第40話 司法は警察の味方ではない
判決の日、詰所は静まり返っていた。
誰も口に出さないが、
期待はあった。
倉庫三区の件。
自白も、記録も、監査も通した。
手続きは整っている。
「……重くなりますよね」
若い警察官が、ぽつりと言う。
「分かりません」
佐津野圭は、短く答えた。
「決めるのは、司法です」
* * *
評議の場。
証拠は提示された。
証言も整理されている。
手続きに瑕疵はない。
だが――
「主導性は限定的」
「反省の態度あり」
「地域の安定を優先」
量刑は、警察の想定より軽かった。
ざわめきが起きる。
* * *
詰所に戻る途中、
石畳の上で市民の声が飛ぶ。
「甘い!」
「何のために捕まえたんだ!」
若い警察官が、拳を握る。
「……意味、あったんですか」
佐津野は、足を止めない。
「ありました」
「どこにですか」
「手続きに」
* * *
詰所。
ミーアが、判決文を書き写している。
――有罪
――量刑:軽減
――理由:上記の通り
「……納得、できません」
若い警察官が言う。
「私もです」
ミーアが、正直に答える。
沈黙。
全員が、佐津野を見る。
* * *
「それでいい」
佐津野は、静かに言った。
「警察は、
結果を決める組織ではありません」
「でも、被害者は」
「守ります」
即答。
「守るのは、
裁きの前までです」
「裁きそのものは、
司法の役目です」
* * *
セリーナが、低く言う。
「怒らないの?」
「怒ります」
佐津野は答える。
「感情はあります」
「でも――」
一拍。
「司法が警察の味方になった瞬間、
力は一方向に偏ります」
* * *
夕方。
倉庫街。
被害者の一人が、佐津野を見た。
「……軽いな」
その言葉は、責めるでもなく、
ただ事実を述べていた。
「はい」
佐津野は、目を逸らさない。
「軽いです」
「でも、
手続きは守られました」
男は、少しだけ黙り、
やがて言った。
「……次も、やるのか」
「はい」
即答だった。
* * *
夜。
詰所。
ミーアが、ぽつりと呟く。
「警察って、
味方がいませんね」
「います」
佐津野は、灯りを落としながら言う。
「基準が」
* * *
壁に、新しい一文が加わる。
――司法は独立している
それは、警察にとって
勝利の宣言ではない。
だが――
健全さの証明だった。
佐津野は、最後に帳簿へ一行書き加える。
――判決に対する抗議なし
――手続き完了
窓の外。
夜風が吹く。
警察は、勝たなかった。
だが――
壊れもしなかった。




