第7話
好きな人が取られた。黒崎さんが取られた。わたしのほうが先に好きだったのに。
黒崎さんが知らない女とキスしてた。
――許さない。
わたしがキスの痕を上書きしてやる。黒崎さんの身体の至るところにたくさんキスしてやる。知らない女より、わたしの黒崎さん愛は強くて重いんだから。
黒崎さんは襲われて、嫌がってた。目に涙を浮かべていた。怖がってた。
――それって犯罪じゃん。早く捕まればいいのに。(わたしのストーカー行為は棚に上げた)。
それと……最後、あの女はなにしようとしてた? ――ああ! もう。イライラする。
野外であんなコトしようとするなんて。頭おかしい。どうかしてる。
でも、わたしが介入したことで行為が阻止できたのはよかった。
わたしの頭も狂ってくる。ぐちゃぐちゃになる。心の糸が絡まって解けない。
でも所詮、知らない女とわたしは同類なのかもしれない。
だって――黒崎さんのキス顔を思い出して感じてるんだから。嫌がってる顔でも興奮できるんだから。
相手が嫌がってても、自分の私利私欲の為に行動できる、という点では一緒だ。
黒崎さん。わたし、黒崎さんが好きだよ。ずっとずっと一緒だよ。死んでも死ななくても一緒だよ。
知らない女のことは殺さないけど、近づけないようにしてあげるから、安心してね。
黒崎さんは襲われてきっとそれがトラウマになってる。だから……慰めて優しくすれば懐いてくれるかもしれない。好きになってくれるのかもしれない。
わたしは考えた。黒崎さんには優しく接してあげよう。
そして好きになってもらえて、自分からキスしてくれるようになったら、嬉しいな。
あはは。嬉しい。
――あの、黒崎さんが襲われた日の夜。
わたしは彼女に「許さないからね?」と一言だけ告げて、別々の帰路についたのだ。
あの日以降、彼女がアパートから出てこない日が続いた。
時折、すすり泣く声も聞こえてきて、傷ついているんだろうな、と思った。
これはわたしが癒やしてあげるしかない。
なのに、彼女は玄関を開けてくれない。
だから、いつものようにサーティワンのアイスをドアノブにかけてあげる。
そしたら、毎日アイスは回収されていたのだ。
引きこもりにとって、こういう支給品はありがたいのかな。
でももっと驚くべきことが起きた。
アパートから出てくる日の前日。
いつもはアイスとアイスが入った、ビニール袋、両方回収されてるはずなのにその日は何故かビニール袋だけがドアノブにぶら下がっていた。
何だろう……と思って袋の中を見てみると――メモ用紙が入っていたのだ。
そこには小さな可愛らしい文字で「いつもありがとうございます。アイス、美味しかったです。あなたのお陰でちょっとだけ、外の世界に出れそうです」と書かれていた。
これは……! チャンスかもしれない。
黒崎さんは翌日、アパートから出てきた。