お茶会にて(護衛騎士視点)
ある麗らかな日の午後
イヴ・クレードは、おのれの主の護衛のため、王城にいた。
今日は天気が良いので庭園へ、と通された。
ちょこんと座るオリビア様の前には美しいティーセットが並んでいる。
どれもこれも、彼女の好きなものばかりで、あの方の無償の愛情が感じ取れる。
さあ、俺は少し離れた木陰でしばし待機だ。
「やあ、オリビア」
「ル、ルイさま、ご機嫌麗しゅうございます」
お嬢様の愛する婚約者が眩いオーラを纏って登場した。
余裕気なルイ殿下とは反対に、ロボットのような挙動をするお嬢様にくすりと笑みがこぼれる。
お嬢様はいつになったら、ルイ殿下の前で緊張せずにいられるのだろうか。
「久しぶりだね。一か月ぶり、かな」
「はいっ、お忙しいのにこうしてお時間を作っていただき、ありがとうございます」
「ふふ、こちらこそありがとう。元気に過ごしていた?」
ふたりの談笑を遠くのほうで聞きながら、心地よいそよ風を堪能する。
10年前、オリビア様の専属護衛になった。
赤子のころ、孤児院の門に捨てられていた俺は、出自もわからない、文字だってほとんど読めない、ただ唯一の剣の才能をかわれて当主様が引き取ってくださった。
当時オリビア様は5歳、俺は推定10歳
すぐ兄のように慕ってくれ、その日から、どこに行くにも、何をするにもずっと一緒だ。
オリビア様が10歳になった日、ルイ第一王子殿下との婚約が決まった。
まるで絵本から出てきたような王子様であるルイ殿下に、オリビア様は一目で恋に落ちた。
ルイ殿下もオリビア様をとても大切にしてくださっている。
だから俺は安心して、オリビア様が結婚なさるその日まで、全力でお守りするだけだ。
「じゃあ、またね。すぐ連絡する」
「は、はい」
1時間ほどが経った。オリビア様とルイ殿下のお茶会がお開きになるようだ。
ルイ殿下に差し出された手をとり、ぎこちなく歩き始めたオリビア様の後ろを歩く。
やがて馬車の前で、歩みを止めたルイ殿下と目が合った。
「では、あとは頼んだよ」
「承知いたしました」
ルイ殿下から、オリビア様の手を受け取り、馬車の中へと誘導しようとしたその時
「きゃあっ」
馬車の足場から、バランスを崩したお嬢様が悲鳴を上げる。
落とさないよう腰に回したつもりの手のひらに、柔らかい感触があった。
ん・・・?これはいったい――
「あ・・イ、イヴ?・・ごめんね」
お嬢様の言葉にフリーズしていた思考が一気に動き出す。
「わああっ、すみませんお嬢!!」
(む、むね、さわった?おれ)
すると、背後から皮膚が食い込むほどの力で肩を掴まれた。
「しにたいの?君」
「申し訳ございません!!詫びますっ、しんで詫びます」
ルイ殿下が恐ろしいほど綺麗な笑顔を浮かべている。
氷点下の冷気は俺だけに有効のようだ。
「ルイさま・・?」
一瞬で冷気を消したルイ殿下が優しくオリビア様に向く。
「オリビア、足を捻ったよね。念のため医務室で診てもらおう」
「あ・・いえ!そこまでしていただかなくても」
「僕が心配なんだ、行こう」
お嬢様の反論を一蹴し、ルイ殿下は彼女を横抱きにした。
顔を真っ赤に染めたオリビア様があわあわ何かを言っているけど、お構いなしだ。
俺は、さっきからバクバクと鼓動がおさまらない。
もう感情がめちゃくちゃだ。
いい匂いだったなとか、女の子って、あんなにふわふわなんだ、とか。
やっぱお嬢、可愛いなとか。
医務室へ入っていった二人を、外で待つ。
やがてルイ殿下だけが出てきて、鬼の形相でまっすぐ俺に向かってくる。
「おい、護衛騎士。いますぐ、記憶から抹消しろ。いますぐにだ」
「はい、いますぐに!」
なあんて
消せるわけなんてないんだけど。
だって、あれは不測の事態だったわけで。
それにさ、もうすぐ全部貴方のものになるんだから、せめてお嬢が嫁ぐまでの間は
俺の好きにさせてもらっていいよね。




