表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

第3話


 何事にもきっかけはある。


 例に漏れずわたしもそうで、人を好きになるにはきっかけがあった。


 しかも好きになった瞬間は帰宅途中で。


 好きになった相手は名前も知らない女の子で。


 ――下ろされたセミロングの黒髪。透き通るような白い肌。黒い眼鏡をかけたその子は遠目から見ても近づいて見ても、かわいい女の子だった。


 だけどわたし、一目惚れなんてしない。

 好きになったきっかけはちゃんとある。



 あの日は雨の日だった。

 夏の夕方頃の雨は夕立ともいって、激しい雨がすぐ降ってすぐ止む。でも、学校から出た時には既に降っていて幸い傘を持ってきていたので、そのまま帰れた。


 ちなみにわたしの通学手段は『歩き』で学校からも近い。


「にゃー」


 にゃー?


 こんな激しい雨の日に子猫が外にいるの? 野良猫にしても雨とは似つかわしくない。


 ザアザア。


 すぐに猫の鳴き声は雨に掻き消される。


 「にゃー」


 ザアザア。ザアザアザー


 「にゃあ、にゃあっ」


 交互に聞こえる鳴き声と雨音。


 猫が負けじと雨音に対抗してやがる。


 これ、ホントに猫の鳴き声?


 どこか人間くさい。


 気のせいか……。


 「にゃにゃにゃにゃー。にゃんっ」


 いや、これ人間でしょ。


 しかも近づくと子猫でも人間の赤ちゃんでもなく、人間の女の子がそこにいた。


 ん?


 ――訂正。

 そこには人間の女の子がいて、人間の女の子の腕の中には白い子猫がいた。


 どうりで猫の鳴き真似が上手く聞こえたわけだ。


 女の子の猫の鳴き真似と猫の鳴き声、どっちも含まれてたわけね。


 ……て、こんなザアザア降りの雨の中、傘ささなくていいの?


 わたしは猫に夢中な女の子の頭を自分の傘で覆った。いわゆる、相合い傘というやつ。


 一瞬、女の子がこっちを向く。


 ――見てしまった。

 女の子のカッターシャツが雨に濡れて透け、ブラジャーがあらわになっているのを。


「あ、あの……ブラジャー透けて見えてるよ?」

「へっ!」


 へっ、へっ、へっくしょん! ってくしゃみでもするのか?


 と身構えていると……。


「へっ、ヘンタイ!」


 バシッと左頬をビンタされてしまった。


 親切心で教えてあげただけなのに……。


 これが「言わなくていいこと」のひとつに入るのだろう。


 女の子は子猫を抱えて、走り去ってしまった――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