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第12話 予算編成という名の戦場


「――で、いくら必要だ?」


王国庁舎・財務局会議室。

長机の向こうで、財務官が指を鳴らした。


剣も魔法もない。

だが、空気はこれまでで一番張り詰めている。


「まず、最低限で――」


佐津野圭は、資料を机に並べた。


「人件費。

詰所の修繕費。

記録用紙、保管棚、拘束具。

それと――」


「待て」


財務官が手を上げる。


「なぜ紙がそんなに要る?」


「記録のためです」


「記憶で足りるだろう」


「人は忘れます。

都合よく」


一瞬、沈黙。


セリーナ・エルフェルトは、壁際で腕を組んだまま、

会話を見守っている。


「……警察は、

結果を出したんじゃなかったか?」


別の官僚が言う。


「王都封鎖の件。

あれで十分だろう」


「違います」


佐津野は、首を振った。


「あれは例外的成功です」


「例外に、

制度を合わせてはいけません」


財務官が、鼻で笑う。


「だがな、

金は無限じゃない」


「ええ。

だから、優先順位を付けます」


佐津野は、一枚の紙を前に出した。


「これが、

“警察が無かった場合”の損失試算です」


盗難被害。

魔法犯罪。

暴動時の被害拡大。


数字が、静かに並んでいる。


「……これは」


「全部、

過去の記録から出しました」


「警察を作らなかった世界の、

実績です」


ざわめき。


「警察の予算は、

“出費”ではありません」


佐津野は、はっきり言った。


「将来の損失を減らすための投資です」


財務官が、目を細める。


「……脅しか?」


「説明です」


即答。


* * *


会議は、三時間続いた。


削られる項目。

守る項目。

妥協案。


「武装は最低限でいい」


「はい。

剣は騎士団が持てばいい」


「その代わり、

記録担当を増やす?」


「必要です」


「……妙な組織だな」


「警察ですから」


最後に残ったのは、

たった一行。


――王国警察 年度予算(試験導入)


財務官は、深く息を吐いた。


「……認めよう」


「だが条件がある」


「成果を、

数字で示せ」


佐津野は、深く頷いた。


「記録します」


「全部」


* * *


会議室を出た廊下。


「お疲れさま」


セリーナが言う。


「剣より、

よっぽど消耗した顔ね」


「はい」


佐津野は、正直に答えた。


「でも、

一番大事な戦場です」


「戦場?」


「ここで負けたら、

現場は守れません」


セリーナは、少し考え――

笑った。


「なるほど」


「あなた、

戦わない戦争が一番強いタイプね」


* * *


夜。


警察詰所。


新しい掲示が貼られる。


――王国警察 試験予算 承認


小さな拍手が起きた。


「地味ですね」


ミーアが言う。


「地味です」


佐津野は、書類を閉じた。


「でも――」


灯りの下で、ペンが走る。


「この地味さが、

世界を長生きさせます」


剣も、魔法もない。

だが確かに――


予算書の一行が、

異世界の未来を守り始めていた。


――次回

第13話 初任給と制服問題

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