第12話
体が熱い。視界がぼんやりする。
部屋にわたしの寝言が何度も放たれる。
「……紗香ちゃん」
「紗香ちゃん…………紗香、ちゃん」
「紗香ちゃん、好き、だよ……」
いつからだっけ。わたしの寝言が『紗香ちゃん』ばかりになったのは。
――苦しい。苦しいのに体が動かせない。水を飲みに行きたいのに飲みにいけない。
叶うなら、紗香ちゃんに水を飲まされたい。
――紗香ちゃんのことばかり考えていたら、ぼんやりした視界の端に紗香ちゃんの影が映った。
まさか。
でも彼女がこの場にいるはずがない。
紗香ちゃんはわたしの家の場所を知らないのだから。
確かにLINEで『助けて』とは送ったけど、ホントに助けにきてくれるなんて――ありえない。
わたしは期待しない。今まで沢山の人に裏切られてきたから。傷ついてきたから。
けど、いつまで経っても視界に映る、紗香ちゃんの影は消えない。
額にひんやりとした柔らかい感触。
「凄い熱ですね……」
紗香ちゃんに似た声が聞こえる。
「もう大丈夫ですよ」
今度は先ほどの感触より数百倍冷たい感触が額に当たる。
そして気づけばわたしは誰かに水を飲まされていた。
もし、それが紗香ちゃんなら理想の展開。
「紗香ちゃん…………」
「はいはい。紗香ちゃんですよ」
「紗香ちゃん、好き」
「寝言で告白しないで下さい。照れるので」
「紗香ちゃん……なの? ん」
わたしはキス待ち顔をする。
キスしてくれない、って分かってるけど。これはいつも見る夢の癖だ。夢でわたしは紗香ちゃんと沢山キスをしている。
「だから、さっきから紗香ちゃんだって言ってるじゃないですか」
「紗香ちゃん……?」
虚ろな目をしたわたしは彼女の首に腕を回す。
そしてそのまま彼女を引き寄せて――抱きしめる。
「え、ちょっと、それは…………」
抵抗虚しくベッドに引きずり込まれる紗香。
「紗香ちゃん、好き」
「!?!?」
甘い甘い時間が流れ始めた――。