その男、与謝野真
男は呟いた。
「これで完成する……」
場所は不明、白衣を着た男はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら研究書を持ってその人体実験の全ての記録をチェックし、何者かにファックスを送った。
ガタッ――
「誰だ!?」
気配を感じた男は物音を辿って走って行ったが、誰もいなかった。男は猫でも出たのだろうかと頭をかいて元の位置に戻った。
が、何者かは物を後ろから、その男を強打した。
場所は不明、男は救急車も警察も呼ばれずに頭から流血したまま倒れた。
電撃は走る。至るところから。そしてそこには、一人の人間が現れる。
序章
世の中には、あり得ない物がたくさんある。存在をするかどうかはまだ科学的には証明されていない架空であるもの。
それは多々あって、例を出すと宇宙人、幽霊、ゾンビ、ネッシー、原始人。宇宙人は未だ発見されず。幽霊は科学的に証明されていない。ゾンビなどできない。ネッシーとか何だよ。原始人は例外である。
そして現代、若者はそれを信じない者が数多く至る。
もちろん俺もその1人なのだろう。若者とはいえ、もうすぐ成年になる十九の位だ。
俺はそういうサンタのような架空のものは大抵信じていない。それは幼い頃、いや生まれつきそうだ。
だが、1つ不可解な事を思う。
それは、自分が本当に人間かどうかだ。つくづく思う。昔から皆に言われてきた。
「化け物」
人間では繰り出せない値を繰り広げることばかりだった。
弟(三男)の友之が家出したある日、友之は二十歳を上回るチンピラに人柱にされそうになった時だ。
俺はまだ中学生だった。そんなゴロツキを独りで相手できる相手ではないはずだった。
その頃次男の慎もヤサグレてどこかへ孤立していた中だった。俺自身は全く喧嘩など自信がない。しかし慎は割と昔から喧嘩が強く、高校生の不良に恐喝されても一人で全て倒す勢いだ。
慎が必要だったのにも関わらず俺は独りでそのチンピラに無謀で立ち向かった。……つもりだ。
しかし我を忘れ、拳を無造作に振り回している間に、そのチンピラたちは既に敗北していた。
友之は、俺を恐れた。
救われたのだろうが、友之でさえも俺を『化け物』として扱い、それっきり彼が家に戻る事は一度もなかった。
即ち行方不明。未だにだ。
あれからおよそ五年が経つ。もはや諦め時だ。
――……と……、こと……!
「まこと!」
「!」
悪夢を見ていたのか俺は?
教室の中、放課中に起こしてくれたのは美里だった。
「はっ……今何時限目だ?」
「『今何時限目だ?』じゃないでしょ。学級委員長として恥ずかしいわ……ホント」
「お前副級長だろ」
「うっさい!」
美里はグーで頭を叩いた。ようやく目が覚めた俺は今、どういう現状かを把握した。
黄金美高校普通科、俺は毎年毎年ダブって気が付くともう高3だ。高校というのは青春を送れる場なのだろうか。俺は既に青春を送る体制を諦めた状態なのか。それはよく分からないが、人は俺を『オッサン』と呼ぶ。
「みーちゃん……怒らなくてもいいんじゃないかな……」
隣で美里を抑えているのは、ココの本物の級長、ユリだ。
彼女はここのムードメーカーとも言えるほどに小柄で可愛く、男子にも人気が高い。性格が優しいので女子からも人気がある。
その差が図れるのはさっきいた美里。彼女はその真逆で、副級長なのにものすごく神経質で厳しい。男子からもまぁまぁ避けられている。
「与謝野くんは疲れてるんだよきっと……。だから、ね? 大目に見てあげようよ……」
「ユリ、アンタねぇ……、だから甘いのよ! こんな『オッサン』に優しくする必要ないのよ? コイツがちゃんと勉強してれば今頃大学二年ぐらいなのよ? それが何で高校にいるのよ! しかも共学で」
共学は関係ないだろ……。
「このままじゃまたダブって、次は二十歳で学生って名乗る事になるのよコイツ!? 甘やかすとヤバいんだよ?」
「与謝野くんにも色々事情があるんだよきっと……。確かに、その金髪は怖いけど、優しいんだよ? だからもうちょっとやわらかく接してあげようよみーちゃん……」
ユリはいつも優しい。ていうかこれがパターン化している。
しかし俺はこの優しさに惑わされない。
普通の青春男ならばこの時点で『本当は俺の事が好きなんじゃないか?』などと誤解を招くが、こういう誰に対しても優しい女はそうでもない。
俺は恋愛を一度もした事がないからイマイチよく分からないが、今まで見てきた男を見る限り、そう判断する。
「はぁ……何か学校暇だなー……。もう帰るかー」
カバンを持って席を立つと、ユリが袖を掴んだ。
「ダメだよ。確かに学校に面白い事なんてあんまりないけど……私とみーちゃんが相手してあげるからちゃんと授業は全部受けよ?」
ありがたい言葉だがなぜだか上から目線に言われた感じがするのは俺だけだろうか? まぁいいや。
「しゃーねーなー。……たく、何で俺は毎日級長、副級長と仲良くしてんだよ……。新しいメンツでも入ってくれりゃいいのによ……」
その一言に、美里が反応した。
「はぁ何? その年になって新しい女の子が来るのを期待してる訳? アンタさぁ、ユリが構ってくれてるのによくそんな上からもの言えるわね?」
どんだけユリの地位高いんだよ……! 俺は単に気の弱い女の子が仕方なく級長をやっているようにしか見えないぞ…。
チクショウ……早く卒業して自由になりたい……。
チャイムが鳴った。
ホームルームか……。これほど退屈な時間はないだろう。俺なんて男子に友達いねーし。ユリと美里ぐらいしか話せる奴いねーんだよ……。
つーか何で俺はあの二人とつるんでんだよ……。
「はーい皆席につけー。これから転入生がくるからお前ら腹くくってろよー」
偉そうに教師が教卓で書類をどんと乗せてそう言った。
……転入生? 何だ? 誰が来るんだ?
