」

「……何スか?」

「ちょっとこっちへ来なさい」

 教頭は影の薄い準備室に向かい、入って鍵をかけた。

 ……何話すつもりだ?

「実はな、今朝の登校時間で黄金美高校の生徒が多数、妙な連中に手をあげられているらしい。それは知っているか?」

「いや、初耳だ。妙な連中って……?」

「どこぞの不良少年ではないな。目撃情報からすると、お前と同じような年頃の男達が学校周辺を各地にわたってうろつき、男女問わずに恐喝、暴力が多発していたらしい」

 俺と同じ年頃……。つーことはもうすぐ二十歳になるような大人の連中か。

「お前、何か知ってるなら俺に言ってくれないか? 被害情報は今日だけじゃないかもしれないんだ。酷い場合は集団下校になるかもしれん」

「知ってる事……か。奴らどんな格好をしてたんだ?」

「そうだな。全体的に豹柄などの柄シャツを着ていたようだが、それも全員黒めの服装だったようだ」

 やはり……奴らか。

「いいか与謝野? 別にお前の言う事を表沙汰にするつもりはない。俺だけに話してくれ。それから裏で対策を練るつもりだ。他の先生にも言わない。約束する。だから俺に話してくれ」

 ……まぁ、俺にとって不具合の生じることでもないから一応言っておくか。

「教頭には申し訳ないが、アイツらは俺と若干関係している。だが仲間ではない。むしろ敵だ。何が目的かは知らないが、この問題は今日中に片付けておくつもりだ。だから安心してくれ」

「………そういう事か。だが今回ばかりは公になると停学もなりかねないぞ?」

「それを守るのが教頭の仕事でしょうが」

「……ふん。誰が守るか。まぁ、今回の事はさっき約束した通り、誰にも言わんからせいぜい頑張って止めてみろ」

「案外素直じゃねぇか……」

「これ以上止めても無駄だろう。特にお前は」

 教頭……俺はアンタの正体ぐれぇ知ってんだ。何でわざわざ俺に御手洗千春の守護を頼んだのか、なぜ暴力沙汰が起きてもかばってくれるのか。そしてなぜ、こういう話になっても止めようとせずに見守ってくれるのか。

 まるで、父親のようにな。


 だがあえて俺は口には出さない。もし告発すると、関係が崩れるかもしれないからな……。



 静かに教室へ向かった。すると教室の前には千春が歩いていた。

「よぉー……」

 だが、彼女の額にはグルグルと巻かれた包帯があった。

「ど、どうしたんだよその怪我!?」

「いや、大したことじゃないから。大丈夫」

「待てよ」

 俺には心当たりがある。さっき教頭から聞いたアレだ。

「お前、登校中にGSF集団にやられたんだろ」

「いや……ボーっとしてたら電柱に当たっただけだから。だから大丈夫」

 無理し過ぎなんだよコイツ。額だけじゃない。頬あたりにも殴られた痕跡が残っている。

「やっぱり今日は止めとけ。教頭から聞いた話によると、奴ら無差別に内の生徒を襲ってるらしい。どうせお前も被害者の一人なんだろ」

「……………」

 千春は目を逸らしつつ曖昧に頷いた。

「何があった。何人にやられた? 負けたのか?」

「……登校中に突然五人の男達にためらいなく殴られた。抵抗はしたけれど結局負けてしまった。でも私にもこういう経験だってある。負けたなら次勝てば……」

「アホか。女が『喧嘩で負けたらやり返す』なんて野蛮な事考えてんじゃねぇよ。これは俺の責任だ。必ず仇は討ってやるからジッとしてろ」

 ――許せねぇ。千春にも劣らない連中だとしたら、相当だぞ。


 加藤砺音……とか言ってたな。あのクソ野郎の指示か? それとも慎の指示か? いずれにせよ、俺はGSF集団を許さない。

 絶対に――絶対にだ――。


 憎悪しか心に残っていなかった。


 そして次第に下校時刻になった。ホームルームが終わった瞬間にカバンを持ち、早歩きで昇降口へ向かい、校門までも速く行った。



 今日で決着を着ける――!



