情報
時は過ぎる。今もまた。
だが俺のモヤモヤはいつまでも過ぎない。今もまた。
突如再会した俺の弟、与謝野慎に俺は激怒して喧嘩寸前になったが、慎はそれに動じずその場を去った。
途方に暮れた俺は夜の街を回っている間、数週間前に学校校門前で事件を起こした首謀者の里宮純二とも再会した。
ふてくされていた彼を励ましていたが、いつしか彼が俺を励ましていた光景にも達していた。
だが会話をしている内に里宮は俺の弟、慎の正体を告げた。
俺の弟の正体は――ギャング集団のリーダー。
俺はそこで決心した。戦う、と。
もう取り返しのつかない域まで達してしまったのだ。ギャング集団とは、犯罪を犯す集団の事だ。それは喧嘩、恐喝、強盗、強姦、窃盗、数多くある。
許されざる者、だ。
実は俺は前からGSF集団の存在を知っていた。奴らは黄金美町最大の力を持ち、超が付くほど武闘派な奴らばっかだ。数だって少なくない。
普通の不良集団は大抵舎弟が腰抜けた奴が多くて相手にもしやすいが、GSF集団だけは違う。
あくまでも奴らは『ギャング集団』だ。舎弟のいずれかは既に犯行で逮捕されている。もう五分の一は刑務所の中なのだ。
それでも抗い続ける……そこのアタマは一体何を考えているんだ?
俺は時々そんな事を思っていた。
だがまさか……俺の弟がその張本人だなんて……信じたくもない。
それまでは警察が何らかの対策でその凶悪グループを全員逮捕するのではないかと思っていたが、もう俺は我慢できない。
俺の仲間に手は出していない。俺にも手を出していない……とは思っていない。
既に俺の仲間が悪者になっているんだ。もっと早く気付いておけばよかったんだよ!
これは絶望的な希望だ。
学校では皆が皆「昨日は楽しかったね~」とか色々楽しそうに明るくなっていたが、俺だけはそのテンションについていけない。
とてもじゃないが無理だ。
「アンタさ、昨日何で知らん間にか消えた訳?」
美里がかんかんに怒っていた表情をしていた。
「色々あってな……」
「アンタ、昨日階段ものすごく勢いで走って、その後は真かと思ったら変な人が階段下りてって、その後アンタがトボトボ階段下りてって……一体何があったのよ? あの人知り合い?」
「うるせぇ。お前には関係ない事だよ。いいか? その変な奴ってのとは関わるなよ。何が何でもな」
「アンタに指図されなくとも、関わる機会なんてないし……」
チクショウ……。もう悩みまくりでイライラする。
「君、店でも全然声かけてくれなかったし、何かあったの?」
次は千春が声をかけてきた。
「お前には関係ねぇよ。ほっとけ……」
これは俺と慎だけの問題なんだよ……。他の奴には関係のない事だ。
ユリは明るい表情で他の人ともワイワイ話している様子だったので、安心はしたが何かモヤモヤする。
どこへ行ってもモヤモヤする。イライラする。ムカムカする。
そう思った俺は校庭の裏にある、誰も来ないような場所で一人、コーヒーを飲んでいた。もちろん缶コーヒーだ。
………今はどうするべきか。
まずは慎を探し、奴が今どういう状況なのかを探る……。そして場合によってはアイツをぶっ飛ばす覚悟をつける。それしかない。
「やっぱりココにいたのかい」
「……!」
なぜここが分かった? なぜいつもこの女は、俺の居場所が分かる?
またしても、千春だった。
彼女は俺の横に座り、置いてある缶コーヒーを持って勝手に飲んだ。
「おい……それ俺の……」
「生憎私も、モヤモヤでイライラでムカムカしていたんだよ。今の君と同じでね」
コイツエスパーか? 俺の気持ちまる読みじゃねーか!
