第1話
ガチャガチャガチャ。
ドアノブを激しく回す。
――開かない。
当たり前だ。
黒崎さんとわたし――一ノ宮蓮音は他人同士なんだから。
でも、分からない? かわいい女の子の一人暮らしは危ないんだよ?
わたしみたいなのがいるから。
ピッキングして入ることも出来たが、しなかった。
まだ心の準備が出来てない。
黒崎さんのかわいい顔を見る覚悟が。
だって黒崎さん、きっと顔も真正面から見たらかわいいに決まってるし、そんなの見たら失神するかもだし、鼻血垂らしてたら嫌われるかもしれない。そんなの、嫌だ。
だから、一方的に顔を晒すか、こうやってドアノブガチャガチャしかできない。
――ピンポーン。
当然、無視されるインターホン。
でもこの無視が、何故かわたしにとっては快感だった。
普通の宅急便とかだったら、出るだろう。
知人や家族や友達だったら、出るだろう。
でも、わたしだと出ない。
この特別感。
黒崎さんの拒絶する姿は滅多にみれない、貴重な一面だし。
無視されるのってよくない?
何をしたら相手にしてくれるのか、探れて楽しいし。
相手にされちゃったら、わたしみたいな虫けら以下が国宝級美少女の黒崎さんと喋れちゃうわけでしょ? 絶対ギクシャクするじゃん。
だから、今はダメなの。相手にされなくて、正解なの。
ガチャガチャ。ガチャガチャ。
ピンポーン、ピンポーン。
出てくれない。
まあ、いっか。
今日は帰るとしよう。
ドアノブに、サーティワンのアイスが入った袋をかけておいた。
きっと食べてくれないだろうし。勿論、嫌がらせ目的で。
わたしは身を翻して歩き出した。
コツコツコツ。
足音が完全に消えたあと――。
「あの子が……」
そう呟きながら、黒崎さんはアイスが入った袋を回収した。