俺は想像力を働かせた。
色々なパターンがある事には間違いないはずだ。
1つ、『夜露死苦』と名乗ってカバンを肩に掛けながら言う不良。
1つ、『よろしくね☆』とウインクして自己紹介する帰国子女のアイドル級娘。
1つ、『ごっつぁんです』と言って紹介するオッサンのまたオッサン。
1つ、『よろしく』とだけ言って行く大人しげな女の子。
さーどれだ? もう心の準備は整っている。不良は俺が抹殺する。アイドル娘はやたらムカつく、いきがんな。オッサンは……、何か友達になりそう。大人しげな女の子はぁ……一応友達になりたい。
来い! 俺の予想は必ずしも当たる……はず!
「御手洗千春でーす。赤星地区にいましたー、ゲプッ……。おっと失礼、えーっと……、まぁ、夜露死苦」
こ……コイツ……!
不良でもありアイドル級の顔立ちしてゲップのようなオッサン臭い仕草して挙げ句に不愛想っぽい……。
全部当てはまってんじゃねぇか畜生!
「はい、御手洗さんはあの変な金髪の隣にある空いた席でも座ってください」
教室の雰囲気は……多分悪い。もう既に第一印象整ってる。
つーかこれこそが……残念な美女ってやつ?
――うわ、あの子みたー? 変にカッコつけてゲップしたよ……。
――気持ち悪……俺はいくら顔がよくてもあぁいうのとは付き合いたくねーな……。
――何で上から目線なんだよお前……。
九割型陰口だ。そしてなぜ俺はそんな子の隣を指名されたんだ。可愛いけど何となく近寄りずれー……!
どうしたらこんな残念な美女が生まれるんだよ……!
気まずい中、隣の席についた御手洗千春は二度見でコッチを向き、
「あ、よろしく」
と言った。
俺は会釈するしかなかった。
俺はこのクラスではまぁまぁ嫌われた部類だが、多分この子と絡むともはやネタにされる値に達するよな……。
転入生って大体嫌われるか好かれるかが大きく分かれるんだよな。そしてこの千春という子は嫌われる部類なんだろうなぁ……。
このクラスで浮いた存在は約四名。
俺、美里、ユリ、そしてこの転入生。
御手洗千春は孤立するか? それとも誰かしら拾うか? 拾われるか?
いや最後のはないな……。
教師は出張でそこから立ち去り、その時間は完璧な自由時間となった。
「…………」
あー気まずい。何と言う気まずさ。これならユリたちと喋ってた方がマシだ。つーかもう席外そうかな。
いやでも、こういうのは俺みたいなアウトローが接するべきだろ……違うか? やはりこの子は孤立してしまうのだろうか? チクショー! 救うべきなのか放っておくべきなのか分かんねェ―!
ガヤガヤと生徒の会話がうるさい中、俺はその葛藤にうずいていた。あの二人は今、俺を見届けている気がして仕方がない!
だってほら、放課になったら真っ先にアイツら俺に絡んで来るだろ? なのに今回は違う。つまり何かしら察している。
つまりルートを辿れば俺は話しかけなければいけない運命なのだろうと自分ではそう思う。しかしどうしたものか、これ以上はみ出したくねー!
「先生、この式分からないんですけども」
横から聞きなれない声が聞こえた。横を振り向くと、御手洗千春が数学の問題集をこちらに見せてシャープペンシルをその式に指している様子だった。
………………。
え? 俺に言ってんのコイツ?
「あの……俺先生じゃないんだけど……」
「違うの? だって老け顔……」
学ラン着てんだろコラー! どんだけ観察力ねぇんだよこの女! 学ラン着てる教師がどこにいんだよ! つーか俺そんなに老けてるか!?
