第23話 逃げ道を塞ぐという仕事
「――捕まえに行かないんですか」
若い警察官が、地図を見下ろしながら言った。
倉庫三区。
人の流れ。
裏道。
抜け道。
赤い印が、いくつも打たれている。
「いいえ」
佐津野圭は、首を振った。
「今日は、捕まえません」
* * *
「逃げ道を、塞ぎます」
静かな声だった。
「……どういう意味です?」
「物理的な道ではありません」
佐津野は、別の紙を広げた。
・取引先
・支払い
・雇い主
・口利き役
・黙らせ役
「選択肢です」
* * *
まず、商人組合。
「……倉庫三区の荷?」
組合長が、眉をひそめる。
「今後、
警察が記録を取ります」
「違法性が確認された場合、
取引停止の勧告を出します」
「……騎士団じゃなく?」
「警察です」
組合長は、
一瞬だけ黙り――
頷いた。
「……面倒だな」
「はい」
佐津野は、
淡々と答える。
「でも、
一番効きます」
* * *
次は、港湾管理。
夜間搬入の許可。
人員登録。
「……この名前」
管理官が、
帳簿を指差す。
「倉庫三区と、
同じですね」
「一致しています」
「……明日から、
許可を精査します」
* * *
午後。
冒険者ギルド。
「用心棒の斡旋?」
受付が、
資料を見て顔を曇らせる。
「正式な依頼記録が、
ありません」
「それを、
記録に残します」
「……仕事、
減りますよ」
「違法な分だけです」
* * *
夕方。
倉庫街。
人の動きが、
目に見えて変わった。
見張りが減る。
荷が動かない。
指示が、遅れる。
「……逃げてませんよね?」
ミーアが、
小声で言う。
「逃げられません」
佐津野は、
即答した。
「逃げる先を、
先に潰しました」
* * *
夜。
詰所。
苦情箱に、
珍しく一枚も入っていない。
「……静かですね」
「はい」
佐津野は、
帳簿に書き込む。
――倉庫三区
活動低下を確認
「これで、
明日は?」
「向こうが、
動きます」
「どうして?」
「人は、
詰まると必ず動きます」
* * *
翌朝。
詰所の扉が、
荒く叩かれた。
「……警察だな」
用心棒の一人。
目の下に、
隈。
「話がある」
* * *
取り調べ室。
「……分かった」
男は、
肩を落とした。
「もう、
回らねえ」
「誰が、
元締めだ」
男は、
一瞬だけ逡巡し――
口を開いた。
* * *
夜。
帳簿に、
新しい線が引かれる。
ミーアが、
息を吐いた。
「……捕まえずに、
追い詰めた」
「はい」
佐津野は、
ペンを置いた。
「逃げ道を塞ぐのは、
追跡より地味で、
でも確実です」
窓の外。
倉庫街の灯りが、
一つ、また一つと消えていく。
剣も、魔法もない。
だが――
逃げられない状況を作ることこそ、
警察の仕事だった。