「君にこの前、本を貸したよね?」
「あ……おう。あれな」
そういえば、『フィルモット・エターナル』だっけな。
「世の中には色んな人種が存在していて、それは黒人白人、発展途上で生きる者、様々。フィルモットはその人種の中の一つ」
まだコイツそんな事言ってんのか……。
「その割に、全然公になってねーじゃん。結局都市伝説か何かなんじゃねーの?」
「違う。君もこの研究書を読んだなら感じたはず。人類の危機が」
「人類の危機? 確かにそこにはそんなような説明が丁寧に具体的に書いてあったが、俺は信じれない」
「そうかい。でも君はあの本を読んだ以外でも、どこかで『人間以外にも何か存在しているのではないか?』と思惑をしたりしてるのでは?」
……何て奴だ。コイツ、俺の図星を突き続けている。
「私は君がそんな思惑を上げているにも関わらず、それを信じようとしない事にモヤモヤしたりイライラしたりムカムカしているんだよ」
「………は? どういう事だ? 何が言いたい?」
コイツはさっきから何を言ってるんだ?
まさか本当に……何かが存在しているとでも言いたいのか?
「君は純二との決闘、藤原大五郎との決戦で何か思ったはず。それは自分を圧倒的に尊重することでは?」
――『俺は強いから』――『俺は力で何とかしようとする奴らには絶対に負けない自信がある』――。
心当たりは至るところから引き出せた。
これも図星だ。
「話は跳ぶけれど、あの研究書に書かれていた『数年前の人体実験』については、把握しているよね?」
「あ……あぁ。だがその人体実験の成功と失敗は最終的に明かされなかったとの事だよな?」
「あれは『フィルモット研究会』という組織に元々所属していた男が許可なくやった実験なんだよ。既にその男はその頃組織から追放された身だったけど、彼はそれでも実験を続けていた。しかし何者かに殺害されたゆえに実験の行方は不明なんだ」
そんな事はあの本に書かれていなかったぞ? 他の本を読んだのか千春は?
「しかもその実権は、成功か失敗かを計る合間に男は殺害された。意味、分かる?」
――――意味、分かった。
「まさか……!」
「そう、もしその人体実験が成功していたら?」
血の気が引いた。
つまり、その人体実験が成功していたら、その人体そのものが今もどこかで彷徨っているということだ。
それも、化け物と呼ばれるフィルモット・エターナルが……だ!
「……いやいや、まさかぁ……」
冷や汗をかいているにも関わらずして俺は信じることから逸れた。
「それと、君も読んだはずだけど、『五年後の予知悪夢』と『十年後の予知悪夢』は知っているかい?」
「あ……あぁ。五年後になると、フィルモットの件について関わる重要人物が殺害されて、十年後には世界がフィルモットに侵されるとかいう話だろ?」
「そう。デタラメだと思ってるでしょ?」
「まぁ……。根拠があまりにもなさ過ぎるからな」
「そうかい。でも君はいずれ分かるよ。根拠なら、いくらでもあるからね」
千春の言っていることが俺には理解できない。
彼女は俺に自分の妄想を語りたいのか、この世界が本当に終止符を打たれてしまうのか。
根拠はある……か。
「ところで、君の悩みはなんだい?」
話しの変わり目がそこかよ……。
「お前は悩みが晴れたのか?」
「これ以上何を話しても、話は進まないと思ったからね。君の今ある悩みを私に相談しておくれよ」
「……………お前、兄弟喧嘩ってしたことあるか?」
「一人っ子だからそんなのはないね。もしかして、兄弟と喧嘩でもしてしまったのかい?」
「いや……まだしてない。だが、しなくちゃいけない状況ができたんだ」
「どういう事?」
「聞いてくれるか?」
千春は微笑んで頷いてくれた。
俺は自分の弟、慎がいて、そいつは五、六年前にどこかしらの反抗心があったのか、いつしか失踪した。だが最近になってその弟が俺の前に姿を現し、その姿は五、六年まえと何も変わらず、むしろ悪化していた様子だった。そしてその夜里宮と会い、慎はGSF集団というギャングのリーダーだったことが発覚した。
という事を具体的に説明した。