「悪いけどその問題には答えられない。俺は究極の馬鹿でここをダブり続けているんだよ」
「教員免許がなくとも、『友達』として教えてくれるのも悪くないんじゃないかい?」
いや教員免許とか関係ねぇし……!
つーか何で友達呼ばわりされてんだよ俺は! つーか悪いよ悪い! アホかコイツ!
「あのなー、俺は解けないんだよ。中学一年に習ったアルファベットが答えられるぐらいが限界だ」
「…………」
御手洗千春はそれでも無言でその問題を俺に寄せてきた。
チッ……仕方ねーなー。美里でも呼んで教えてもらうか……。
2X+2X=?
……ん? あれ? 俺受け取るの間違えたか? 何で中一の問題集持ってんだ俺?
彼女の顔を伺うと、ズンと腕を組んで構えて俺の答えを待っていた。
………何で高校入れたんだお前……。
俺は仕方なく一から順にその式を丁寧に教えた。何で俺がこんな事しなきゃならねぇんだよ……。
「ありがとう。これからもよろしく」
「どういたしまして……。問題分からないなら教師にでも頼めば?」
「君に教えてもらった方が分かりやすかったよ」
割と急所を狙う女だな。さり気なく普通の男子が一瞬で惚れるような言葉淡々と抜かしてんじゃねぇよ。
彼女、クールな女ってとこか? まぁよくある話だ。これにデレがついたら俗でいうアレになるからあえてそこまでは考えないが。
「あの、御手洗さん……」
ユリが御手洗千春に声を掛けた。それも不安そうに。
「何?」
「ここの学級委員長をしているユキと申します。以後よろしく……ね」
隣の美里も割とフレンドリーに自己紹介した。
「私美里! よろしくねー!」
何だよ、俺が絡んだらテメェらも腰巾着みてーにやってくんのかよ。あー立ち悪いねー。どうせ考えたのは美里だとは思うけどよー。
放課後、級長会が始まった。
つーか何で無関係者の俺まで付き添わなきゃなんねぇんだよ……!
「いい? 『クラスは明るくそして皆協調性がある最高のチームワークです』って答えるのよ真?」
「へいへい。要するに悪い印象を持たれて面倒な事になる前に俺が明るくふるまえって訳ね」
高校生にもなって発表に緊張してパシリを一人増やす必要があんのかよ。そして何でユリは反対しねーんだよ。どんだけお前ら前に出るの苦手なんだよ。
「それより、あの御手洗さんって何者なのよ?」
ふと美里がそんな話題を吹っかけてきた。
「いや知らねーよ……」
「アンタ最初に結構喋ってたんだから分かるでしょ?」
「まぁ……俺が今分かる事を言うと、口調も雰囲気もクールで、その癖頭が俺より悪いと言っても過言ではない学力のなさ」
「なーによそれ。確かにクールっぽいとこはあったかもしれないけど、頭が悪いのは絶対アンタでしょ? 何であの子進級できたのよ?」
「知らねぇよ。でも中一レベルの問題を『分からない』と答えたくらいだ。間違いねぇだろ。そして何より、社交性も薄い感じがする」
「社交性が薄い……? アンタもじゃない」
何でもかんでも俺にふるなこの鬼女!
「えっとだな、分かりやすく言えば、あんだけ気の使わず男子にとってキュンとする言葉を淡々と放つ女は早々いない」
「全然分かりやすくないじゃない。例えばどういう事を言った訳?」
「『友達になりたいから……』とか、『君に教えてもらった方が分かりやすい』とかな。俺ももうすぐで赤面に達するとこだったぜ。危ない危ない」
「うわきも……。その年して女子高生狙いそうになったって訳でしょ? うわー鳥肌立つわ。ロリコン極まりないわ」
もうグサグサ。精神ぶっ壊れそう。
「……ま、まぁそういう事だから、案外悪くない女って訳だ。以上、俺の適当な観察話でした」
はぁ疲れる。
発表は終わり、俺は真っ直ぐ帰宅した。
俺の自宅はもはや自宅ではない。ネットカフェ店だ。
毎日毎日『いらっしゃいませー』と言われては移住する常連と決まられ偏見たる顔をされ、大人しく指定された部屋に行く。
だがココは最高だ。一時間十円。そして一部屋が何と四畳。おまけにベッド付き。何より西洋だ。ベッドも壁も窓も床もドアも。
もはやホテル以上の居心地。そして異常な値安。その上客も少ない。
違和感しかないが、居心地は世界最高だ。生活費も十分に足りている。
ふふふ……ここは俺の自宅だ。誰にも流行らせんぞ……! それがいくら美里でもユリでもなぁ!
