第25話 初の正式逮捕
朝。
王都の鐘が、
いつもより重く鳴った気がした。
* * *
「――条件は、揃いました」
警察詰所。
机の上には、積み上がった記録。
証言。
動線。
資金。
暴行の事実。
佐津野圭は、最後の紙に目を通し、
静かにペンを置いた。
「本日付で――」
一呼吸。
「正式逮捕を行います」
室内に、
短い緊張が走る。
* * *
「……ついにですね」
ミーアが、
少しだけ声を震わせる。
「はい」
佐津野は、
頷いた。
「これは、
警察としての初仕事です」
「英雄行為ではありません」
「見せしめでもありません」
「ただの、
手続きです」
* * *
騎士団詰所。
セリーナ・エルフェルトが、
鎧を整えながら言う。
「立会い、
確認した」
「武力行使は?」
「不要です」
佐津野は、
はっきり答えた。
「抵抗があれば、
その時にお願いします」
「……相変わらずね」
「はい」
* * *
倉庫三区・南端。
朝靄の中。
「……来たぞ」
用心棒の一人が、
呟いた。
逃げない。
隠れない。
逃げ道は、
もう無い。
* * *
「警察です」
佐津野の声は、
大きくなかった。
だが、
はっきりしていた。
「あなたを、
傷害・違法取引関与の容疑で、
逮捕します」
男が、
苦く笑った。
「……ようやくか」
「はい」
佐津野は、
頷く。
「今日です」
* * *
手錠が、
静かに嵌められる。
剣は抜かれない。
叫び声もない。
周囲の人々が、
息を詰めて見守る。
「……説明は?」
「します」
佐津野は、
一枚の紙を差し出した。
「容疑内容」
「理由」
「今後の手続き」
「質問は、
後で受けます」
男は、
紙を見て――
小さく息を吐いた。
「……ちゃんとしてんな」
* * *
移送中。
「……怖くないのか」
男が、
ぽつりと言う。
「何が?」
「恨みだ」
「あります」
佐津野は、
否定しない。
「でも――」
視線を、
前に向けたまま言う。
「恨みで、
判断は変えません」
* * *
詰所。
記録板に、
新しい札が掛けられる。
――正式逮捕 第一号
ミーアが、
小さく呟く。
「……本当に、
始まりましたね」
「ええ」
佐津野は、
帳簿に書き込む。
時刻。
場所。
理由。
「逮捕は、
終わりではありません」
「ここからが、
仕事です」
* * *
夕方。
市民の噂が、
静かに広がる。
「捕まったらしい」
「警察が、
本当に捕まえた」
派手さはない。
だが、確かだ。
* * *
夜。
詰所の灯りは、
今日も消えない。
佐津野は、
最後に一文を書いた。
――感情を挟まず、
手続きを完遂
ペンを置き、
静かに息を吐く。
剣も、魔法もない。
だが――
初の正式逮捕は、
この世界に
“逃げられない現実”を
刻み込んだ。




