第21話 初の一斉事情聴取
夜明け。
倉庫三区の一角に、
即席の仕切りが立てられた。
椅子。
机。
記録係。
「……これが」
ミーアが、周囲を見回す。
「一斉事情聴取、ですか」
「はい」
佐津野圭は、帳簿を開いた。
「初めてなので、
混乱は前提です」
* * *
対象者は、七名。
用心棒。
見張り役。
荷運び。
倉庫管理人。
全員、
別々の席に離れて座らされている。
「一人ずつ、
順番に話を聞きます」
「同時に、
同じ質問をします」
セリーナが、眉を上げた。
「……拷問も、
威圧も無し?」
「無しです」
「……随分、
大人しい」
「だから、
比べられます」
* * *
最初の質問。
「昨夜、
この場所で何をしていましたか」
全員、
ほぼ同じ答えをした。
「仕事だ」
「頼まれただけ」
「知らない」
佐津野は、
ペンを止めない。
* * *
二つ目。
「誰の指示でしたか」
ここで、
答えが揺れた。
「管理人だ」
「用心棒だ」
「自分の判断だ」
ミーアが、
小さく息を呑む。
* * *
三つ目。
「昨夜、
誰が“手を出した”か」
沈黙。
一人が、
言った。
「……知らない」
別の一人が、
視線を逸らす。
佐津野は、
何も言わない。
ただ、
同じ質問を――
全員に。
* * *
一時間後。
紙の上には、
線が引かれていた。
同じ時刻。
同じ場所。
違う証言。
「……あぶり出されてますね」
ミーアが、
声を落とす。
「はい」
佐津野は、
淡々と答えた。
「嘘は、
一人だと成立します」
「でも――」
線を、
交差させる。
「複数人だと、
崩れます」
* * *
四つ目。
「昨夜、
ここにいなかった人は?」
一人、
名が出る。
二人目も、
同じ名を出す。
三人目は、
黙った。
「……ここです」
佐津野が、
顔を上げる。
「沈黙は、
情報です」
* * *
最後。
「暴行について、
どう思いますか」
返答は、
分かれた。
「必要だった」
「やりすぎだ」
「知らない」
佐津野は、
全てを書いた。
評価も、
感想も、
加えない。
* * *
昼。
簡易会議。
壁には、
証言の対応表。
「……これ」
セリーナが、
指を差す。
「用心棒が、
全体を動かしてる」
「ええ」
佐津野は、
頷く。
「管理人は、
名義貸し」
「見張りは、
末端」
「暴行は――」
紙を、
一枚抜き取る。
「個人の判断ではない」
* * *
一人の用心棒が、
顔を青くして言った。
「……全部、
書くのか」
「はい」
「俺が言ったことも?」
「はい」
「……消せないのか」
佐津野は、
はっきり言った。
「消せる記録は、
意味を持ちません」
* * *
夕方。
全員に、
同じ説明がなされた。
「今日の事情聴取は、
ここまでです」
「処分は、
後日、
記録に基づいて判断します」
「……今日は、
捕まえないのか」
「はい」
佐津野は、
頷いた。
「今日は――」
帳簿を閉じる。
「全体像を、
作る日です」
* * *
夜。
詰所。
帳簿の厚みが、
確実に増していた。
ミーアが、
静かに言う。
「……怖いですね」
「何が?」
「剣より」
佐津野は、
小さく頷いた。
「ええ」
「記録は、
逃げ場を残しません」
剣も、魔法もない。
だが――
初の一斉事情聴取は、
“個人の罪”を
“構造の罪”へと変え始めていた。