俺はベッドにジャンプしてゴロンと本を読み、鼻歌をしながらゴロゴロとしていた。
いやー、ココの飯も悪くねーしよ。ネットカフェと言うよりホテル? だな。なぜこんなにも値段が安いのだろうか?
ガチャ……
「あ、すみません部屋間違えました」
ガタン
どこかで聞いたような声だった。そして嫌な予感がした。
ガチャ……
彼女と俺は目が合い、俺はもう意味が分からなかった。
「あの、どこかでお会いしました?」
「何で御手洗千春がココにいんだよ……!」
「あ、君か。その節はどーも」
「質問に答えろ……何でお前がココにいんだよ!」
「いや、ココ好きだし、安いし」
流行らせまいと誓ったばかりに……。
御手洗千春は容赦なく俺の部屋にずんずんと入って来た。
「ちょいちょいちょいちょいちょい! 何普通に入って来てんだよ! 俺の部屋だぞ? 自分の部屋ぐらい自分でチェックインしろよ!」
「そんな事言わないでよ。私は君から聞きたいことが山ほどあるんだよ」
な……何だ? 山ほどある聞きたいことって……。
唾を飲み、聞いてみた。
「な……何だよ」
「君は何者なんだい?」
こっちが聞きてぇよおおおおおおおおおおお!
「高校三年生の留年生だ。笑いたきゃ笑えよ」
「笑う? 何で笑わなきゃいけないんだい?」
「………ダセェだろ。留年してもう十九だぞ。誰しもが偏見を持つんだ」
「そう? 私はそうは思わないけれど」
まただ――。『自分はそうは思わない』戦法。ただ一人の女性に受け入れてもらえるという感覚に追い込む作戦でもある。
しかし俺はこの罠には決して引っかからないぞ!
「君は私をどう思う?」
「どう思うって……。ちょっと浮いてんじゃねぇか」
「どのように?」
「その口調、その姿勢。そして何よりお前は気を使わない」
「口調? 姿勢? 気を使わない? 何か変かしら?」
「普通の女子はそんな言葉遣いしねぇよ。んで持って姿勢も堂々だ。気を使わないってのはその……」
「その?」
御手洗千春は首を傾げてそう問い詰める。ハッキリ言ってもう限界だ。気を使わなさ過ぎる。悪い事は言わないが色々とカオスだ。
「『ある意味』お前はコミュニケーションがなってない」
「そうなの? 私嫌われるようなこと言ったかい?」
「違う。言ってないが悪循環が生じる。誰コレ構わず男を惚れさせるような言葉を淡々と口に出すと、いずれ『ビッチ』などと勘違いされるおそれがある。まぁ俺の考え過ぎなのかもしれないが、お前は言い方も言ってる事も浮いている。俺が思っている事は以上だ」
彼女は「ふーむ」とアゴに指を添えた。
「まぁアレだ。自分が納得するキャラならそれを突き通してもいいんじゃないか? 別に俺がお前の性格決める義理ねぇし」
そう、他人の事を俺が偉そうに決めれる権利なんてないんだよ。
「義理がないなんて言わないでよ。私は『縁』を作るという神秘さを求めていた。君は最終的に私を避けずに問題を教えてくれた。それは何かの『縁』だとは思わないかい?」
「そんだけで『縁』があるんなら、俺は全国の日本人と『縁』があるようなもんだ。お前は以前どこの学校にいたんだ?」
「学校には行ってなかったよ。ずっと独り」
なっ……学校に行ってない?
じゃあ何で黄金美高校に三年生として入れたんだ? 単位は維持して入らないと不可能なはずだぞ?
ま、いっか。面倒くせぇ。
彼女は彼女なりの事情があるっつーことでココはあまり触れないでおこう。
翌朝。学校は相変わらず普通の学園といった風紀で、荒れているとはとても思えない。むしろ平和ボケが入ってしまっているくらいだな。
『えー、三年D組の与謝野真くん。至急職員室に来なさい。もう一度言う――』
朝っぱらから気分の悪い放送が掛かってきた。
しかめっ面に職員室へ入ると、そこには担任と教頭が眉間のしわを寄せてズンと立っていた。
「………何スか」
「お前をココに呼び出したのは他でもない」
最初に言い出したのは教頭だ。相変わらず風紀を乱さん世間体な男だ…。
用件は何だ? この身だしなみか? 髪色か? それとも成績か……?
「……言いたいことあるならさっさと言ってくださいよ…」
教頭は俺の肩を両手で押さえ、怖い顔でこう言った。
「転入生の御手洗千春の件だが、お前はあの生徒と馴染んでいるか?」
意外だった。何だ? 何が言いたいんだ?
「いや……馴染んでるってほどでもないんスが……」
「そうか。だがお前に1つ頼みごとがあるんだ。聞いてくれるか?」
頼みごとだと……? この俺に? 学校では『オッサン』やら『不良』やら言われているこの俺に頼みごとなど存在しているのか?