 一度店に戻り、私服に着替えてから赤星地区へとJR線の電車で向かった。五時……電車はこの時間、あまり混んではいない様子だった。

 さて、通勤ラッシュの心配もなく、難なく赤星地区へ迎えた俺は早速例の集合場所へと向かった。


 着いた場所は情報通り木が無数に生えている森林地帯だった。人気がまるでない。果たしてこんなところにアイツら来るのか?

 しばらく待機していると、遠くから話し声が聞こえた。俺は木に隠れて待ち伏せした。


 そして要約奴らは来た。六時、丁度だ。

 予想通り黒い服装をした奴らばっかだ。かなり目立つ。だが慎の姿が見当たらない。後から来るのだろうか?

 そこには加藤砺音が先頭に立っていて、二十人くらいの男が群れている様子だった。二十人だ。結構多いぞ……。

 一体奴らは何をするつもりなんだ?

 耳をすまして奴らの会話を聞いてみた。

「Gグループは皆揃ってるか?」

「おう。全員いる」

「なら後はアイツら待つだけか……」

「そうだな。でもこんな事してなんか意味あるのか? わざわざ理性ある連中と合流したってやる事は変わらないんだぜ?」

「慎にも考えがあるんだろ。正直俺もアイツが考えてることなんて分かっちゃいねーが、こうするしかねーんだよ」

「はぁ、いい加減俺らにも話してくれりゃいいのによ」


 本当にコイツら、慎の事知らないのか。


 もうしばらく待つと、またも黒ずくめの集団が来た。今度は荒っぽい連中とは真逆、スーツを着た男達が二十人くらい来た。


 そしてその先頭には……慎がいた。

「よう慎。報告はあるか?」

 砺音が慎に声をかけると、慎はかけていたサングラスを外した。

「ある。こっちのグループは順調に進んでいる。どうやらサツも俺らを無視してお前らのところに目を向けているようだ」

「そりゃ光栄だ」

 ……ん? どういう事だ? 警察が武闘派のところに目を向けているから……光栄?

 奴らにとってはそれが喜ばしい状況なのか? 普通は警戒するべきだと思うが……。

「なぁ慎、何で今日わざわざ黄金美高校の生徒を締めるなんて指示かけたんだ? 俺は正直ちょっと可哀想な気もするが……」

 やったのは砺音グループだが、なぜ砺音が同情している? やったのはコイツだろ?

「邪魔が入ったからだよ。邪魔者がそこにいる。このまま続けられたら不都合だ。もし今夜もそんな事があったら明日も続行する」

 ……なるほどな。俺のせいか。だとしたら、これが終わったらボコされた奴全員に謝罪しなきゃな。


「何が目的なんだ慎? 何で俺たちに話してくれないんだ?」

「………何度も言わせるな。これは秩序だ。お前らに話してその情報が何かしらの形で漏れたら最期だからな。お前らが知っているのは、俺がハッカーを連れている。それだけ知っていれば十分だろ」

