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第7話 異世界に、法律を

「――前代未聞だな」


王国庁舎の会議室。

長い机を囲むのは、騎士団上層部、冒険者ギルド代表、そして貴族数名。


その中央に、佐津野圭は立っていた。


「魔物を殺さず、

罪人を剣で裁かず、

牢に入れる?」


「はい」


即答だった。


「それが、“法律”です」


ざわめきが走る。


「法律など、王命と慣習で十分だ!」


「剣があれば秩序は保てる!」


「なぜ、そんな回りくどいことを!」


佐津野は、反論しなかった。

代わりに、一冊のファイルを机に置く。


「これは、先日の魔法犯罪の記録です」


「……何だこれは」


「被害者、容疑者、動機、証拠、処分。

すべて、誰が見ても分かる形で残しています」


セリーナ・エルフェルトは、壁際で黙って見ていた。


(ここからが本番だ)


「質問します」


佐津野は、会議室全体を見渡す。


「もし、あの事件が

“即時処刑”で終わっていたら――

本当の原因は、分かったでしょうか」


沈黙。


「弟子の研究。

監督不足。

魔法触媒の管理体制」


「再発防止策も、打てたでしょうか」


誰も答えない。


「法律は、

“罰するため”だけのものじゃありません」


佐津野の声は、静かだが通った。


「同じ悲劇を、二度起こさないための仕組みです」


一人の貴族が、鼻で笑った。


「だがな、警察官殿。

それを誰が守らせる?」


「剣を持たぬ者に、

誰が従う?」


佐津野は、少しだけ微笑んだ。


「守らせるのは、

“恐怖”ではありません」


机を指で叩く。


「納得です」


「納得?」


「なぜ裁かれたのか。

なぜその罰なのか。

それを理解できれば、人は従います」


「理想論だ」


「……そうかもしれません」


佐津野は、正直に認めた。


「でも、

今までこの世界には、

その“理想”を試した者すらいなかった」


そのとき。


「――私は、賛成する」


声を上げたのは、セリーナだった。


全員の視線が集まる。


「騎士団は、

剣で“今”を守ることはできる」


一歩前に出る。


「でも、“未来”までは守れない」


彼女は、佐津野を一度だけ見た。


「この男のやり方は、遅い。

面倒で、非効率」


それでも。


「私は、

魔法犯罪事件で救われた人間を見た」


「剣を向けられず、

話を聞いてもらえたことで、

生きる道を失わずに済んだ罪人を」


会議室が、静まり返る。


「だから提案する」


セリーナは、はっきりと言った。


「試験的に、

“法”と“警察”という概念を導入する」


「小さな範囲でいい。

街一つでいい」


「結果が出なければ、廃止すればいい」


長い沈黙のあと。


「……よかろう」


最年長の貴族が、重く口を開いた。


「街道と倉庫街を対象に、

試験導入を認める」


「条件がある」


佐津野は、背筋を伸ばした。


「何でしょう」


「責任者は、お前だ」


「失敗すれば、

すべてお前の責だ」


佐津野は、深く頭を下げた。


「承知しました」


会議が終わり、庁舎の外。


「……重い役目を背負ったわね」


セリーナが隣に立つ。


「警察官なので」


いつもの答え。


セリーナは、小さく笑った。


「この世界に、

法律が根付くかどうか」


空を見上げる。


「それは――

あなたが、どれだけ“面倒な男”でいられるかに

かかっているわ」


佐津野は、手錠を見つめた。


剣も魔法もない。

だが――


異世界に、

“法”という名の秩序が、今、産声を上げた。

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