なぜか千春はそこでクスッと笑い、手で口を隠した。
「何がおかしいんだよ」
「いや、ごめんなさい。やはり兄弟喧嘩とはそういうものかと思って」
「どういう事だよ?」
「真。君やっぱり弟というのを放っておけない人でしょ? その慎っていう人の事、本当は大好きなんじゃないかな?」
「な……何だよ! メチャクチャうぜぇよ! 人にあんだけ心配かけといて久しぶりに会ったと思ったらいきなり煙草吸い始めるし……マジムカつくわ」
「ふふ、まぁ兄の立場からするとそうなるね。私もGSF集団の事についてよく聞いたことがあるよ」
「そうなのか…?」
千春がアレを知っていたとは……。
「数が多い割に1人1人がものすごく武闘派。黄金美町ではかなり有名な愚連隊だね」
「そこまで知ってるのか。バラードとどっちが強い?」
「そりゃあGSF集団の方が勢力も実権も握っているでしょう。リーダーは何を考えているのか、私としても全く分からないけどね」
「単に自己満足しているようにしか思えねーけどな」
「いや、そうでもないらしいよ」
「……は?」
「私は与謝野慎がどういう人間かはまだちゃんと把握していないけれど、彼は案外悪い事をする事よりも更に深い事情を抱えて動いているように見える」
コイツ……まるで慎と会ったかのような口調で――。
「お前アイツと会ったことあんのか?」
「ない。けど、あるわね。何回も」
「……はぁ? 意味分かんねー。あるんなら結構問題だぞ」
「まぁ、今の慎とは全く関わっていはいないけど……。まぁ、やっぱ変わるよね人は……」
何言ってんだコイツ? まるで昔はよく会ってたような感じに……。
「でもこれだけは言っておくよ。与謝野慎は反抗心を沸いている訳ではない」
「どう見ても世間に反抗しているじゃねーか」
「実際に調べてみるといいよ。それか本人に聞き出すか」
「聞き出すのは難しいな。なら調査する必要がある」
「私も協力する」
「ダメだ。危険すぎる。相手は犯罪を平気で犯す連中ばかりだ。仮に慎がそうじゃなくても他の連中が危険に達する」
「安心して。私は服を破られるほどの不用心ではない」
「はぁ……そうかよ。好きにしろ」
下校後、俺は千春と共に帰り、店で早速私服に着替えて店の前で彼女を待った。
俺の私服はいたってお洒落。白いパーカーに白いスウェットズボン。おまけにニット帽をかぶっている。とはいえこんな格好普段する訳ないけどな。GSF集団は真っ黒な感じの連中が多いのと裏腹に俺は真っ白い感じのイメージをつけたいだけだ。白黒がハッキリするしな。
店の扉が開いた。
御手洗千春の私服はー………。
「お前そんなキャラだっけ?」
「先週買ったんだけど、どうだい?」
「どうって言われても……」
紺色のパーカーに太ももまで見えるデニムパンツって……。
「それより君の格好も唖然に値するものでは?」
「これは今回のための服装だ。こんな格好すれば余計な一般人からも避けられて調査しやすいだろ? それに、こういう格好を不良が見ると、絡まれるケースが大半だしな。むしろそこで聞き出しやすいんだ」
「そう。じゃあ行こうか」
デートのように街へ行った。少々恥ずかしいが、まぁこれも調査の一環だから仕方ないだろう。
……さて、まずはGSF集団の溜り場を探るか。
街にある商店街に到着し、そこにいる「黒い連中」を見つけ出す。俺と千春はその黒い服装をした連中を見つけては職務質問のように聞き出し、それがおよそ一時間弱かかった。
……だが、絡んだ連中は全てGSF集団とは関係のない奴らばっかだった。どうやらあのギャング集団に憧れている奴らも少なくもなく、黒い服装で群れる奴が多いとのことだ。
一つ手に入れた情報。それは、奴らは商店街や繁華街のような表向きに生きる奴らではなく、地下街で群れるケースが多いらしい。
黄金美地区にある地下街を下り、できるだけ影が薄く、暗いところを探した。奴らは大抵そこに生息していると思ったからだ。
しかしどんなに暗い場所をあたってみても奴らが群れているところは一度も発見できなかった。
一体どういう事なんだ? やはり地下街で生息しているのはガセか?
