第10話 王国の危機、警察官が救う
「――王都が、封鎖された」
その一言で、詰所の空気が凍りついた。
「魔法陣が暴走。
城門が閉ざされ、市場が混乱している」
報せを持ってきたのは、騎士団の伝令だった。
顔色は悪く、汗が鎧の内側を濡らしている。
「原因は?」
佐津野圭は、即座に問い返した。
「不明。
城内の結界が反応し、
“敵性魔力”を検知したらしい」
(敵性、ね……)
「つまり、
誰かが“敵だと判定された”」
セリーナ・エルフェルトが、歯を食いしばる。
「騎士団は、
反乱を疑っている」
「……最悪だ」
佐津野は、机に広げた地図を見下ろした。
「結界は、
“意図”じゃなく“条件”で動くはずです」
「ええ。
王都防衛用の古代魔法」
「なら――
誤作動の可能性が高い」
* * *
王都外縁。
閉ざされた城門の前には、人だかりができていた。
「開けろ!」
「中に家族がいるんだ!」
騎士たちは剣を抜き、
市民と対峙している。
「このままだと、
流血になります」
セリーナが、低く言う。
「させません」
佐津野は、一歩前に出た。
「騎士団長に、
五分ください」
「何をする気だ?」
「――原因を特定します」
* * *
城門脇の結界制御室。
魔法陣が、赤く脈動している。
「魔術師は?」
「全員、
“敵性反応”で排除された」
「……つまり、
今この場に近づけるのは」
佐津野は、自分を指した。
「魔力を持たない、
一般人だけ」
セリーナの目が、見開かれる。
「あなた……」
「警察官ですから」
制御室に入ると、
魔法陣の一部が、歪んでいた。
「ここだ」
佐津野は、指差す。
「“犯罪魔力”を検知する補助式が、
過剰に反応している」
「犯罪魔力?」
「魔法犯罪事件で、
後付けされた式ですね」
(皮肉だな……)
「犯罪を防ぐための仕組みが、
街を壊そうとしている」
佐津野は、魔法陣の前に立った。
「止めるには?」
「敵性判定を、
一時的に解除するしかない」
「解除条件は?」
セリーナが、唾を飲み込む。
「……“責任者の承認”」
「つまり」
佐津野は、静かに言った。
「誰か一人が、
すべての責任を引き受ける」
沈黙。
「私がやる」
セリーナが、前に出る。
「騎士団副隊長として――」
「ダメです」
佐津野は、首を振った。
「あなたは、
剣を持つ側だ」
そして、一歩踏み出す。
「だから――
俺がやります」
「佐津野!」
「警察官は、
失敗の責任を取る職業です」
手錠を、魔法陣の中心に置く。
「犯罪防止補助式、
一時停止」
魔法陣が、強く光る。
「承認者、
名を」
佐津野は、はっきりと言った。
「佐津野圭。
異世界警察、責任者」
光が、収束する。
* * *
――城門が、開いた。
歓声。
泣き声。
怒号が、安堵に変わっていく。
騎士団長が、佐津野の前に立った。
「……なぜ、
お前がそこまで背負う」
佐津野は、疲れた笑みを浮かべた。
「王国の危機ってやつは、
だいたい“誰かの判断不足”から始まります」
「なら」
「同じ失敗を、
記録して、二度と起こさない」
それが――
「警察の仕事です」
セリーナは、空を見上げた。
「……剣じゃ、
救えない日もある」
夕暮れの王都に、
鐘が鳴り響く。
この日、王国を救ったのは、
英雄でも、勇者でもない。
一人の警察官と、
“責任を引き受ける”という行為だった。




