最終話
「……せ、狭いです」
「狭いからいいんじゃん」
確かに紗香の言う通り、このベッドはシングルベッドで二人で寝るには少し狭い。
それに紗香は小柄で、隙間にコンパクトに嵌ってしまったのがかえって彼女にとって居心地悪く感じたのだろう。
「……近いです」
「近いからいいんじゃん。もっと、近づいて?」
ググッと紗香ちゃんがわたしに近づいてくる。
もう顔がくっついちゃいそうな距離。――二人の鼻先が刹那、触れ合った。
唇ももうすぐ……。
「もう、いいよね?」
そうわたしが確認すると、紗香ちゃんは悪戯に笑った。
照れているような、緊張しているような、楽しみにしているような。そんな顔。
先輩とした時より、リラックスしているように見えた。
(先輩よりわたしのほうがいいんだ……)
そう一度思ってしまったら、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
――気持ちが抑えられなくなった。
紗香が着ている、カッターシャツのボタンを上から3個目まで外す。あの時のブラジャーとは違うブラジャーが露わになった。四年前より紗香の胸は成長していた。でも、触らない。
そして今度は馬乗りになった。
紗香ちゃんは目を点にさせていた。頬の色は変わらず赤のままで。
布団を全部はがしてキスをする。長く、長く触れ合った。体温を感じ合った。
――やっぱり、紗香ちゃんの唇は小さくてかわいい。わたし以外の人には触れてほしくない。いや、触れちゃだめ。紗香ちゃんはわたしのものだから。紗香ちゃんはとっても脆いの。わたししか扱えないの。
「あの……」
「なに?」
「わたし……」
「うん」
「――水野先輩より、蓮音さんとしたキスの方が気持ちよかったです。わたし、蓮音さんが好きです。アイスより……蓮音さんの唇に触れたい」
「……分かった」
わたしはそう一言だけ告げて。
「ん」
再び紗香の唇にキスを落とした。
「んっ」
「んむ」
「んん」
「んんむむむん」
場の空気をぶち壊してくる紗香ちゃんの喘ぎ声。
「紗香ちゃん、キス慣れてないでしょ」
「そのとおりです。キスはこれで2回――」
「――ファーストキスって言ってほしかった」
紗香の首を絞める。別にこれはファーストキスじゃないのがイヤだったとかじゃない。おしおきでもない。
わたしは紗香ちゃんの色々な顔が見たくて。
首を片手で絞めながら、キスをする。
――喘ぎ声すら聞こえなくなってしまった。でもちゃんと息はしている。苦しがっている。
紗香ちゃんの苦しんでる顔、かわいい。
限界に達する前に手を離す。
痛みと苦しみがトラウマになって、これからこの光景が何度も彼女の中でフラッシュバックされればいい。
――そんな思いから首を絞めながらキスをした。
シャツとスカートの境目の隙間から手を入れる。そして、背中をくすぐる。
「ふにゃっ! あうっ」
恥ずかしがって、感じてる紗香ちゃんの顔、かわいい。
「我慢、できない?」
「蓮音さんばっかりずるいです」
「自分からキス、したくなった?」
「そ、それは……」
「できないのに『ずるい』って言わないで」
また紗香ちゃんにキスをする。
今度は、舌を絡ませたディープキス。
「む」
「――!」
唾液の絡む音があまりにもいやらしくて刺激的だった。
大好きな紗香ちゃんとこんなことをしている、という実感がまだ湧かない。
息をするのが苦しいのは彼女もわたしも一緒。わたしにはまだ余裕があったけど、こういう行為に慣れていない彼女を思って、ここで終わりにしてあげた。
「――疲れたね」
「疲れたというか蓮音さんは熱、下がったんですか?」
「わからない」
紗香はわたしの額に手を当てる。わたしも真似したくなって、紗香の額に手を当てた。
「「同じくらいですね」」
あはは。
二人で笑い合う。
「紗香ちゃん、アイスでも食べる?」
「わたし、熱なんてありませんよ。アイスってサーティワンのですか?」
「うん」
「食べます」
久しぶりに食べたアイス。久しぶりといっても昨日ぶりだけど。
とても美味しかった。
「――あのさ」
わたしは口火を切る。
「なんでわたしの家、知ってたの? どうやって家に入ってきたの?」
「それはわたしが……、いえわたしもストーカーだからです。合鍵使って入りました」
「!?」
「ストーカーされていくうちにどんどんわたしもあなたのことが知りたくなって。いつしかあなたが気になる存在になっていました」
「わたしも蓮音さんのことが好きです。もうこれからはお互いストーカー行為なんてせずに常に隣にいませんか」
「わたしも紗香ちゃんのことが好きだよ。それって……一緒に住むってこと?」
「はい!」
また気持ちが抑えられなくなって、彼女にハグしてキスをした。
これから一緒に暮らし始めたら、沢山キスすることになるだろう。多分、その先だってする。
紗香ちゃんからキスされる日はそう遠くない――。
紗香ちゃんはわたししか扱えないんだから、これからも大切にしようと思う。
なろう版はここで完結となります。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。