表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/43

第26話 裁かれる前に守るもの

留置室は、思ったより静かだった。


鉄格子。

石床。

簡素な寝台。


だが――

ここはまだ「罰の場所」ではない。


* * *


「……随分、

扱いが軽いな」


留置された男が、

低く言った。


「裁きは、

まだですから」


佐津野 圭は、

帳簿を手に答える。


「あなたは、

被告予定者であって、

罪人ではありません」


男は、

一瞬だけ目を瞬かせた。


* * *


「逃げるかもしれない」


「仲間が、

奪い返すかもしれない」


騎士団の副官が、

腕を組む。


「だからこそ、

守ります」


佐津野は、

即答した。


「……守る?」


「裁かれる前に、

傷つけさせない」


* * *


詰所会議。


「留置中の権利」


佐津野は、

板に文字を書く。


・暴行を受けない

・脅迫されない

・無断で処罰されない

・記録が残る


「……犯罪者を、

甘やかすのか?」


若い騎士が、

苛立った声を出す。


「いいえ」


佐津野は、

視線を外さない。


「裁きの価値を、

下げないためです」


* * *


ミーアが、

小さく呟く。


「……裁く前に、

守る」


「はい」


佐津野は、

頷いた。


「守られなかった裁きは、

ただの報復になります」


* * *


夜。


留置室の前。


「……なあ」


男が、

声を落とす。


「俺を、

守る理由があるのか」


佐津野は、

鍵を確かめてから答えた。


「あります」


「あなたが、

“人として扱われた”と

記録に残すためです」


男は、

黙り込んだ。


* * *


翌朝。


石が、

詰所の壁に当たる。


「犯罪者を、

守るな!」


罵声。


騎士団が、

一瞬、身構える。


「下がってください」


佐津野が、

一歩前に出る。


「説明します」


* * *


群衆に向かって、

佐津野は言った。


「裁く前に守れなかった者は、

正しく裁けません」


「警察は、

感情の代行者ではありません」


「手続きの管理者です」


沈黙。


完全な理解ではない。

だが――

石は、もう飛ばない。


* * *


夕方。


留置簿に、

新しい項目が加えられる。


――留置中、

身体・精神の異常なし


ミーアが、

息を吐く。


「……一つ、

線を引きましたね」


「はい」


佐津野は、

静かに言う。


「この線を越えたら、

警察は警察でなくなります」


* * *


夜。


留置室の灯りが、

一定の間隔で巡回される。


男は、

天井を見つめながら呟いた。


「……ここは、

思ったより、

怖くねえな」


それは、

褒め言葉ではない。


だが――

警察にとっては、

必要な言葉だった。


剣も、魔法もない。

それでも――


裁かれる前に守ることは、

正義を濁らせないための

最低条件だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