第13話 初任給と制服
「――で、これが初任給です」
警察詰所の机の上に、小さな革袋が置かれた。
「……少なくない?」
ミーアが、袋の中を覗いて首をかしげる。
「試験導入ですから」
佐津野圭は、淡々と答えた。
「最低保証。
危険手当なし。
残業代という概念も、まだ無い」
「ひどい職場ね」
「公務員ですから」
即答だった。
* * *
「問題は、こっちよ」
セリーナ・エルフェルトが、別の紙束を机に置く。
――王国警察 制服案(暫定)
「……これは」
描かれていたのは、
騎士団の鎧を簡略化したような服装だった。
「一目で“権威”が分かる」
「威圧感も、十分」
「騎士団と誤認されない配色にしてある」
セリーナは、真剣だ。
だが。
「却下です」
佐津野は、即座に言った。
「え?」
「警察は、
“近づいてもいい存在”でなければならない」
「鎧は、
距離を作ります」
ミーアが、手を挙げる。
「じゃあ……
冒険者みたいなのは?」
「それもダメです」
「なぜ?」
「強そうに見えるから」
沈黙。
「……警察って、
弱く見せる職業なの?」
セリーナが、少し困惑した声で言う。
「はい」
佐津野は、真剣な顔で頷いた。
「弱く見えて、
逃げない職業です」
* * *
数時間後。
机の上に並んだ、
新しい案。
・動きやすい布製
・武器を目立たせない
・色は落ち着いた濃紺
・胸に、小さな紋章
「……地味ね」
「覚えやすいです」
「剣は?」
「原則、携行しません」
セリーナが、眉を上げる。
「……それで、
危険な相手にどうするの?」
佐津野は、静かに答えた。
「呼びます」
「騎士団を?」
「はい」
「……本当に、
役割分担する気なのね」
「混ざると、
責任が曖昧になります」
セリーナは、しばらく考え――
小さく笑った。
「納得はしないけど、
理解はできるわ」
* * *
翌日。
初めての“制服試着”。
「……どうだ?」
鏡の前で、若い槍使いの青年が照れたように言う。
「強そうじゃない」
「でも、
仕事してそう」
ミーアが、頷く。
「街の人が、
声をかけやすそうです」
佐津野は、胸の紋章を確認した。
「それでいい」
* * *
夕方。
倉庫街を、
制服姿の警察官たちが歩く。
剣はない。
鎧もない。
「……おい」
通りすがりの商人が、
恐る恐る声をかけた。
「昨日の盗難の件……
進んでるか?」
「はい」
青年警察官が答える。
「今日、
聞き込みを続けます」
商人は、少し驚いた顔で、
そして――頭を下げた。
「……頼む」
その様子を、
離れた場所からセリーナが見ていた。
「……なるほど」
呟く。
「英雄の格好じゃない」
「はい」
佐津野は、隣で答えた。
「仕事をする人の格好です」
* * *
夜。
初任給の袋を、
それぞれが手にしている。
「多くはないけど」
ミーアが笑う。
「自分の仕事で、
もらったお金だ」
佐津野は、灯りを落とした。
剣も、魔法もない。
豪華な鎧もない。
だが――
制服と初任給は、
“警察が仕事として存在する”証明だった。