俺と千春は諦めて地下街の出入り口、いわゆる上り階段へ向かっている途中、事件は起きた。
――ドカ
「おい、肩外れちまったんだけど?」
紛れなく肩をぶつけた相手は、体格がデカくて厳つく、そして――。
黒い服装をした奴だ。……いや、まさかな。俺と千春は今、店も並んでいる地下街のど真ん中だ。そんなところに堂々と歩き回っているとはとても考えられない――。
「おい聞いてんのかテメェ? ごめんなさいくらい言えねぇのかよコラ?」
腹が立ったのか、千春はその男の頬をもの凄い勢いでぶん殴ろうとした。しかしそれでは状況もまずくなるし、この男からも聞きたいことがある。
結果、俺は千春の腕を掴んで殴打を阻止し、男に謝罪した。
「ご……ごめんなさい。お詫びと言っては何ですけれど……」
財布を取り出したその瞬間――。
「止めろ。俺はテメェに恐喝したかねぇんだよ。今度からは気を付けろよ」
何と、さっきまでバカそうに顔を寄せて罵倒していた男が急に真面な表情となって俺の手を止めた。
――普通じゃあり得ない。
「ちょっと待ってくれ。お前、GSF集団の一員か?」
先へ行こうとした男を引き止めた。すると、男は更にしかめて振り返った。
「………だったら何だよ?」
「そんな犯罪グループの一員で、なぜ今止めた?」
「お前に関係ねぇ。Gグループはそんな低レベルな集団じゃねぇんだよ」
Gグループというのはきっと、GSF集団の俗語だろうな。
……なるほど。俺は少し甘い考えをしていたかもしれない。奴らは他の不良集団ではないんだ。あくまでも犯罪集団。
という事は、カツアゲなどの低レベルな罪は犯さず、更に規模のデカい犯罪でも犯しているというのか?
あらゆる舎弟が刑務所に送り込まれたというのは聞いたことはあるが、その犯行内容は一度も目を通した事がない。
気が付くと男は既に姿を消していた。
「よく分からねぇが……奴らは俺が思ってたのより更にヤバそうな臭いがする」
「そう思うかい? もっと人を聞きつけていく?」
「いや、今ので十分手掛かりは得た。だが奴らが具体的に何をしているかはまだ分からない」
「どうするんだい?」
「黄金美警察署に行って書類を見せてもらう」
「断られるよ。警察は個人のプライバシーに関わる情報は提供しないから」
「チッ……。じゃあどうすりゃいいんだよ……!」
「慎本人に聞くのが一番早いんじゃないかな?」
やはりそうなるか……。だけどアイツの行方が分かれば苦労しないんだよ。そのために溜り場を探ってるっつーのに……。GSF集団に関わる人間を一人見つけれたがあくまでも単独行動だった。群れている連中は一度も見かけることがなかった。
だが奇遇にも、チャンスはあった。
俺の携帯が鳴った。電話だ。そして美里からだ。
「何だよ? 今忙しいんだっつーの」
「ごめん。でもちょっと話さなくちゃいけない事があるの」
珍しく美里が真面目な口調だ。何かあったのだろうか?
「……何だ」
「今から黄金美地区の珈琲喫茶カフェ店来れる? 場所は一絞りになってるはずだわ」
「ん……知り合いがおるんだけど。そいつも行っていいのか?」
「独りで来て、お願い」
「そうか……。まぁちょっとだけだぞ」
電話を切った。
美里が言っていた喫茶店は前にも行ったことがあるので場所は把握してある。
「悪い千春。少しだけ時間潰していいか?」
「構わない。私は他のところで待ってる」
早速俺は美里が言っていた店に行き、カフェの中の奥の座席で待機した。
――アイツが話さなくてはならない事と言ったら――。
「お待たせ」
私服姿の美里は俺と対面した席に座り、店員が来てから俺はカフェオレ、彼女はイチゴオレを頼んだ。
ちなみに彼女の私服は俺が思っていたのとは大分違う。もっとギャルっぽいのを想像していたが、実際は清楚極まりなく明るい服装だった。
「急に呼び出してごめん。でも、私はアンタをちゃんと友達だと思ってるから」
友達だと思われてるのは承知の上だけど……何が言いたいんだコイツ?
