最終話 異世界警察、完成
朝の光が、詰所の窓から差し込む。
新しい板が、壁に掛けられていた。
――王国警察 組織図(正式版)
中央にあるのは、
もう佐津野圭の名前ではない。
責任者:ミーア
現場統括:若手班長
内部監査:独立担当
騎士団連絡官:セリーナ
そして、端の方に小さく――
顧問:佐津野
* * *
「……本当に、これで」
若い警察官が、少し緊張した声で言う。
「はい」
ミーアが、静かに答える。
「今日から、正式発足です」
セリーナが、組織図を見上げる。
「長かったわね」
「はい」
佐津野は、短く頷いた。
* * *
その時、扉が叩かれる。
「警察を呼んでくれ!」
急いだ声。
誰も佐津野を見ない。
ミーアが立ち上がる。
「対応します」
若い警察官が、すぐに続く。
「基準、確認済み」
セリーナは、腕を組んだまま見送る。
* * *
詰所の中に、佐津野は残る。
足音が遠ざかる。
指示も、助言も、求められない。
机の上には、記録簿が整然と並んでいる。
そのどれもが、
佐津野一人のものではない。
* * *
外では、小さな迷子騒ぎ。
若い警察官がしゃがみ、
子どもと目線を合わせる。
「名前は?」
「お母さんは?」
声は落ち着いている。
ミーアが、横で記録を取る。
数分後、母親が駆け寄る。
「ありがとう……警察さん」
その言葉に、名前はない。
制度が呼ばれている。
* * *
詰所に戻る足音。
「解決しました」
ミーアが報告する。
「問題なし」
若い警察官も頷く。
「そうですか」
佐津野は、それだけ言った。
* * *
夕方。
正式な文書が、王都から届く。
――王国警察、常設機関として承認
印章が押されている。
セリーナが、小さく笑う。
「これで、後戻りはないわ」
「はい」
佐津野は、窓の外を見る。
* * *
夜。
詰所の灯りが消える前。
ミーアが、少し迷ってから言った。
「……今日は、もう帰ってください」
「顧問は、常駐義務ありません」
若い警察官も、照れくさそうに続ける。
「大丈夫ですから」
沈黙。
佐津野は、ゆっくりと立ち上がる。
椅子を押し戻す音が、やけに静かに響く。
「……では」
それだけ言って、扉へ向かう。
* * *
外は、夜風が柔らかい。
詰所の中では、まだ灯りが残っている。
誰かが書類をめくる音。
誰かが巡回準備をする音。
止まらない。
振り返らない。
* * *
こうして、
この世界に――
警察は完成した。
英雄が去ったからではない。
英雄が、
いなくても回るようになったからだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、剣も魔法もある世界で、
それでも「記録」と「手続き」を選んだ人の話でした。
強い敵は、ほとんど出てきません。
派手な決戦もありません。
代わりにあったのは、
判断の迷いと、責任の重さでした。
佐津野がやったことは、
世界を変えることではなく、
「世界が勝手に戻らないようにすること」だったと思います。
私は警察という組織について
全員に好かれる仕事ではなく、線を引く人がいなくならないようにする仕事
だと考えています。
現実の警察官は佐津野よりもずっと大変な思いをしていることでしょう。
警察官がいるから、安心して生活でき、被疑者、被害者の人権が守られているのだと思います
この物語を書きながら、
一番怖かったのは、
「英雄にしてしまうこと」でした。
でも最後に、
名前ではなく「警察」を呼ぶ声が残りました。
それで、十分です。
ありがとうございました。




