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第11話 英雄ではなく、公務員として

「――英雄様!」


王都の広場は、人で埋め尽くされていた。


花。

歓声。

誰かが掲げる即席の旗には、こう書かれている。


――王都を救った男


「……まずいな」


佐津野圭は、小さく呟いた。


隣でセリーナ・エルフェルトが苦笑する。


「素直に喜べばいいのに」


「英雄扱いは、

あとで必ず歪みます」


* * *


王城・謁見の間。


玉座の前で、佐津野は片膝をついていた。

周囲には貴族、騎士団上層部、文官たち。


「佐津野 圭」


国王の声が響く。


「そなたは、

王都を救った英雄である」


「……恐れながら」


佐津野は、顔を上げた。


「その評価は、

辞退します」


ざわっ、と空気が揺れる。


「理由を聞こう」


「はい」


佐津野は、真っ直ぐ国王を見た。


「今回の件は、

一個人の武勇で解決したものではありません」


「結界の設計。

魔法犯罪対策。

騎士団の判断。

市民の混乱」


「それらすべてが重なった、

制度の事故です」


沈黙。


「私は、

その事故対応をしただけです」


「英雄ではありません」


「――公務員です」


文官たちが、顔を見合わせる。


国王は、しばらく黙ったあと、

低く笑った。


「……面白い」


立ち上がり、言う。


「では、褒賞も辞退するか?」


「金銭や称号は不要です」


「では、何を望む」


佐津野は、迷わず答えた。


「制度です」


「警察組織の正式化。

権限と責任の明文化」


「そして――」


一拍。


「英雄を作らない仕組みを」


ざわめき。


「個人に頼る国は、

いずれ破綻します」


「誰がやっても、

同じ結果になる」


「それが、

本当に強い国です」


長い沈黙の末。


「……よかろう」


国王は、杖を鳴らした。


「異世界警察を、

王国公認の組織とする」


「ただし」


鋭い目。


「責任者は、

引き続きそなたが担え」


「逃げるなよ」


佐津野は、深く頭を下げた。


「職務ですので」


* * *


王城の外。


群衆が、まだ待っている。


「英雄様、ひと言!」


「救国の警察官!」


佐津野は、セリーナと目を合わせ、

一歩前に出た。


「皆さん」


ざわめきが、静まる。


「今日は、

一人の英雄が国を救った日ではありません」


「制度が、人を救った日です」


「もし次に、

同じ危機が起きても」


「私がいなくても、

この国は守られます」


沈黙。


理解できない者もいる。

だが、何人かは、確かに頷いた。


* * *


夜。

警察詰所。


机の上には、

新しい書類が積まれている。


――王国警察設立準備要項。


「……増えたわね、仕事」


セリーナが言う。


「はい」


佐津野は、ペンを取った。


「でも、

やっとスタートラインです」


「英雄じゃなくて?」


「公務員です」


即答。


セリーナは、小さく笑った。


「この世界で一番、

厄介な職業ね」


灯りの下、

紙に記録が残されていく。


剣でも、魔法でもない。

だが確実に――


異世界は、

“誰かがやらなくてもいい未来”へ、

一歩進んだ。

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