第6話
辺り一面、真っ暗闇。
街灯に照らされて現れた、知ってる人。
紗香が息を呑む暇もなく、すぐさま押し倒された。コンクリートの冷たくて硬い感触が背中を通して伝わってくる。
でもそれよりも伝わってくるのは――。
「……んっ」
――キスの感触だ。
生温かくて、柔らかくて、彼女のそれは小さくて。
鼻と口を塞がれているから、上手く息ができない。
熱くて苦しい。
女同士のキスってこんなかんじだっけ?
そもそも、鼻まで塞ぐ必要ある?
激しいキスに苦しがる紗香。同意の得ない行為に彼女の首や背中には冷や汗が伝っている。
スカートが交わってくすぐったい。
柔らかい胸同士が触れ合ってドキドキする。
……女同士のキスってこんなかんじだったか。
口の中に舌がねじ込まれる。
「やめて下さい」と言いたいのに、口を塞がれているから言えない現状。
「んんん」
この行為は快楽的という表現は間違いで、屈辱的とか苦しい、痛いといったほうが正しい。いや、まだ痛くない。
スカートの中に少女の手が入ってくる。
――大事なところに触れる。
「――水野先輩?」
「もっと苦しがって」
どんどん近づいてくる距離に焦燥感が募る。
やめて。待って。いやだ。どうして。
先輩は紗香のことが好き、だったのだろうか。
「せ、先輩ってわたしのこと……――」
「――なにやってるの」
ドスのきいた声。
これはストーカーさんの声だった。
声に二人は反応する。
「あんた、誰?」
「あなた、誰ですか?」
「――行こう」
ストーカーさんは紗香の手首を掴み、走り出す。どこまでも遠くへ。先輩が追いかけてこれない場所まで。
こうして、性交渉は未遂に終わった。
でも疑問は残る。
ストーカーさんって一体誰なの?
どうして、面識のない紗香を助けたの?
ストーカーさんってこんなに可愛かったっけ?
近くで見るとやっぱり印象が違う。
そして……怒ってる?
「許さないからね?」
なぜ紗香が怒られないといけないのか。
水野先輩が悪いのに。理不尽だ。