第11話
玄関のドアノブにかかったビニール袋の中にちゃんとアイスは入っていた。
普通の、紗香が好きなサーティワンのいちご味のアイス。
よかった……。
わたしは胸を撫で下ろす。
まだ蓮音さんはわたしのそばから離れてない。
でも明日になったらいなくなるのかもしれない。そう思うと怖かった。
取り敢えず、彼女から送られてきたリンクを開きアイスクリームを作ってみる。勿論、味はストロベリー味だ。
――作り始めて十分が経過した。
あとは冷やして固めるだけ。
その間に彼女とLINEする。――はずだったのに。わたしが送った『おやすみ』メッセージに既読がつかない。
もう寝てると思うし、明日の朝にならないと分からないか……。
***
アイスが完成したので一口食べてみる。
「美味しい……」
ポロッとそんな感想が口をついて出た。
でも――。
蓮音さんがくれた、サーティワンのストロベリーアイスのほうが美味しい。
わたしが料理下手とかサーティワンはプロが作ってるとか、そうじゃない。
蓮音さんがくれることに意味があるのだ。
気づけばわたしは蓮音さんを求めていた。
ストーカーなのに。ちょっとズレてるのに。変態かもしれないのに。
「――会いたいです」
また本音が口をついて出た。
そしてストーカーの気持ちが少し、分かってしまった。
会いたいから、自分の気持ちを優先させて相手の許可をとらずに会いに行く。自分の好きの気持ちが抑えられないから、暴走してしまう。恋愛感情に心が掻き乱される。
……そっか。蓮音さんってこんな気持ちだったんだ……。
会いに行って、いいかな?
でも、まずはアイスを作った感想とどんな味だったのかを教えないと。
『アイス、上手に作れました。美味しかったです』
『リンク送ってくれてありがとうございました』
完成したアイスの写真付きでメッセージを送ってみた。
でも、返事も既読もつかなかった。
翌朝――になっても、全く同じ状態のまま。
いつもなら、わたしがメッセージを送ったらすぐに既読がつくのに。
手が震える。
震えた手で玄関のドアノブをチェックしに行く。
嫌な予感がした。だって、蓮音さんの足音、聞こえてこなかったもの。
――嫌な予感は的中。
ドアノブにアイスが入った袋はかかってない。
どうしたんだろう……。
わたし、蓮音さんが欲しいよ。
わたし、蓮音さんがくれたストロベリーアイスを食べなきゃ、一日が始まった気がしないよ。
こんな日は初めてだ。
わたしが蓮音さんの家に会いに行こうか、迷っていたその時。
スマートフォンが振動した。
通知を確認する。
蓮音さんからLINEが来ていた。
そこに書かれていた言葉は――。
『助けて』