「御手洗千春と友達になってくれないか?」
「と……友達?」
「そうだ。友達になり、そして常にそばにいてやれないか?」
「そば……って。そんなの他の女子にでも頼める話でしょうが」
「違うそういう意味じゃない」
どういう意味だよ――。
「彼女は黄金美町の中でも主に『狙われた存在』なんだ。お前もこの街の治安の悪さぐらい知ってるだろ?」
『狙われた存在』と聞くので警察にでも追われてるのだと思ったが、治安の悪さと聞く限り、そこらにいるゴロツキに……ってことだよな。
「何でそんな不良達に狙われてるんスか?」
「それは内密にされているから詳しくは話せないから、できれば本人に聞いてほしい。だがお前もこの街でどうせ暴れ回ってるんだろう? ならば彼女を守護できるはずだ」
暴れ回ってねぇよ! どんな偏見持ってんだよ! そしてその偏見をまるで尊重するかのようにつなぎ合わせんなこの野郎!
「暴れ回ってはいないんスけど、度々そういうヤカラに絡まれるケースは少なくもないスね。まぁ校外でも何か知らんけどよく会うから、できる限りやってみますわ」
何で俺は今この依頼を引き受けたのだろう……。
そして教頭はしかめっ面から一気に安心したかのような笑みに変化した。
「お前ならそう言ってくれると信じていたよ。いやー、他の男子に聞いて回っても震えて首を振り回す腰抜けばっかでなー」
「……そう聞いて回ると、彼女またクラスの偏見持たれますよ。そこら辺気使った方がいいスよ教頭」
「えっ……」
俺は職員室から出て教室に戻った。
……たく、ダブらせるだけダブらせといてこりゃねーよ。舐めてんのかマジで。
――でも、退屈しのぎには丁度いい。
「ちょっと真!」
廊下で後ろから美里の声がした。
「あん? 何か用?」
「今日の放課後、ユリと私でカラオケ行くんだけど、アンタもどう?」
珍しい誘いだな……。いつもなら『掃除サボったわねー!』とかいう説教で面倒臭くなるというのに。
そうだなー……どうしような。
御手洗千春の件もあるし、断ろうかなー……。
いや、ココはあえて王道を取って彼女も誘うという形式もありなのかもしれんなぁ。
「いいけど、他に誰かいる?」
「いないわよ。いっつも私とユリとアンタじゃない。他に誘いたい人とかいるの?」
どうする? 奴を召喚するか? すると……やっぱ変な目で見られるかなー。
「み……御手洗千春もどうだ? ほら、転入生歓迎会っつーことで」
何言っちゃってんだ俺はああああああああああ! 口が先に動きすぎるんだよいつも! このクソ俺! チクショウ!
「あぁ、それいいわね! ナイスアイディアじゃない。そうだ、あの子も呼びましょ! ユリも良いって言ってくれるわよきっと」
え……お……マジか。案外マシな反応しやがんじゃねぇかコイツ……。そうだよ、ナイスアイディアだよ。俺は提案の神と言われた男だからな……。
まぁコレでいいだろう。暇を潰せるし、任務も受け入れられる。
これぞ正に、一石二鳥。
「じゃあ放課後、黄金美地区のカラオケに行くから、忘れないようにね」
「おう」
改めて教室へ戻り、自分の席へついた。
左を見ると、やはり奴は座っていた。本も読んでなければ携帯もいじっていない。ただボーっと座っている様子だけだった。
「……おい」
「……ん? 何だい?」
「今日の放課後、俺と美里とユリでカラオケ行くけど、お前もどーだ?」
「カラオケ……。私は行っても問題ないの?」
「お前を反対する奴がいた上で誘ってどうすんだよ。誰も反対しちゃいねーよ。むしろ『転入生歓迎会』っつーことでお前を誘ってんだ。つまり御手洗千春は今回の代表という事になる。即ちお前は来る義務がある。どうだ?」
「無理」
ええええええええええええええええええええ!
ちょっと待て……俺は今、最高にもっともらしい筋を立てて彼女を説得のまた説得へと追い込んだはずだぞ!? なのに『無理』の一言で片づけるってこいつ……! ある意味尊敬に値するぞ! やっぱり何の気遣いもしねーな。
「何で無理なんだ?」
「お金が足りないから。私は何一つ金銭を無駄にしたくないの」
好きでネットカフェに行ってる奴が何言ってんだよ……! 全然説得力ねーよ!
