第5話 共同捜査、魔法犯罪現場
「……死体は一人。
争った形跡は、ほとんど無し」
薄暗い倉庫の中。
鼻を刺すのは、血ではなく、焦げたような魔力の残滓だった。
「魔法犯罪、ですか」
佐津野圭は、床に残った円形の痕をしゃがみ込んで観察する。
「ええ」
隣に立つセリーナ・エルフェルトが、腕を組んだまま答えた。
「市民の魔術師。
昨夜、この倉庫で死亡しているのが発見された」
「凶器は?」
「不明。
外傷はなし。心臓停止」
(密室・外傷なし・魔力痕跡あり……)
佐津野は、倉庫全体を見渡す。
「まずは現場の写真撮影を。
それから詳しく検証します。
それと現場から広範囲の現場保存、
騎士団員による近隣住民の聞き込みをお願いします。」
「分かったわ」
「第一発見者は?」
「隣の商人。
朝、荷物を取りに来て、
窓の隙間から遺体を見つけたそうよ」
「扉と窓は?」
「内側から施錠。
破壊の痕跡なし」
セリーナが、少しだけ視線を向けてくる。
「……あなたの世界で言うところの?」
「はい。
典型的な密室殺人です」
「魔法がある世界で?」
「あるからこそ、です」
佐津野は立ち上がり、床の魔法陣を指差した。
「この陣、起動位置がズレてる」
「……確かに。
本来なら、遺体の真下に来るはず」
「つまり、
魔法は“ここ”で使われたが、
“ここ”で殺されたとは限らない」
セリーナの目が、わずかに見開かれる。
「……移動させた?」
「可能性は高い」
佐津野は、倉庫の隅に積まれた木箱を見る。
「この箱。
昨日、ここにありました?」
「……いいえ。
昨夜の記録には無い」
「では、被害者が死んだあと、
誰かが箱を運び込み、魔法陣を起動した」
「なぜ、そんな手間を?」
「密室を演出するため」
沈黙。
セリーナは、ゆっくりと息を吐いた。
「……犯人は、魔法を“アリバイ工作”に使った」
「そういうことです」
佐津野は、遺体の手をそっと見る。
「指先に、わずかな裂傷。
争いは、あった」
「でも、血はほとんど出ていない」
「刃物ではない。
――毒か、魔法媒介」
その瞬間。
「副隊長!」
部下の騎士が駆け込んできた。
「被害者と被害者の弟子が、
昨夜激しく口論していたとの目撃証言がありました!」
セリーナが、すぐに振り向く。
「その弟子を連れてきて!」
だが、佐津野は静かに首を振った。
「まだです」
「……なぜ?」
「今、呼べば“準備”されます」
「準備?」
「嘘をつく、準備」
佐津野は、セリーナを見た。
「先に、物証を固めましょう」
数秒の沈黙。
やがて、セリーナは頷いた。
「……あなたのやり方に、従うわ」
(信頼、少し前進)
佐津野は、床の魔法陣の一部を指でなぞった。
「この魔法。
発動条件は“術者の血”ですね」
「……なぜ分かるの?」
「血液反応式が、
うちの世界の指紋検出薬に似てる」
リーナは、思わず小さく笑った。
「本当に、変な人」
「よく言われます」
こうして、
剣と権力に頼る騎士団と、
証拠と理屈で迫る警察官。
二つの正義が交わることで、
異世界初の“魔法犯罪捜査”は、
確実に真相へ近づいていくのだった。




