第29話 例外を求める者たち
その日、詰所の扉は三度叩かれた。
いずれも、
「特別扱い」の要請だった。
* * *
最初の客は、
老舗商会の代表。
「……今回は、
前例通りにしなくても」
「昔からの付き合いでね」
佐津野 圭は、
帳簿を閉じ、顔を上げる。
「前例は、
“都合の良い時だけ”
使うものではありません」
商人は、
苦笑した。
「融通が利かないな」
「はい」
即答だった。
* * *
二人目は、
騎士団の下級貴族。
「家名がある」
「表沙汰は、
避けたい」
ミーアが、
一瞬だけ眉を動かす。
「前例があります」
佐津野は、
淡々と告げる。
「身分は、
手続きに影響しません」
「……王に、
話を通すぞ」
「どうぞ」
佐津野は、
視線を逸らさない。
「記録も、
一緒に回ります」
* * *
三人目。
予想外だった。
「……俺だ」
倉庫三区事件で、
最初に自白した男。
保釈中。
「協力した」
「だから――」
佐津野は、
遮らない。
最後まで、
聞いた。
* * *
「例外を、
求めたい」
男の声は、
弱い。
「完全な自由を」
室内が、
静まり返る。
* * *
「……答えは、
同じです」
佐津野は、
ゆっくり言う。
「例外は、
前例を壊します」
「協力は、
記録に残っています」
「それ以上でも、
それ以下でもありません」
男は、
唇を噛んだ。
* * *
ミーアが、
小声で言う。
「……冷たいですね」
「いいえ」
佐津野は、
静かに否定した。
「公平です」
* * *
午後。
評議会からの使者。
「柔軟性が、
必要では?」
「柔軟性は、
前例を積み重ねて
得るものです」
「最初から、
歪めてはいけません」
使者は、
言葉を失った。
* * *
夕方。
苦情箱。
一枚だけ、
紙が入っていた。
「警察は、
融通が利かない」
佐津野は、
それを読み、
帳簿に挟む。
――意見として保管
* * *
夜。
詰所の灯り。
ミーアが、
ぽつりと言う。
「……嫌われますよ」
「はい」
佐津野は、
頷いた。
「例外を断る仕事は、
好かれません」
「でも――」
ペンを置く。
「それを始めたら、
警察は
“誰かの味方”に
なってしまう」
* * *
窓の外。
噂が、
静かに広がる。
「警察は、
例外を認めない」
「誰でも、
同じらしい」
それは、
不満でも称賛でもない。
ただの――
警戒だった。
剣も、魔法もない。
それでも――
例外を拒み続ける限り、
前例は
力を持ち続ける。