「まぁ俺もお前を友達って思ってるからんな事は承知の上だ。で、何でココに呼び出したんだ?」
「………私が内のクラスの副級長になった理由、知ってるよね。新しい教室で馴染めなくて、困っていた私を救ってくれたの、「アンタ」だって、自覚持ってる?」
……あまり覚えていないが、若干身に覚えがある。
「ま……まぁな」
ふてくされていた時の話だ。
――俺が四年もかけて要約三年生に進級し、もうダルいと思っていた時に、教室の隅で独り窓越しをボーっと見つめて友達とも話さずいた彼女に声をかけた。
『お前、友達とは話さねぇのか?』
すると、彼女は不愛想に振り向いた。
『……友達なんて必要ないわよ。つか、アンタ誰?』
『与謝野真だ。お前は?』
『……加倉井美里』
どことない普通の自己紹介で終わった。
しかし、彼女は下校後も友達と遊ぶ光景は全くなく、適当に日々を過ごしていたようにしか見えなかった。
……そういうボッチも中にはいる。そう思った。
しかし世の中そんなに甘いものではなかった。
彼女は虐めにあっていて、それは男女関係なくされていたんだ。女からは呼び出されては水をかけられ、男子には金をゆすられ、酷い状態だ。
それに気が付いた俺はある日、下校後に、複数の男子生徒が彼女をトイレにまで連行する様子を偶然見かけた。それも強引に。
後を追った俺は男子トイレへ行き、奥の方を確かめると、今度は襲われていた様子だった。
弱い人間を欺く奴らを、俺は許さなかった。
そして俺はその頃も『自分は強い』と思い、その場でその男達を全員残らず殴り蹴り、失神させた。
教師に目をつけられ、なぜか俺だけ無期停学。
停学が終わり再度学校に行くと、それは俺を不良やらチンピラだの呼ぶ噂が広まり、俺は嫌われ者になった。
学校で浮く存在となった原因はそこにある。
――時は戻る。
「私が今、ユリやアンタ、千春と仲良くできたきっかけは、アンタなんだよ? 私、アンタに救われたと思っているの」
「んー……。そ、そうか。まぁそれは良い事なんじゃね」
「だから、私もアンタを救いたいの。恩返しくらいさせてよ?」
「恩返しっつっても特には……」
「真。アンタ、今何か悩んでるんでしょ? いい加減私に話してよ。私だってアンタの友達なんだし……。相談くらいしてよ……」
段々美里は涙目になり、泣きそうな表情へと変化した。
……頼りにされないのがそんなに苦しいのか?
「わ……分かったよ……。でも、お前じゃどうしようもない問題だから、話聞いて終わるだけだと思うけど…」
「いいよそれで。でもできるだけでも力になりたいから」
カフェオレを一口飲み、全てを話す体制に入った。
「俺はこの前俺の弟と、五年ぶりに再会した。お前もこの前文化祭の時、『変な人が通ってった』って言ってただろ?」
「え……アレまさか、弟さんなの?」
「あぁ。与謝野慎だ。だがお前、アイツを見た時最初どう思った?」
「………ちょっと怖い人、だったかな……」
「その通り。ちょっとどころじゃない、怖い人なんだよ。ヤクザと同じくらい関わってはいけない男だ。俺だって、あいつの兄貴じゃなかったら今頃避けてただろうな」
「でも、その人がどうしたの?」
「アイツは五年前、不良と絡んでいつしか俺の元から姿を消した。そしてこの前、五年ぶりに再会した。だがアイツはあんな髪型になっていて、おまけに煙草を吸い始めやがった。何か言う事はねぇのか? ってずっと期待していたが、俺がバカだった。
アイツは犯罪グループの頭なんだよ」
「え………そうなの? 何で?」
「多分、不良になって更に悪事を働きたくなったんだろうよ。ホント、ろくでもねぇ野郎だよ。だから、お前はアイツとは一切関わるな。兄弟とはいえ、いくら性格が似てようが、人種は違う」
そう、アイツと俺は生憎、性格が極端に似ている。だからきっと美里も、もしアイツと関わったら俺と話している時とほとんど同じ感覚になるだろう。