「でもお前ネットカフェ行ってんじゃねぇか」
「……………」
今度はダンマリか。
仕方ねーなー。俺は一応何だかんだ言ってお金が足りてるから、一応術はなくもねーか。
「お金の事で悩んでどーする御手洗千春。俺は言ったはずだぞ? 『転入生歓迎会』だとな。なぜ代表者がわざわざ金に負担をかけなければならない? もちろん皆からの奢りに決まってるだろう? そう、お前は無料で楽しめる権利がある。そして歓迎会に参加しなければいけない義務が存在する。つまり、お前は絶対来なければならない! どうだ?」
「そうね……。でも、なぜそこまでして私を勧誘するんだい? 別に私、楽しい人間ではないのに」
任務の事は口に出さない方がいいよなやっぱ。
「楽しい楽しくない人間とか関係ねーよ。転入生だからだ。このクラスの奴らはそういうのに興味なさげだが、生憎俺と級長、副級長はそれに興味がワンサカある。だからカラオケという舞台をたてた」
「なるほど。なら行くしかない…ね。引き受けるわ」
チェックメイト。説得終了。そして完璧な完了だ。
昼放課、教室の隅にいる美里とユリに声を掛けた。あの話の件だ。
「ユリ、お前は御手洗千春が今回来るのに反対意見はないよな?」
「うん。歓迎会っていうのもいいんじゃないかな?」
「だが、1つ俺らに負担をかけなければならない事がある」
そこで美里が割り込んだ。
「何よ?」
「彼女は金に余裕がなく、とてもカラオケで使える余りがないようだ」
「そうなんだ。じゃあ今日は止めとこ――」
ダメだ、コイツ考えが単純すぎるんだよ。今度じゃダメなんだよバカが。
机を叩き、俺はそこの指揮者となった。
「そこでだ。1人六百円だ。俺らで二百円ずつ割り勘して彼女に奢るっていうのはどうだ?」
引き受けるか? まぁさすがに歓迎会だ。コイツラも考えるだろさすがに…。
「えー、何よそれ。何で後から来た人間の奢らないといけないのー?」
「私もちょっとお金足りないかな……自分の分しか」
ふざけんなよテメェら……! 特に美里ォ! お前どんだけ冷たいんだよクソ! やはりダメか……。
「そ……そうかよ。お前ら歓迎会ぐれー暖かい目で見てくれると思ったのによ……分かったよ。俺1人で奢ってやるよチクショウ……!」
少し険悪な雰囲気の中、後ろから御手洗千春の声が聞こえた。
「やっぱり私迷惑ならいいよ。どうせ私が来てもつまらないし」
なっ――。
この言葉にはさすがに美里とユリは動揺した。
「いや……そういう訳じゃないのよ千春さん……ただお金に余裕がなくてね…」
「そ……そうだよ千春さん! 別にアナタの事をどうこう思ってるんじゃなくてね……」
苦笑いでこの説得の仕方か。何とも情けない奴らだ。
「ちげーよ。金に余裕がなくも、お前をどうこう思ってるんじゃないぞ。コイツラの意志が弱すぎるだけだ。俺は意志が強すぎるからお前を誘える。どんな手使ってでもな」
そう、気が付いたらあまりにも気遣いのない説得になっていた。
誤解を招くかもしれないが、もうどうなってもいいや。
御手洗千春は承認し、改めてどこかへ行った。
「ちょっとー真。そこまでしてあの子誘う必要あるのー?」
「お前らには分からないだろうな一生。孤立する人間の気持ちなんてよ」
俺には分かる。そういう人間も見たこともあるし、自分もその経験がある。本来ならば既に孤立しているが、コイツらが絡むおかげでその単語がなくなっただけ。まぁ感謝しないこともないが、それでも孤立した人間を放っておくわけには行かないだろ。
そして何より俺にも都合があるしな。
放課後、四人で黄金美地区のカラオケへ行った。
行く途中、やはりこの街の連中は恐ろしい。いつ絡まれるか分からない。今の日本はオカシイが、この街はその代表と言っても過言ではない。
黄金美町とは繁華街で、東に行けばいくほど田舎。その田舎を赤星地区と言い、黄金美町の中央は黄金美地区と言われている。西に行けばいくほど住宅街で、そこは西南地区と言われている。
俺は前まで赤星地区出身だったが、都合により中央に引っ越した。その引っ越し先がネットカフェ店だ。
「よーし! 皆歌いましょー!」
美里がマイクを持ってその場を仕切った。
最終的に御手洗千春はしっかり参加し、テンションは低いが空気は読んだ。
皆が歌い終わり、疲れ果てた後にユリがマイクを取って言葉を放った。
「あのう、皆さんお疲れのようですけど……」
「ユリー……アンタは疲れてないわけー? もうクタクタだよー……」
美里も最初はハイテンションだったものの、既にバタンキュー状態だ。
「それにしてもさー、真って将来歌手にでもなるの? アンタっていっつも歌にメリハリ付けるよねー」
「うるせぇ。そうしないと歌った気がしないんだよ。お前もハイテンションにべらべら歌ってただろうが」
それより、御手洗千春の声だろ問題は……。
「千春さんって、何でそんなに美声なの……?」
ユリが聞いた。
「普通に歌っただけだけど……」
「普通の人が出せる声じゃないよ。凄いよ千春さん」
まぁたまにいるよな。歌になるともの凄く透き通る美声を繰り広げる奴。
どうでもいいけどフリータイム選んで何で一周してこの様だよ……金の無駄なんだよチクショウ……!
