第6話 異世界初の“取調べ室”
「……ここで、何をする気?」
倉庫街の外れ。
空き家だった建物の一室を見回しながら、セリーナが眉をひそめた。
机が一つ。
椅子が二つ。
窓は一つだけで、外から中は見えにくい。
「取調べです」
佐津野圭は即答した。
「……それが?」
「異世界初の」
そう言って、机の上に一枚の紙を置く。
「“取調べ室”」
セリーナは、しばし無言だった。
「……騎士団の詰所ではダメなの?」
「威圧感が強すぎます。
剣と鎧は、人を黙らせる」
「それが目的よ」
「今回は違う」
佐津野は椅子を引いた。
「今回は、“喋らせる”」
* * *
容疑者は、被害者の弟子――
若い魔術師の青年、名をカイルという。
「……なぜ、私がこんな所に」
落ち着きなく視線を泳がせ、椅子に座る。
セリーナは、壁際に立ったまま、腕を組んでいる。
剣は抜かない。約束通りだ。
「まず確認します」
佐津野は、穏やかな声で言った。
「あなたは、逮捕されていません」
「……え?」
「現時点では、
事情を聞かせてもらっているだけです」
カイルの肩が、わずかに下がる。
(いい反応だ)
「昨夜、師匠と口論したそうですね」
「……はい。
研究の方針で、少し」
「少し?」
「……かなり」
沈黙。
「師匠は、あなたの研究を認めなかった」
「……危険だと」
「それで?」
「……腹が立ちました」
正直だ。
だが、ここからだ。
「では、昨夜の行動を
最初から最後まで、朝起きてから寝るまで順序よく教えてください」
佐津野は、紙に線を引く。
「嘘は、後で必ず分かります。
だから、思い出した通りに」
「……わかりました」
カイルは、ぽつぽつと話し始めた。
口論。
帰宅。
一人で研究。
外出なし。
「一晩中、家に?」
「……はい」
「誰か、証明できますか?」
「……いません」
セリーナの視線が、鋭くなる。
だが、佐津野は止めなかった。
「では確認です」
机に、布に包んだ小瓶を置く。
「これは?」
カイルの顔色が、変わった。
「……血媒介触媒」
「あなたの研究ですね」
「……なぜ、それを」
「現場の魔法陣と一致しました」
静寂。
「師匠の魔法陣ではない。
あなたの“癖”が出ている」
カイルの指が、震える。
「……違う」
「まだ、言っていません」
佐津野は、静かに言った。
「“殺した”とは」
カイルは、息を詰めた。
「……殺すつもりじゃなかった」
セリーナが、一歩前に出る。
「――自白ね」
「待ってください」
佐津野は、手で制した。
「続けて」
カイルは、涙を浮かべながら話した。
「研究を、止めさせたかっただけだ……
魔法を暴発させて、
怖がらせるつもりだった……」
「結果、心臓停止」
「……はい」
佐津野は、目を閉じ、深く息を吸った。
「事故ではありません」
目を開く。
「過失致死。
そして、死体移動と隠蔽工作」
カイルは、崩れるように泣き出した。
セリーナは、その姿を見つめ――
剣に手をかけなかった。
「……あなたのやり方」
小さく呟く。
「時間はかかる。
でも……確かに、真実に辿り着く」
佐津野は、手錠を取り出した。
「逮捕します」
カイルは、抵抗しなかった。
* * *
取調べ室を出たあと。
「ねえ、佐津野」
セリーナが言う。
「あなたの世界では、
こうやって罪を認めさせるの?」
「はい」
「剣より、ずっと残酷ね」
「……かもしれません」
佐津野は、空を見上げた。
「でも、
生きて償う道を残せる」
セリーナは、少しだけ笑った。
「――異世界に、
とんでもないものが生まれたわね」
それは、
剣でも魔法でもない。
“取調べ室”という名の、正義の場所だった。




