第3話 冒険者ギルド、事情聴取
「――で?
あんた、何者だ」
木製の机を挟んで、佐津野圭は睨まれていた。
場所は冒険者ギルド。
街で一番人が集まり、金と暴力と噂が飛び交う場所だ。
向かいに座るのは、受付嬢ではない。
ギルドの監査役――筋骨隆々の中年男、顔に古傷。
「通り名はあるか?」
「ありません」
「所属は?」
「個人です」
「武器は?」
「手錠です」
「……は?」
周囲にいた冒険者たちが、どっと笑った。
「冗談はいい。
魔物を逃がした件について、説明しろ」
「逃がしていません。
再犯防止措置に切り替えただけです」
「意味がわからん」
監査役は額を押さえた。
「街道で魔物を捕縛したなら、
討伐証明を提出し、報酬を受け取る。
それがルールだ」
「そのルールは、“死体”が前提ですよね」
「当然だ」
佐津野は、机に一枚の紙を置いた。
「こちら、被害者である商人の参考人調書。
怪我なし、物品被害なし、被害届提出の意思なし。」
「……だから何だ」
「犯罪としては、未遂。
そして被害者に被害届提出の意志がない。
殺す理由はありません」
一瞬、場の空気が張りつめた。
「……この世界ではな」
監査役が低い声で言う。
「魔物は“話し合う対象”じゃない」
「知っています」
佐津野は静かに頷いた。
「でも、“話せる”ことは確認しました」
その言葉に、今度は笑いが止まった。
「……ふざけているのか?」
「いえ。
取調べを行い、動機と再犯リスクを評価しました」
「ヒョウカ?」
「またやる可能性があるかどうか、です」
監査役は椅子にもたれ、腕を組んだ。
「仮にだ。
そいつがまた人を襲ったら、誰が責任を取る?」
佐津野は即答した。
「俺です」
どよめき。
「……命でか?」
「職で」
「……は?」
「警察官なので」
沈黙。
監査役は、しばらく佐津野を見つめてから、ため息をついた。
「……面倒な奴だ」
そう言って、机を指で叩く。
「だが、完全に否定もできん。
最近、街道の魔物被害は増えている」
「根本原因の調査が必要です」
「原因?」
「食糧不足。
生息域の変化。
人間側の開発」
冒険者たちが、顔を見合わせる。
「そんな発想、聞いたこともない」
「でしょうね」
佐津野は立ち上がった。
「なので提案があります」
「何だ」
「冒険者ギルド内に、
非討伐案件の調査枠を作ってください」
「……正気か?」
「試験運用で構いません。
責任は、俺が取る」
監査役はしばらく黙り込み――やがて、笑った。
「はは……はははは!」
「?」
「面白い」
立ち上がり、手を差し出す。
「名前を聞いてなかったな」
「佐津野です」
「俺はドラン。
ギルド監査役だ」
がっしりとした握手。
「いいだろう。
一つだけ条件がある」
「何でしょう」
「次に街道で問題を起こした魔物が出たら、
お前が最初に対応しろ」
「喜んで
異世界初の“警察ごっこ”が、
どこまで通用するか――見ててください」
冒険者ギルドでの事情聴取は、
こうして“前例のない前例”を作ったのだった。