「まぁだから、今俺はアイツがどんな愚連隊を連れているのかを徹底調査してたんだよ」
「そう……なんだ」
美里には心配かけたくない。ただそれだけであったが、まさか頼りにされないということで悲しまれるとは思わなかった。
というか、彼女がまさか俺の事をそこまで心配してくれているとは思ってもなかったんだ。
もうあんな時の恩なんて忘れて、俺なんてどうでもよくワイワイ遊んでいるだけだと思ってこっちもスッキリしていたというのに。
「まぁそういう事だ。慎は何を考えているのかよく分からないが、お前には関係のない話。これで分かっただろ?」
「関係ない……? 私言ったよね? アンタの恩返しをしたいって。それで『はい関係ありませんね』とか言って流す訳ないでしょ? 私も何かしら協力するわ」
はぁ……巻き込みたくないってのに……。
「じゃ……じゃあ、その辺の街の人達とかに、GSF集団の情報をできるだけ聞きこんでくれ。情報を掴むことができれば問題ない」
「なら今からやるわ。ありがとね、頼ってくれて」
「えっ……。あぁ、うん。まぁ無理だけはするなよ」
美里はカバンを持って立ち上がり、レシートを手に持った。
謙遜して俺は代金を全て出した。
店から出て、最後に美里はこう言った。
「私、真の事どうでもいいって思ったこと一度もないから。だから困った時はちゃんと相談して」
「お、おう。気を付けろよ……」
はぁ、たまには以外な面も出すもんだなアイツ。別に俺だってアイツをどうでもいいとか思った事はないけどよ。
さて、千春のとこに戻るか。ちょっと時間潰し過ぎたな……。確か集合場所は中央広間だったな。
しばらく歩いて、中央広間に着くと、そこにはちゃんと千春がいた。
しかし、彼女はもう1人、妙な男と会話していた。
……一体誰だ? 慎には見えないが……いずれにせよ柄の悪そうな奴だ。
「おい。お前誰だよ?」
その男に声を掛けると、しかめた顔でコッチを向いた。
「あ? お前こそ誰だよ?」
「今千春と話してただろ? 何話してたんだよ?」
すると千春が俺の腕を叩いた。
「真。この人は別に怪しい行動をとるべく私に話しかけた訳じゃない。だから話を聞いて」
「………コイツ誰だよ」
男が先に話した。
「俺の名前は加藤砺音だ。Gグループのナンバー2を仕切ってる奴でな」
Gグループ……コイツGSF集団の幹部なのか?
「妙な動きを見たという報告が来たから聞き取り調査してるって訳だ。お前か? その妙な動きをしたって奴は」
「そうだが。お前ナンバー2の癖に何でパシられてんだよ」
「俺が気になって行動してるだけだ。勘違いするなよ。いいか? お前らGグループにたてつくような真似だけはすんなよ。俺が一番面倒になるからな」
「何だ? 喧嘩上等の武闘派ギャング集団なんじゃねぇのかよ?」
「表向きではな……。お前、一体何がしたい? 内に何か恨みでもあんのか?」
ちょっとした調査にも警戒するとは……。どういう事なんだ?
「恨みなんかねぇよGSF集団にはよ。だが生憎、お前の上に立ってる奴が俺と血が繋がった弟だからよ」
「……何? 慎の兄ってことなのか? バカな事言うな」
「俺の目玉見てわかんねぇか? アイツと俺の目はほとんど一緒なんだよ。それもかなり典型的な目つきでな」
砺音は俺の目をまじまじと見て、頭をかいた。
「んー……確かによく似ているな。そうか……アイツに兄貴なんかいたのか。言われてみれば髪型以外全部同じじゃねーか……喋り方も」
「だろ。俺とアイツは生憎ほとんど同じなんだよ。でもアイツは一つ過ちを犯している。だから俺が何とかするしかねぇんだ」
「……そうか。じゃあそこの女は一体?」
千春が前に出た。
「さっきも話した通り、私はこの人の彼女。協力しなければいけない義務がある」
何フカシこいてんだコイツ――!
