プロローグ
第一回公判期日。
傍聴席は報道関係者が埋め尽くし、6人の裁判員の顔には緊張が見える。
反対に、証言台に立つ被告人は落ち着いた様子で、人定質問にもスラスラと答えていた。
「公訴事実──」
検察官が立ち上がり、起訴状の朗読を始める。
被告人が自らの価値観に基づき、計画的に殺害を計画したこと。
一人目の殺人から7年もの間、合計20人のアルファ男性を殺害したこと。
証拠隠滅のために死体を損壊させたこと。
長々と読み上げられる公訴事実だけでも、その犯行の恐ろしさがうかがえる。
戦後最多の殺害人数というだけでなく、被害者全員が知能も肉体も優れたアルファ男性で、さらには長期間にわたって、殺人が露見しなかったのだ。
日本中を震撼させたこの被告人が、死刑を免れることはないだろう。
起訴状の朗読が終わると、裁判官が黙秘権の告知を行う。
被告人は、やはり落ち着き払った様子で、法廷をぐるりと一周見渡した。
そして再び正面を向くと、事件に対する陳述を求める裁判官へ、まるで無辜であるような笑みを向けた。
「アルファの皆さんは、気を付けた方がいい」
裁判官が止めるより早く、被告人が次の言葉を口にする。
「これからバース性を利用したテロが起きます。しかし、あなたたちだけでは解決できません」
「被告人。関係のない発言は控えてください」
「これは、取引です。僕は、これから起きるテロの解決に全面的に協力します」
「被告人。発言をやめてください」
「僕が望むのは減刑ではありません。」
「このまま発言を続ける場合は、退廷を命じます」
「──僕の運命。彼に会いたいんだ」
「被告人を外へ」
裁判官の言葉とともに、刑務官が動き出し、証言台に立つ被告人の腕を取る。
刑務官に連れられて法廷を出る被告人は、終始穏やかな笑みを浮かべていた。




