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与謝日記 The last chance  作者: 浅キチ
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最終章 幕は閉じる

世の中にはあり得ない物がたくさんある。


 それは幽霊、宇宙人、得体の知れない怪物。俺はずっと信じようともしていなかった。



 しかし、この世界には『化け物』という存在だけは確かだったようなのだ。それを証明したのは、この俺自身なのだから。


 フィルモット・エターナルの存在は紛れもない事実。科学的に証明するのは程遠いが、それでも奴らはいた。この目で見た。色んな人々が巻き込まれていたのも見た。

 いい加減ニュースや新聞などのメディアからそういう不可解な記事が載ると思うのだが。

 と思い、俺はその辺の新聞を拾って読むと、それらしい情報は全うなかった。テレビでニュースを見ても、今までのようなスポーツ関連のしか放送していなかった。


 俺はコレに不自然を感じた。



 いつもの様に送る学校生活の中、体育館裏でいつになく缶コーヒーを互いに飲んでいる間、俺は千春にそれを聞いてみた。

 すると、それはとんでもない真実を告白された。

「フィルモット研究会が裏を張ってるからね」

 研究書にもその研究会の事が書かれていたが、まさかその組織が裏を張っていたとは思ってもいなかった。

「忘れてはいけない。化け物を動かしていたのは奴らだったということをね」

「あの与謝野も作られた者なのか?」

「それは違うね。あの人は遺伝子の誤算でたまたまそうなっただけ。でもフィルモットという奇怪物は並みの人間にも移すことが可能だから、組織が動かなくても自然に増やす事もできるんだ」

