第5話
どこからか視線を感じる。
夕方五時、いつものように黒崎紗香は帰宅ルートを辿っていた。この視線には慣れたもので、紗香の中では当たり前の日常になっていた。
最初は不気味に思っていたものの、あまりにもストーカーさんが何もしてこないので(もう気にしなくていっか)と腑に落ちてしまった。
でも最近になって、驚くべき事実を知ってしまった。
――ストーカーさんは女の子だったのだ。
くるっ、と振り返った時、ストーカーさんが身につけているフードからちょっと長めの黒髪がちらついた。
男性でもロン毛の人はいる。
でも、あんなに綺麗に切り揃えられた前髪の持ち主は女の子しかいない。
それにスカートが靡いたような影が見えたような気がしたし。
顔が見えたら決定打だけど、そう簡単にストーカーさんは素顔を見せてくれない。
女の子だったら、このストーキングは何目的なのだろう――。
強盗だったらどこか引っかかるし。そもそも紗香はそんなにお金、持ってないし。
性犯罪は同性同士だからあり得ないし。
誘拐だったら……もうとっくに誘拐されてない?
て感じで、どんなに考えても答えは見つからなかった。
ストーカーさんとはたまたま帰り道が同じなのかもしれない。何故、紗香はストーカーだと確信するのか。そう思われる方もいるだろう。
でもそれは――紗香がストーカーさんの家を知っているから。
性犯罪は同性同士だからあり得ない――。
どうしてそう思ったのだろう。そうとは限らないのに。当たり前は身体にしみついていた。
安直だった。
強い風が吹いた。刹那。
腕を知らない人に掴まれた。
知らない人……? いや、知っている人だ。
相手は欲しい獲物が手に入った、と言わんばかりにニヤニヤしていて。
一方、紗香は恐怖に怯えていて。
周りには二人の他に誰もいなかった。
もう紗香はこの人からは逃げられない。