 情報が漏れたら最期……か。


 一方ハッカーと呼ばれる奴らは本当に細々としていて、武闘派グループに恐れているような構えだった。


 ――そろそろ行くか。


「話さねぇんなら、この邪魔者が直接聞いてやろうか?」


 木から出た俺を奴らは急に警戒した状態になり、慎は動揺もしなかった。

「て……テメェ! いつからそこにいた!?」

 砺音が罵倒した。

「生憎お前らが来る前からずっとそこで座ってたんだよ。ちょっとは警戒しろやバカが」

 そこで慎がニヤけ面で前に出た。

「そうかそうかぁ……。俺も予想はしてたが、アンタが諜報してたんかぁ……」

「見損なったぜ慎……。お前いつからこんな事……」

「……テメェんとこ離れてからずっとだよ」

 豹変した。

「いい加減にしろよ慎。反抗のつもりか? そんなに俺が嫌いだったか?」

「あぁそうだよ! テメェが嫌いで嫌いで仕方なくてムカついて、世間に思い知らせてやるんだよ! それに邪魔する奴は例えテメェでもぶっ殺してやるんだよバーカ!」

 ……ガキみてぇな考えぶち込みやがって……。舐めてんのかこの野郎……。


「お前、本当にそう思ってんのか? 本当にそれが目的でわざわざハッカーも連れてくるのか?」

「うるせぇ……」

「何か理由があってやってんだろ? お前が反抗のつもりでわざわざこんなことしてるとは、とても思えん」

「うるせぇなぁ……!」

「今、ココで全部吐け」

「うるせぇっつってんだろコラァ! テメェなんて兄貴と思ってねぇ! もう一度言う……邪魔者が例えテメェでも、ぶっ潰す!」

「そうかよ……」

 俺は手を握り拳にした。


 ……俺は、最初から間違っていた。


「……俺がオメェぶっ飛ばすから、安心しろや」


 最初から――ちゃんと躾けていれば――。


 あの時――ちゃんと叱ってあげれば――。


「根絶やしにしてくれるわクソ兄貴ィ!」


 慎は迷わず俺に拳を振り回した。

 周りの連中は唖然としていた。理性のある連中は当然、武闘派の連中も慎と俺とのぶん殴り合いに間を挟めないほどに呆然と立っているしかなかった。


 クソが……クソが! なんて喧嘩慣れだよ。

 なんて兄弟喧嘩だよクソッタレ……。こんなにも全力が出せる喧嘩なんて、滅多にないぞ……。

 慎の悍ましく嘆き、怒りしか詰まっていない顔と振ってくる拳しか、俺の視界には入ってこない。

 ……なぁ慎。俺は今、どんな顔をしている?

 俺は今どんな表情をしている? 死ぬほど怒ってる表情か? それか死ぬほど悲しい表情か? それとも死ぬほど笑っているか?

 ………まぁよく分かんねぇけど、とりあえず滅茶苦茶ムカついているってことに変わりはない。

 俺もコイツと同じ面構えをしているんだろうなどうせ。


 互いに罵声を放ち、互いに胸ぐらを掴み合い、互いにぶん殴り合って、互いに傷つけ合った。

 痛ぇよ……藤原の時より百倍痛ぇよ……。

 拳銃より痛いパンチってなんだろうな全く。コイツがどんだけ俺を憎んでいたのかがはっきり分かるくらいに。

 逆に、俺だってオメェをどんな手使ってでも何とかしなくちゃいけねぇんだよ……。オメェがどれだけ喧嘩が強くたって、俺より強いって事が分かってても、俺が何とかしなくちゃいけないんだよ。

俺は慎を救わなければいけないんだ。


 戦わずして……救いなし、だからよ。


 戦わなければ慎を救うことができない――、俺は力づくでしか物事を解決できない男だからよ、説得がダメなら分かるまで殴り続けるだけだ。


 教育がダメだったから……教訓するんだよ。

 最初から……コイツをぶっ飛ばしていれば……! こんな面倒臭い事にはならなかったんだよ……!


