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第4話 騎士団女性の職務質問、それは任意ですか、強制ですか

「――止まりなさい」


その声は、剣よりも鋭かった。


冒険者ギルドを出た佐津野圭は、反射的に足を止める。

声の主は、正面――街路の中央に立っていた。


銀色の胸当て、王国紋章の入ったマント。

引き締まった体躯に、長い黒髪を一つに結んだ女性騎士。


年の頃は二十代前半。

だが、その眼差しは歴戦の兵士のそれだった。


「王国騎士団、第三中隊所属。

副隊長のセリーナ・エルフェルトです」


周囲の空気が、一段冷える。


(……騎士団副隊長。

つまり、この街の“武力の象徴”か)


「あなたが、街道で魔物を逃がしたという人物ですね」


「逃がしてはいません。

再犯防止措置に――」


「結構」


セリーナは一歩踏み出した。


「あなたには、

騎士団による事情聴取を受けてもらいます」


「拒否権は?」


「ありません」


即答。

さすが異世界。


だが、佐津野は慌てなかった。


「では、こちらからも確認させてください」


「……何を?」


「あなたは、その件の直接の被害者ですか?」


リーナが、ぴたりと止まる。


「いいえ」


「目撃者?」


「それも違います」


「では、職務権限に基づく聴取ですね」


「そうですが――」


「了解しました」


佐津野は、すっと両手を見える位置に出した。


「任意ですか、強制ですか?」


「……は?」


リーナの眉が、わずかに動く。


「連行するなら、

理由と法的根拠を明確にしてください」


「……あなた、騎士団を挑発しているの?」


「確認しているだけです」


沈黙。


周囲の市民が、遠巻きに様子をうかがっている。


やがて、セリーナは深く息を吐いた。


「……任意、という形にしましょう」


「ありがとうございます」


(交渉成立)


騎士団詰所の一室。

簡素な机と椅子が向かい合う。


「――では、説明を」


セリーナが腕を組む。


佐津野は、これまでの経緯を淡々と話した。

取調べ。動機。再犯リスク。代替措置。


話し終えたとき、セリーナはしばらく黙っていた。


「……理解はできました」


「賛同は?」


「しません」


即答。


「魔物は、人を殺します。

私は、それを何度も見てきました」


「はい」


「だから、殺す前に殺す。

それが騎士団の正義です」


佐津野は、視線を逸らさなかった。


「あなたの正義は、

“結果”だけを見ている」


セリーナの目が、細くなる。


「……何が言いたいの」


「原因を断たなければ、

結果は繰り返される。

それに誰でもやり直すチャンスは、

与えられるべきだ」


静かな声。


「あなたは剣で、

俺は話で止めたい」


一拍。


「……甘い」


セリーナはそう言ったが、

その声には、確かな迷いがあった。


「でも」


立ち上がり、佐津野を見下ろす。


「あなたは、命を賭けて責任を取ると言った」


「はい」


「その覚悟が本物か――

私が直接、確認します」


「……どうやって?」


セリーナはマントを翻し、扉へ向かった。


「次の非討伐案件。

私も同行する」


振り返り、微かに笑う。


「逃げたら、即逮捕よ。

――騎士団にね」


「それは困ります」


佐津野は苦笑した。


こうして、

異世界初の“警察官”と、

王国騎士団の女副隊長。


正義の形が違う二人の、

危険で面倒なコンビが誕生したのだった。

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