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第2話 異世界初の取調べは、机と椅子から始まる

「……で?」


佐津野は、目の前のゴブリンを見下ろしていた。


「グ、グルル……」


両手は後ろで固定。

日本製の手錠は、異世界の魔物相手でもしっかり仕事をしている。


「逃げようとしない。暴れない。

よし、最低限の意思疎通はできそうだな」


現在地は街道脇。

被害者の商人は無事で、近くの村まで避難させた。


問題は――このゴブリンだ。


「普通なら、討伐されて終わりなんだろうな」


商人の話では、

「魔物は見つけ次第、殺すのが常識」らしい。


だが。


「はい終了、とはいかない」


佐津野は地面に棒で線を引き、近くにあった丸太などを机と椅子に代用し、即席の“取調室”を作った。


「今から取調べを行う。どんな事情があったのか話してくれ。言いたくないことは言わなくてもいい。」


「グ……?」


「まずは座ろうか。」


有無を言わせぬ声に、ゴブリンはおずおずと腰を下ろす。


佐津野も正面に座った。


「まず確認する。

名前は?」


「……ゴ、ゴブ」


「ゴブだな。年齢は?」


「ワカラナイ」


「少年か成人かも分からんな。

じゃあ次。さっきの商人を襲った理由は?」


ゴブリンは目を泳がせ、牙をカチカチ鳴らした。


「……タベモノ、ナイ」


「空腹ということか。」


頷く。


「村を襲わず、街道の商人を狙った理由は?」


「ヒト、ヨワイ」


「単独行動で、武器も貧弱。

合理的判断、ってわけか」


ゴブリンが、少し驚いた顔をした。


「……オマエ、ワカル?」


「仕事だからな」


佐津野は腕を組む。


(動機は生存。

計画性あり。衝動的ではない)


ここで一つ、重要な違和感があった。


「なあ、ゴブ」


「グ?」


「殺すつもりだったか?」


その質問に、ゴブリンははっきりと首を横に振った。


「ニゲル。タベモノ、トル。コロス、ムダ」


「……なるほど」


殺意なし。

強盗未遂に近い。


(この世界の基準なら“討伐対象”だが……)


佐津野は立ち上がった。


「結論を言う」


ゴブリンの体が強張る。


「お前は俺の基準では、

即刻処刑に値する凶悪犯ではない」


「……?」


「ただし、犯罪は犯罪だ」


佐津野はゴブリンの目をまっすぐ見た。


「次に同じことをしたら、

今度は本気で止める」


そして、手錠を外す。


「代わりに――選択肢をやる」


「センタクシ?」


「村で働く。労働の対価として、食事を得る。二度と街道で人を襲わない」


沈黙。


やがて、ゴブリンは地面に額を擦りつけた。


「……ヤル」


その瞬間。


「――何をしている!」


背後から、怒声が飛んだ。


振り返ると、剣と鎧で武装した冒険者たちが立っている。


「魔物を逃がす気か!?

そいつは討伐対象だぞ!」


佐津野は、ゆっくりと立ち上がった。


「いいえ。

取調べの結果、再犯防止措置に切り替えました」


「……は?」


冒険者たちが固まる。


佐津野は胸を張り、はっきり言った。


「この世界にはまだ無いみたいなので、

今ここで宣言します」


手錠を掲げて。


「――俺は警察官です。

殺す前に、話を聞く」


異世界で初めての“取調べ”は、

こうして常識との衝突を生んだのだった。

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