 お前は悪い奴じゃねぇんだよ。確かにちょっと活発な部分もあるが、決して横道にそれるべき人間じゃねぇんだ。

 せめて……こんな事もう辞めろ……。


 自分の弟を一人見失ったんだ。もう一人は見失わせない。目の前にいるのに、ココで諦める訳ねぇだろうが。


「慎と互角だと……?」


 群れている連中の1人が言った事がわずかに耳に入った。

 あぁ……そうだ。俺はコイツと互角になるくらい喧嘩をしてきた。殴りまくった。殴られまくった。骨を折られた事も、もう何度目だ……。

 並みの人間なら普通、折れて死んでもおかしくない背骨や首の骨も、なぜか今では治っている。

 もう慣れた。要約俺は慎に追いついたのだ。


 その極度の成長っぷりに圧倒されたのか、慎は一端引いて体制を整えた。


「……お前、一体何してたんだ? ボクシングか? 空手か?」

「何も。ただただ売られた喧嘩を買ってたら、こうなっただけだ。お前みたいにボクシングやってないんだよ」

 慎は一応、昔アマチュア級のボクサーとして活躍をしていた頃もあったが、すぐに辞めた。練習のサボり癖が原因だ。

 だがコイツの実力は誰よりも優れており、昔だったら俺にも劣らない奴だっただろうな。


 ……が、俺はもう絶対に負けない。


 例え相手が元ボクサーだろうと、弟だろうと、本気でやらせてもらう。


「喧嘩だけで……か?」

「そうだよ。おかげで自分のポリシーを見つけた。そしてお前を何とかするための糧になった」

「ふざけんな……。ふざけんなぁ!」


 ――なぁ兄貴、どうして友之いないんだ?


 ――知らない……。俺に聞くなよ。


 ――え? 昨日ちゃんと助けれたって、兄貴言ってたじゃん?


 ――助けれたよ。でも、どっか行っちまった。もう友之の事は忘れろ。


 ――……………。


 走馬灯のように、慎が失踪する前日の出来事が流れる。

 ………最後に慎が俺に浮かべた表情は、今とそんなに変わらない。

 ――何で探さないんだよ、兄貴。


 ――探しても無駄だからだよ……。


 ――無駄とかじゃなくて、普通どんな手使ってでも見つけ出すだろ? いつも兄貴はそう言ってたじゃねーか?


 ――無駄なもんは無駄なんだよ! じゃあどうすりゃいいんだよ俺は!? 世界中探し回って虱潰しに歩き回れってか? それで仮に見つかったとしても、俺にはもうアイツと顔向けできねぇ状態なんだよ!


 ――……ふざけんなよ。



 最後の言葉は、「アンタなんて兄貴じゃねぇよ」だったな。酷い最後だった。友之が最後に俺に言った言葉は「化け物」だしな。

 もうロクな人間とも扱われてないんだ……と俺は思っていた。


 そう、もう人間とも思われなかったんだよ。


 慎だって俺を幻滅したと思うが、俺だってこの世の仕組みに失望してたんだ。……だけどそれでも、俺が弟達を見離してしまった事に変わりはない。

 そういうつもりがなくても、事実は事実だ。

 だから……せめて今目の前にいるただ一人の弟だけでも、救ってあげられないだろうか?

 俺の拳は、人を救うことができるのだろうか?


 ――救える、きっと。


 どこからか、そんな声が聞こえてきた。


 もう殴られ過ぎて頭おかしくなっちまったのかな。慎のパンチは相変わらず速い癖に強いんだよ。正にボクサーって感じだ。


 慎、今のお前の顔は凄まじく悲しい顔をしているぞ。いつもいつもしかめっ面なのに、キレた顔は強烈の更に上を超す何かになっているぞ。誰だって怖がるに決まってるだろ。その上アザだらけ、傷だらけだから、もう誰も近寄りたかねぇよ。

 だが俺の顔だって、人のこと言えない状態だろう。コイツを何とかしなきゃいけないって事しか頭に入ってない俺の顔に出てる表情は、どうなっている?


 忘れるな。これは、兄弟喧嘩なんだよ。あくまでもな。


 兄弟喧嘩は……兄貴が勝たなきゃ……格好悪いだろうが……!




 隙を見せた慎に、俺はふところを狙って地面を思い切り蹴り、慎の脇腹まで体を寄せた。

 拳がいつでも慎の顔の中心に直撃してもいいようにした体制だ。

 慎は既に体制を崩しており、最後に「覚えてろよ」などと言いそうな悔やみ顔で俺を睨んだ。


 あぁ、覚えてるさ。

 ごめんな、せめてお前だけでも見離さなければよかったのにな。


 俺は腰を思い切り振り、その勢いと同時に腕が自然に振り下ろされ、手の甲は案の定、慎の鼻へ直撃された。

 奥の奥まで拳は深くいき、血も無造作に吹き飛んでいった。


 慎は勢いよく遥か二十メートルくらい先にぶっ飛び、群れの方はもはや何一つ喋る事はできなかった。


 俺は、黄金美町最大勢力を誇る集団のテッペンを倒した。


 ……もの凄く痛い。もはや俺も立ってはいられない状態だ。コイツだって十分化け物じゃねぇか、まったく。


 さて……これからどうするかな。


 砺音が俺の前に立った。

「………Gグループの負けだ。お詫びする」

「別に俺はGSF集団を潰すために来たんじゃねぇんだ。悪さするんならバレない程度にやっとけ」

「……。ちょっと慎のとこ行って来る。兄貴さんも一緒に来てほしい」

 何だ?