「じゃあ、それはつまりあの与謝野が化け物を大量に増やしてまた街に攻撃してくる可能性もなしじゃないってことなのか?」

「それが十年後の予知夢の内容だから、なしの方が少ないと思うよ」


 漠然とした。



 十年後、奴はまた黄金美町を狙ってくるというのか。いや、前々からずっと思ってきたことだが、それでもあの日以来という事を考えるとゾッとする。


「でも大丈夫。五年後の予知夢はもう解除されたから」

「え? ……まさか」

 『五年後、奇怪物に関する重要な役割を果たす者が死す』

 これが五年後の予知夢だ。

 大体予想はついていた。

 もうそれを起こす者もいなくなってしまったのだから。


「佳志は、精一杯の努力をした。君がいなかったら予知夢は完成していた。君が佳志と会ったから、私は死なずに済んだ。けど、代わりに佳志が死んでしまった」

 酷く落ち込んでいた。

 やはり実の息子を失った悲しみは大きいものだろうな。


「決して無駄死にした訳ではないと思うぞ俺は」

「……分かってるよ。佳志は君を助けたからね。だから真も、佳志の分までちゃんと生きていかなければいけないよ」

「あぁ。俺はアイツに借りを作った以上、返さなければいけない義務があるからな」

「私は君自身の息子と会ったことがないからハッキリとは分からないけれど、多分育成も大分苦労するだろうね。君も、私も」

「はは、まぁな。佳志にもそう言われたよ」


 ――絶対に見捨てるな――


 彼からの最期の言葉を思い出した。

 そうだ。どんな奴になろうと、見捨ててはいけない。それを肝に銘じなければならない。


「そういえば、俺の息子の名前って聞いたことあるのか?」

「それは今の君が決めることだね。あの佳志はこの世界のどこの市役所へ行っても戸籍はない。つまり、君の子を『佳志』と名付けても何ら問題がないということ」

「……………」


 与謝野、佳志、か。結構良い名前じゃないか。響きもいい。




 一方、俺は研究会の活動範囲を具体的に聞いた。

「研究会はフィルモットに関する情報を全てメディアから伏せること。つまり公にすることを防ぐってこと」

「なるほど。確かに公にでもなったら人類は大パニックに陥るか、何かの3Dと思って放っておくかの二択だな」

「前者の可能性があるとかなり困るからね。だから研究会が動いてるのではないかな」

「研究会は人類を救う協力をしているのか? それとも人類を滅ぼす協力をしているのか?」

「自分たちの研究の成果を公にする損得という理由もあれば、パニックにしたくないという理由もある。要するにどっちの協力もあるって事だね」



 納得した。


 最大の敵は、やはりあの与謝野か。




 その日はいつもと違って晴れ晴れとしていて、髪が少し乱れる程度の風が吹いていた。

 俺は自分の拳を握った。握ると同時に、蒼煙がわずかに手から噴き出した。


 この先、色んな事が起こりうる。けど俺は戦わなければいけない。

 戦う事に意味がある。

 俺は半分人間ではない体の創りでできているが、俺にはこの街、この世界を守らなければならない義務がある。

 そして、大切な人も守らなければならない。いや、守る権利がある。


 隣で何を考えているのかよく分からない彼女を死守する俺の物語は、この後も続くであろう。

 そして、新しい命を見捨ててはいけない。


 千春は次の授業を受けるべく、そこから立ち去った。


 そういえば、俺に『千春を守れ』と言ったのは、教頭だっけな。

 そう思うと、目の前には呆れ顔で立っている教頭の姿があった。


「お前またサボりか」

「遂にバレちまったか。『また』ってことは、今までも気付いてたのか?」

「当たり前だろ。毎回お前の担任から苦情が来るからな」

「ふん、何で指導が今なんだ?」

「御手洗千春がいたからな。それに、お前は最後まで彼女を守ってくれた」

「一体、何でアンタが俺にアイツを守る事を指示したんだ? いい加減理由を言ってくれないか?」

 すると教頭は俺の隣に座った。


 なぜか、苦笑いしていた。

「何笑ってんだよ」

「俺の名前、知ってるか?」

「えっ……」

 そういえば聞いたことがない。そもそも他の誰かにも自分の名前を名乗った事があるのかこの男は?

「俺は自分の妻を救えなくてな。どこかへ逃げられたんだ」

「んなもん、不倫とかすればそうなるだろ」

「いや、浮気はしてない。俺には妻一人しかいなかったからな。でな、ちょっと旅に出てみたんだ」

「独り旅って奴か」

「あぁ。その時はまだ妻がいたが、俺は心の迷いとかがあってパリにでも行ってみたんだよ。色んな修羅場を潜り抜けてきたよ。不思議な事もあったな。タイムスリップ、とかな」

「え、タイムスリップって……」

 その単語を知った瞬間、この男が普通の人間ではないという事が確信された。

「俺が独り旅をして、日本に帰国した時に再び妻と再会したが、やはり無理だったな」

「自業自得だろ」

「はは、まぁそうなるだろうな。けどココに来て、そこに妻がいた。そして俺と同じ人物がいた」

「なっ……」

 教頭は、俺に指を指した。

「お前だ。与謝野真」

「まさか、お前も……与謝野、真…?」

 震えながらそう言うと、教頭はその場で大笑いし始めた。

「ま、俺にはもう諦めがついた。けどお前がいることが分かった。だから俺は、お前にハルを守ってもらう事を頼んだんだ」

「………………マジかよ」

「お疲れだったな。でも佳志の世話も厳しいぞ」

 教頭は俺の背中をポンと叩いた。

「いいか? 家族だけは捨てんなよ少年。俺は何もできなかったけど、お前ならきっとできる気がする」


 そして、教頭はその場を去って行った。




 それ以来、あの男の姿は一回も見ることはなかった。『辞任』という事だけを担任から聞いただけだ。


 きっとあの男は自分がいた時空に帰ったんだな。と俺はそう思い込んだ。千春は彼が自分の妻だったという事を覚えてるのだろうか。もう忘れているのだろうか。


 シリアスな出来事が、もう数えきれないほどにあった。くだらない人生を変えたのは、彼だったのか。


 もしかしたら、彼が本当の故郷の時空にいた与謝野真なのではないかと、隅で思った。


「真ォ!」

 廊下を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声がした。


 美里だ。


「何だよ、そんな疲れ果てて」

 ハァハァと息を切らしながら彼女は言った。


「校門前に……変な連中がゾロゾロいるんだけど……!」

「あ?」


 急いで校門前に行くと、確かに嫌な連中が罵声を放ちながら言っていた。

「何だお前ら!?」

 そう聞くと、先頭にいる柄の悪い男が怒鳴った。


「御手洗千春どこだぁ!? 呼べやコラァ!」


 そうか、また千春がコイツラの舎弟とかを倒したのか。

 千春が俺の横に立った。


「誰? 君たち」

「黄金美町のメイルバールだ。俺の舎弟やったのテメェだろ? けじめ付けさせてもらうぞ!」

 『メイルバール』? もうそんなしょうもないチームができたのか。


 俺は千春の肩に手を置いた。


「助太刀するぜ」

「そりゃどうも」

 そう、俺たちの戦いはココからだ!


――――こうして俺の日記は、幕を閉じた。


                   END


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