「そういえばアンタらさー、お小遣い毎月いくらもらってるの?」
ふと美里がそんな質問を吹っかけてきた。
「私はお母さんから月三千円くらい貰ってるけど……」
ユリはそう言った。
「ふーん。私は月五千円くらいかなー」
美里はそう言った。
「ところで真はいくらもらってんの?」
そこは突かれたくなかった。
「小遣いなんてもらってねぇよ。まぁ何とか金は仕入れてるさ」
「えー何よー? 意味わかんない」
俺は金を入手する術がある。しかしそれはとても良い事ではない。俺自身もそれを自覚しているが、あえて答えるとしたら、不良に絡まれて返り討ちして金をわんさか巻き上げる。ってだけだな。
つーか俺は別に欲しくねーけどよ、なぜか相手から財布渡してくれるんだよ。
だがそれは一環に過ぎず、問題はもう1つだ。
毎月、ネットカフェ店の従業員が俺の部屋に来て封筒を渡してくる。
その封筒の表には『差し入れ』と英語で書いており、その中身を見ると毎回五万円の札束が並んでいるんだ。何者かは不明。
でもいい加減それに警戒するべきなのか? でも一応それで生活費が成り立ってるから問題ないが……。
「千春さんはいくらもらってるのー?」
「………私は貰ってないよ」
――は?
美里は残念そうに返答したが、これは明らかに可笑しすぎる。
ネットカフェ店に行った奴が金を貰ってない訳がない。絶対に何か隠してるだろこの女。
そんなこんなでカラオケは終了。結局俺1人が彼女のを奢り、店から出た。
しかし出た先には、明らかに変な連中が群れている事に俺らは気付く。
「おいおい、次は男とデートかぁ? ポニーテールさんよぉ!」
ラッパ風の男がそう罵倒した。
何だ? ポニーテールっつったら……御手洗千春しか心当たりないぞ?
「………いい加減にして。もう終わった事じゃない」
そう、俺しかこの状況を把握できてない。
彼女はこういう連中に狙われているんだ。美里とユリを他のとこに保護しなければ……。
「ちょっ……真、どういう事なの? 何が起きてるの?」
「話は後だ。お前とユリはもう帰れ」
「帰れる訳ないじゃない。千春さんが絡まれてるんだよ? それを放っておくって……」
案外友達思いの美里でありがたいが、今はどう考えても危険だ。何とかしなければ……。
「おいそこの金髪! テメェも見たことあるぞぉ? この前俺の舎弟締めたってな? 今ここでぶっ飛ばしてもいいんだぜぇ? それともそこにいる2人渡してくれるんなら大目に見てあげてもいいけどよぉ!」
やるしかない状況だ。
ラッパ風の男は俺に近づき、胸ぐらを掴んだ。
……初対面ではなさそうだ。どこかで見たことがある気がする。
「殴れるもんなら殴ってみろよゴリラ野郎」
「アァ!? 女の前だからって格好つけてんじゃねぇぞテメェ!」
男が俺に殴打するその時――。
後ろにいる御手洗千春は男の後頭部に蹴りをかまし、その男は失神した。
「与謝野真、君は私と同じ部類。ココを解決させる術は決まっているはずだよ」
初めて俺の名前を呼んでくれたのはありがたいが状況を考えろチクショー!
クソ……美里とユリにはあまり見せたくない光景だ。どうせ失望される……俺も、御手洗千春も……。
何人もの群れをあっという間に倒し、立っているのは四人だけだった。
この女も……やはり喧嘩慣れをしているって訳か。
それより美里とユリが………――。
「すっごい! たまにはカッコいい面もあんじゃないアンタ!」
「見直したよ与謝野くん!」
――褒められたのか? 今どういう気持ちだ俺は?
何とも言えない気持ちだ。嫌な気持ちではないけど、嬉しがってもいいのだろうか?