 砺音と俺は泡を吹いて仰向けに倒れている慎の元へ行った。


 頬を叩くと、慎はハッと目を覚ました。

「…………クソが……」

 砺音がその場で座った。

「慎、もう辞めないかこんな事?」

「砺音……テメェまでそんな事言うつもりか……!」

「アンタは俺らに何も話してくれない。これ自体がおかしいんだよ。俺達は仲間だろ? 何で信じてくれないんだよ?」

「うるせぇ! テメェに何が分かる? テメェが知ったところで何とかなる問題じゃないんだよ!」

「それでも信じあいたいんだよ俺は! ロボットみたいに動きたくないんだよもう!」

 ロボット……? コイツら慎の命令通りに動かされてるだけなのか?

「おい砺音、どういう事だ? お前らまさか……」

「あぁそうだよ。俺らGグループは、別に恐喝とか強盗とかしたくないんだよ別に。ただただ慎の命令に従ってただけだ」

「なっ……」

 一体どういう事なんだ……?

「慎、お前、自分の手汚さずに仲間にそんなこと……」

 慎は俺を鋭い目で睨みつけた。

「……は。まぁおかげで仕事は進めれた。良い糧になったぜ」

「仕事ってどういう事だ。お前、このスーツの男達は一体どういう奴らなんだ?」

「コイツらはハッカーだよ。コンピュータ操作で情報をあっという間に見つけ出す能力がある優れた野郎共だ」

「何で情報が欲しい? 何が目的だ?」

 慎は要約立ち上がり、息を荒らしながらも俺の胸ぐらを掴んだ。


「テメェが友之を探そうともしなかったから、俺が見つけ出そうとしてココまで辿りついたんだろうが!」


 そう、この言葉がくるまで、俺は何一つ慎の気持ちなんて分かっていなかったんだ。

「え……と…友之……?」

「あぁそうだよ! 友之とアンタに何があったか知らねぇけどよ、大切な弟を見離したのはアンタなんだぞ!? だから友之は今でも行方が分からないままなんじゃねぇか! 分かってんのか!?」

「待て……お前、じゃあ何でこの武闘派もわざわざ作ったんだ?」

 そこで砺音が乱入した。

「そっちのハッカーグループのやってる事に対して俺らの犯罪で目くらましにするためだよ」

 目くらまし……だと?

「あぁ……砺音が言うとおりだよ……。友之は絶対いる。生きてるはずなんだから……。だから俺は、俺はココまでして……! ……でも、あと一歩ってとこでアンタが黄金美高校にいるって事が分かった。だからちょっと見に行った。だがアンタは……、アンタは友之の件なんて全然目にもくれずに偉そうに俺に説教くれやがった……! 見損なったよあの時は……」

 もはや慎は泣く表情へと変化していった。

 ……そんな……、慎が友之の事をここまで心配していたなんて……。


「悪かったよ、慎。お前の気持ちも分かってあげられなくて……」

「もう、いいよ……。俺は一人で友之を探す。もう他の奴に迷惑なんてかけられねぇ。だからもう放っておけ……」


 忘れていた。慎は、誰よりも仲間意識が高く、昔から仇を討つことが多々あった。俺が慎に守られたことだってあったんだ。

 そんな良い奴が、急にいなくなった友之を心配しない訳ねぇよな……。


 俺はなんて情けない兄貴なのだろう……。


「本当、ごめん……。慎の気持ち、俺が一番分かっていなかったんだ」

「……………」


 俺は深く頭を下げた。


「……なぁ、アンタ今でも友之の事心配してんのか?」

「そりゃしてるに決まってる。ずっと待っていた。いつどこで会うか期待もしていた。だけど、本当はちょっと諦めていた。だが今でも必死に対策を練っている慎には、本当に申し訳ない……!」