「なるほど。じゃあ兄貴さんには申し訳ねぇが、残念ながら慎は何も悪くない。アンタが出る幕がないってことだ」
「……は? 意味分かんねぇ。暴力とかの罪を犯す集団のトップに立つ男に責任がない訳ねーだろ。お前かばってんのか?」
「かばうも何も、事実アイツは何も悪い事はしていない。Gグループに喧嘩を売るんなら、俺がトップとして責任を持って買うぞ」
ナンバー2のコイツが何でトップとして仕切る必要があるんだ……? まさかこの男は慎になすりつけられているのでは?
「お前、アイツに騙されてるんじゃねぇの? もし捕まったらお前が全部責任負う羽目になるって事だぞ?」
「騙されてない。アイツは俺にちゃんと事情を話した。だから俺はそうしなくちゃいけないんだ」
「事情って何だよ……?」
「それは言えない。これはGグループの秩序でもある。公にすれば秩序が壊れる。それがGグループなんだよ」
秩序…? たかが犯罪組織だってのにそんな面倒な事があるってのか?
「とにかく、兄貴さんには大変迷惑をかけているようで申し訳ないが、Gグループに喧嘩を売りたいなら、俺が相手してやる。それ以外に余計な事はするな」
砺音はそのまま立ち去った。
さっきからアイツが言っていた事はまるで、犯罪組織ではない別の事を示しているようにしか聞こえない。わざわざヘッドが幹部に仮ヘッドを与えられる事情があって、それを公にすれば秩序が壊れる……。これ以上に知られてはいけない都合でもあるのだろうか?
犯行内容を徹底的に調べる必要があるな。できるだけ多く、舎弟たちが侵してきた犯行内容を具体的にだ。
警察署に行っても無駄と言ってたな。
……ならば過去の新聞を徹底的に集め、それを全て読み尽くすしかない。地道で苦戦するが、手掛かりを得るためにはもうこれしかない。
「千春、この辺に新聞売ってるところあるか? なるべく古いところから現在まで、幅広い範囲で」
「現在のはあるかもしれないけれど、過去のを入手するのは難しいかもね。新聞屋に行ったらどうだい?」
……やるしかねぇか。
本人の居場所も知らねぇし、どうやらこの調子だと舎弟や幹部は「秩序」とかの問題で話そうともしないし。力づくで何とかできる問題ではない。
俺は今までの中で一番頑張る一日を送るかもしれない。
地道に黄金美町をぐるぐる回って過去の新聞を買い、新聞屋にも注文したり、それでもない場合はどこかの人んちに訪れていらない新聞を寄こしてもらった。
千春にも協力してもらって苦労は半分になったが、やはり疲れた。
気が付くともう十時だ。美里はそろそろ帰って寝てるとは思うが……。
千春との集合場所はネットカフェ店にしておいた。俺は帰って一度千春の部屋をノックし、返事が返ってから入った。
入ると千春のベッドには無数の新聞紙が置いてあり、その横に俺も無数の新聞紙を置いた。
「こんだけ集めれば問題ないだろ。俺は集めてから一つ一つ読んでったが、お前はこれから読むのか? 俺も半分読むぞ?」
「いや大丈夫。私も全部読んだから」
事が早くて助かる……。案外使える奴だなこの女……。
もちろんさっき言った通り、集めた資料は全て新聞紙。
俺が取り上げた情報。
三年前、GSF集団の舎弟の一人がプライバシーの侵害として拘束。常習犯だったため逮捕。その次は複数の舎弟がパソコンのハッキングで拘束。常習犯だったため逮捕。その次も、その次も、大抵パソコン関係の拘束が多い。
……どういう事だ?
「千春、お前はどうだ?」
「私が見た感じでも、プライバシー関係を無断で捜索した、とか、盗聴器や盗撮関係の犯罪で捕まっている」
おかしい……何かおかしいぞ……。
最近の新聞を見てみると、急にGSF集団関連の暴力事件などが頻繁に載っていた様子だった。
そう……今年からだ。
更に不自然に感じてきた。どういう事だ? 違和感はあるが、何がおかしい?犯罪は多数した経歴が残っている事は承知の上だ。だが何か……何か違う。
「真、これ何か変じゃないかい?」
「お前もそう思うか……。どう考えてもおかしすぎる」
「……犯罪の種類……かな」
「種類……!」
ギャング集団なら……違法輸入品買収、傷害事件、強盗とか、そういう表沙汰で起こる事ばかり起こす奴らだ。
だが……これらを見る限り、奴ら機械を使った違法行為がほとんどだぞ? つまり……。
つまり、GSF集団とは、ハッカー集団ということなのか?
