第15話 内部規律という名の刃
「――処分、ですか」
詰所の奥。
簡素な会議机を挟んで、若い警察官が俯いていた。
「はい」
佐津野圭は、低い声で答える。
「内部規律違反です」
室内の空気が、重く沈む。
* * *
発端は、小さな出来事だった。
夜回り中、
市民に対する乱暴な口調。
報告書には、
“注意した”とだけ書かれていた。
だが、苦情受付には、
別の記録が残っている。
「威圧された」
「怖くて話せなかった」
「……悪気は、
無かったんです」
青年警察官が、震える声で言う。
「命令に従わせる方が、
早いと思って」
「分かります」
佐津野は、頷いた。
「でも――」
机に、二枚の紙を置く。
「あなたの判断で、
市民は口を閉ざした」
「それは、
警察の敗北です」
青年が、息を呑む。
「……罰ですか」
「はい」
佐津野は、逃げなかった。
「口頭注意ではありません」
* * *
「厳しすぎない?」
セリーナが、廊下で腕を組む。
「初期メンバーよ。
士気が下がるわ」
「下げます」
佐津野は、即答した。
「一時的に」
「……」
「内部規律は、
刃です」
「外に向ければ、
暴力になります」
「内に向けて、
初めて道具になる」
セリーナは、目を伏せた。
「……騎士団じゃ、
ありえないやり方ね」
「だから、
警察です」
* * *
処分内容は、こうだった。
・減給(短期間)
・市民対応研修
・報告書の再提出
・当該市民への謝罪同行
「……謝罪まで?」
青年警察官が、顔を上げる。
「はい」
「あなた個人ではなく、
組織として謝ります」
* * *
翌日。
倉庫街の路地。
佐津野と青年警察官が、
例の商人の前に立つ。
「……警察です」
佐津野が言う。
「昨日の件について、
お詫びに来ました」
青年は、深く頭を下げた。
「……すみませんでした」
商人は、しばらく黙り――
そして、ため息をついた。
「……怒ってたわけじゃない」
「怖かっただけだ」
青年の肩が、震える。
「……次からは、
気を付けてくれ」
「はい」
* * *
詰所に戻る道すがら。
「……辞めたいと思ったか?」
佐津野が、静かに聞く。
「……思いました」
正直な答え。
「でも――」
青年は、前を見た。
「……これが、
警察なんですね」
佐津野は、何も言わず、
頷いた。
* * *
夜。
内部規律文書が、
一枚、追加される。
――市民への対応は、
警察の顔である
ミーアが、ぽつりと言う。
「外敵より、
内側の方が怖いですね」
「はい」
佐津野は、ペンを置いた。
「でも――」
灯りの下で、
その文字は静かに乾いていく。
「自分たちを斬れる組織だけが、
人を守れます」
剣も、魔法もない。
だが――
内部規律という刃が、
異世界警察を本物にしていく。