 これで許してもらえるとは思っていない。だが、最大限の詫びをしたい。慎の気持ちを何一つ分かってあげられなかった俺は、その義務がある。

「……じゃあさっさとその頭上げてくれよ」

「え?」

「俺はアンタを許した訳じゃない。だが、ちょっと期待している」

「それって……」

 背を向けていた慎が、清々しい笑顔で振りむいてくれた。



「また三人で笑える日がやってくるといいな、兄貴」



 その表情は、人生で初めて見た慎の表情だった。

 俺はとても嬉しかった。泣きたいくらいに嬉しかった。俺を五年ぶりに兄貴と呼んでくれたことも。


 やっと……一人弟を救えた。


「なぁ慎、お前が作ったこのGグループって奴、どうするんだ?」

「そうだなぁ、やっぱ砺音がヘッド引き継ぐしかないんじゃね?」

 そう、つまり慎は引退することを宣言した。


 他の連中もそれに嘆き、砺音も驚いていた。

「慎!」

「ん? 何だ砺音」

「俺は、いつかお前の本当に信頼できるツレになりたいからよ。いつかまた内に来いよ!」

 慎は黙って親指を立てて行った。



 はぁ、やっと解決だ。ココまで長いとは思わなかった。


 その後、慎は俺の移住している店に訪れ、彼は俺に全てを話した。

 どうやら俺が入手した情報は全て本当らしく、ハッカー集団と武闘派集団が分かれていた。

 ハッカーは友之を探すために少しでも情報を得ようと雇わせ、そのわずかな罪を目くらましするため、なるべく凶悪で強い奴らを集めて武闘派集団を創ったらしい。

 まぁ、慎なら相手が何だろうと力づくで入らせれるのは可能か。


「それにしてもよ、お前何でそんな髪型にしたんだ? 半分メッシュで半分コーンロウって、完璧ヤバい奴って見られるじゃないか」

「これはタダのイメチェンだ。トップになるんだから少しは威厳見せないといけないだろ? それより兄貴だって、何でわざわざ金髪にしたんだよ?」

「そ……それはアレだ。イメチェンだよイメチェン……」

「嘘つけ。不良になりたいからって気張ってんじゃねーよ」

「うっせー! 俺はな、ポリシーってのがあってだな!」


 まさか慎とまた笑える日を迎えられるなんて、思ってもいなかったな。



 あ、そうだ。聞き忘れてたことがあったな。

「なぁ慎、御手洗千春って知ってるか?」

「……誰だそれ?」

「その女、お前の事よく知ってるらしくてよ、過去に結構話してるんだと思うんだが……」

「女? 俺は女遊びなんかした事ないぞ。彼女も一度も作ったことがないし」

 意外過ぎる……。こんなチャラ男が彼女歴なしって……。

「そうか。変な事聞いてすまんな」

「人違いか何かじゃないのか?」

「多分……な。俺はそう信じたいところだが。アイツ何考えてんのかよく分からないからな俺でも……」

「何だ? お前もその女と関わりがあるのか?」

「まぁな。急に転校してきてよ、そんでちょくちょく俺の手助けをしてくれたんだよ。前なんかアイツに救われたこともあったしよ」

「…………」

 慎は妙に難しい顔をしていた。

 何か心当たりがあるのだろうか?

「何か、知ってんのか?」

「いや……気のせいだと思うから、確信があってからにする」

 何だ…?

 慎と連絡先を交換し、彼は店から出た。


 それにしても、長いようで短いのか、時間の感覚が分からない戦いになったな。決して無駄なものではないだろう。


 時は過ぎる。


 そう、今もまた。


 だが、まさかこの後窮地に立たされることになるとは、この時までは知る由もなかった。


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