オルゴール・オンライン
「『オルゴール・オンライン』?何これ?」
弟のVRゲーム機を物色していた音々は、奇妙なタイトルに思わず声を上げた。
リストのひとつ上は『オウンゴール・オンライン』、下は『オレオレ・オンライン』。その中では一番まともだ。
「音ゲーかな……?」
音楽家の両親を持つ音々は、幼い頃から高校生の今まで、多くの楽器を習わされたが、どれも長続きしなかった。
絶対音感を得たがために、自分の演奏のズレすら気持ち悪くなるのだ。
けれど、音の外れないオルゴールは好きだった。
少し迷った末、お試しプレイを選択。VRギアを被って横になると、アバターが七色の光の輪を抜け――
中世西洋風の街の広場に降り立つ。
「ようこそ、オルゴール・オンラインへ!ナビAIのピコでーす!」
ウサ耳で透明な羽根を揺らす小妖精が宙に浮かぶ。
音々の格好は革鎧装備、腰には短い杖と白い小箱。
「本作はオルゴールバトルRPGです!」
「何それ」
「相手のオルゴールを聴きながらタイミングよく杖を振り、得点の高い方が勝ちでーす!」
そこへ少年が駆け寄り、黒い箱を掲げる。
「お姉さん、勝負だ!」
「いいわ、受けて立つ!」
「【聖者の行進vs猫踏んじゃった】バトル開始!」
音と光が流れ、音々は杖を振る。音が外れない――それだけで胸が軽くなる。
(なるほど、カードバトルみたいな感じか。難しい曲ほど強いってことね)
「勝者、ネネさん!95点!」
少年は「すげー!」と目を丸くして笑った。
次は金ピカ鎧の男が金の箱を突きつける。
「小娘!オレ様とも勝負しろ!」
「初心者狩りです!」とピコが警告するが、音々は首を振った。「受けるわ。楽しくなってきたし」
「【革命のエチュードvs猫踏んじゃった】バトル開始!」
観客がざわつく。難易度差は歴然。しかし、音々の心には火がついていた。
音が、光が、世界を満たす。意識は音だけに向かい――
「キンキングさん98点!」
最後の一音が空に溶ける。
「ネネさんも演奏終了!99点!勝者ネネさん!」
大歓声。少年が無邪気に抱きついてくる。
(……そっか。私、まだ音楽が嫌いになったわけじゃなかったんだ)
ログアウトしたら――
(ピアノ、弾いてみよう。今なら、少しは好きになれる気がする)
音々の心に、小さなオルゴールの音が、そっと鳴り始めた。
お読みいただきありがとうございました!
今回はオルゴールがテーマのゆるいVR短編でしたが、
普段はもうちょっと騒がしい長編
『デスゲームに巻き込まれたのでマジチートしてイイですか?』
(マジチー)を連載しています。
バグ技、名古屋弁、ラーメンなど色々入り混じった
にぎやかVR冒険ものです。
よかったらこちらもどうぞ!
マジチー本編:
https://ncode.syosetu.com/n4658kt/
【ランキング入りのご報告とお礼】
VRゲーム〔SF〕日間(短編)3位をはじめ、いくつかのランキングに
入ることができました。
ポイントを入れてくださった皆さま、
読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます!
本作は「第7回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」
の応募作品ということもあり、
続きがあるとしたら締め切り後になりますが……
それでも音々やピコのその後を読んでみたい、という声があれば、
別エピソードを描いてみるのも楽しそうだな、と感じています。
1000文字縛りはちょっと駆け足になりすぎましたので……。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします!