その夜、俺はネットカフェの中で漫画を読んでいた時だ。
また扉が開いた。
「君、いつもココにいるよね。泊まりなのかい?」
再び……か。御手洗千春だ。
「あぁそうだよ。お前もよくココに来るんだな」
「そうだね。私もココに泊まろうかしら」
「止せ止せ……お前じゃ無理だ」
「まぁ今のは嘘として、昨日から泊まってるんだよココ」
ふざけんなよこの女……。俺の憩いの場に……。
「それにしてもお前、さっきの連中は何だ?」
「…………愚連隊ね。君もこの街の仕組みくらい把握しているだろう?」
「あぁ。数々の不良グループが存在するんだってな。だがそのチーム名とかは一々覚えてねぇよ。アイツらは何なんだ?」
「奴らは『バラード』だよ。裏の酒場がたまり場で、黄金美町では中の下の勢力があるけれど、数が多いから侮れないわ」
「なるほど、通りで無駄に毎日絡んでくることだ。でも、アイツら女にも暴力振るうほどのクソ集団なのか?」
「いや……私は単にナンパされたから、腹が立って蹴りあげただけ」
コイツは武闘派だな……。クールで考えが不良だ。
「まぁでも、これ以上絡まれるとさすがに俺も御免だし、いっぺんそのバラードとかいう連中の頭と話付けてみるか」
「そ……そうね。君意外と威勢があるんだ」
「そうしなきゃまた絡まれちまうだろうが。今日だってツレが怪我するとこだったんだし、この件は俺だけで収めとく」
「いや、私にも責任がある。その時私も行く」
「ダメだ。あまりにも危険すぎる。お前はソイツらの溜り場の場所だけ教えてくれればいい」
俺はコイツを守護する義務がある。下手に動かすのは危険だ。
愚連隊バラードか……あんな連中が毎日毎日絡んで来られるのは御免だ。たまったもんじゃない。
それにしても、御手洗千春ってのは一体何者なんだ? 黒ネコみたいな雰囲気を放ち、大人しげだ。しかし格闘技術は発達し、周囲からは俺と同じ『不良』扱いとされている。
その上ものすごく馬鹿だ。なのに黄金美高校へ転入できた。元々どんな学校に通っていたんだ? よほどの不良校じゃなければこうはならないぞ?
俺が心当たりのある高校といえば、この周辺だと……。
赤星高校、黄金美工業高校、西南高校……。
赤星は田舎のヤンキーが八割を締めくくる根性のある連中ばかりの学校だ。
黄金美工業高校は男子高校で、九割が男子。四割が柄の悪い奴ら。威勢のある奴は存在するがそこまで勢力はデカくないと見る。
西南高校はそもそも進学校だ。変な連中はごくわずか。
だとすると、目安とすれば黄金美工業か赤星だな……。
ちなみに俺が通ってる高校、黄金美高校は西南高校と少し似ており、不良という概念はほぼない。
だから俺みたいに金髪ってだけでもかなり浮くんだよ。
増してや御手洗千春なんて、今日の事があったから絶対浮く存在になる事間違いないな。
「真、と呼んでいいかい?」
ドアを開けたまま、そう俺に問う。
コイツまだいたのかよ……。
て、ん? コイツ俺に名前の呼び方を聞いてんのか?
「まぁ、いいんじゃねぇの? お前はどう呼べばいい? 俺は脳内でずっと『御手洗千春』とフルネームで言ってていい加減手が疲れるんだが」
「手が疲れる? 何の話かしら」
思わずココでは言っちゃいけない事を口外してしまった……。
「お前は御手洗って呼べばいいんか?」
「いや、『千春』と呼んでくれると嬉しい」
「え……お、おう。そうかよ。まぁ、その方が親密さがあるしな」
何でここでキョドってんだよ俺はぁ! 別に珍しくねぇだろ人の呼び名ぐらいよぉ!
「真、君は幽霊を信じるかい?」
「はぁ? 幽霊? んなもんいる訳ねーじゃん」
「そう。でも、世の中には、私たちでは信じきれない生き物がいるの」
「どういう事だ? 化け物でもいるって事か?」
「化け物……まぁ、そういう解釈でもおかしくない」
妙な事を聞くな……。だが、案外千春は俺が疑問に思っている事を言っている。これはつまらない話ではない。
「まぁ、中入れよ」
千春はドアを閉め、床に座った。
「お前、何が言いたい?」
「世間の街を歩いている庶民は、幽霊や化け物を信じていない。だけどそれはあくまでも『言い聞かせ』にしか過ぎていない。どうやって証明した? 証明できる証拠が揃った上で『存在しない』と言い切っているのか?」
「つまり、お前はその『証拠』が存在し『証明』できる『化け物』とやらが現実に存在しているって言いたいのか?」
「その通り。動物は喋れない。人間は人間の形をしているが力がない。だけど、この世には動物以上に力があり、尚且つ人間の形をして人間の言葉を喋れる典型的な化け物が存在している」
「そんなの聞いたことないなぁ。その化け物の名前とかは?」
そう聞くと、千春は一冊の本を取り出した。不気味な柄だ。
その表紙のタイトルは英語で書かれていた。
「フィルモット……エターナル?」
まじまじと片言にしかめながら言うと、千春はこくりと頷いた。
「そう。通称『フィルモット』。この本にはその研究内容が隅まで積み込まれていて、実験内容も多々書き込まれている」
「何だ? これ読めってか?」
「是非君には読んでほしい本だよ。全部読めば分かる。
――現代社会の不用心さが」
俺はその本を一夜漬けで読むことを試みた。