俺はそれに気付き、唖然とした目で千春を見た。彼女もこくりと頷いた。
「まさか………」
「そうかもね。GSF集団はただの犯罪グループと違って、二種類ある。私の推測からすると、昔はハッカーがメインとなった情報売買が主となり、それに飽き足りず、更に手軽な方法で銭を入手すべく強盗などで入手することを考慮した。という感じじゃないかな?」
「………いや、それはあり得ない……。残念ながら千春の考えは間違えてる。慎は元々そんな理性的な性格じゃない。アイツは俺よりも喧嘩っ早く、そして俺よりもバカで俺よりも理性がない奴なんだよ昔から。そんな男がいきなりハッカーをわざわざ使う訳がない。これには訳があるはずだ……」
そう……慎は訳があって、わざとハッカーを使ったはずだ。アイツ自身は絶対そんな知恵があるはずもないから……誰かを使ったんだろうな。
待てよ……。砺音が言ったことを思い出せ……。
『慎には都合がある』
『これはGグループの秩序でもある。公にすればそれが壊れる事になる』
そして学校で千春が言っていた事を思い出せ――。
『私は与謝野慎がどういう人間かはまだちゃんと把握していないけれど、彼は案外悪い事をする事よりも更に深い事情を抱えて動いているように見える』
走馬灯のように手掛かりとなる事をひたすら思い返した。
………深い事情……秩序……都合………。それがひたすら調べて得たハッカー集団と関係が結ばれるのだろうか?
だが……分からない。
事情って何だ? アイツの頭の中は酒やタバコ、金しかないと思っていたが……とてもそんな奴が興味本位にハッカーを使うとは思えない……。
大体GSF集団の正体が明かされてきた。あくまでも推測にすぎないが。
後はたまり場の居場所と……慎の事情を解くだけだ。
プルルル――。
携帯が鳴った。美里からだ。
「おう美里。何かあったか?」
「今ね、GSF集団と関係してる人から聞いたんだけど、どうやら明日赤星地区の森林地帯前に集合っていう話らしいのよ」
「せ……赤星地区の……森林地帯?」
「うん。何をするかは分からないけれど、夕方の六時に集まるらしいわ」
夕方の六時……赤星地区の森林地帯前……か。
だがどうやってそんな情報を手に入れたんだ? まさか美里、あんな怖い連中に突撃取材したんじゃ……。
「お前、変な奴に突撃したんじゃねーだろうな……」
「ううん? スーツを着たサラリーマンみたいな人が教えてくれたんだよ。ちょっと根暗な感じだったけど、ちゃんと教えてくれたわ」
「そ……そうか。それならいい。でも、お前まだ動いてんのか? もう十一時だぞ? 遅いから帰れよ」
「初めて真の力になれたんだから、このくらい当然よ。でもアンタがそう言うならいいわ。じゃあまた明日ね」
「おう。協力ありがとな」
………………よくよく考えてみると、アイツは今、俺にとんでもない手掛かりを伝えてくれたんだよな。
そう、要約GSF集団の本部の人間と対面できるチャンスを得るキッカケをくれたんだ! ナイス美里!
「シャアァー!」
高揚に対し急にテンションが上がった俺に、千春が動揺した。
「ど…どうしたの?」
「いや、どうやら明日GSF集団が赤星地区に向かうらしいから、俺もそこへ行ってアイツらと対面できるチャンスができたんだよ」
「そうなのかい…。私も行った方がいい?」
「今回ばかりは厳しい。せめてお前は俺から離れて来い。連中からは見つからぬように気を付けろよ。行くなら、だけどな」
「分かった。真は私がいないと危ういから、遠くで見守っておく」
「アホか。一人でも十分余裕だっつーの!」
案外人を頼ってみるのも、悪くないのかもな……。
今夜は明日に向けてしっかり寝ることだな……。
時は過ぎる。
今日もまた。
一番忙しい一日を迎えた。