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第8話 最高のギルドの見つけ方


 ラスビレグの大通りをしばらく歩いた俺たちは、たびたび道を尋ねながらなんとかギルドまでたどり着いた。

 ギルドにつくまでに結構時間がかかったし、時刻はもう夕方になろうとしていた。

 

 といっても、道中でおいしそうな店や屋台の匂いにつられていくメルルを連れ戻す時間のほうが多かったわけだが。


「ここがギルドか…」

 

 さて。なんとかギルドにたどり着いたはいいものの、俺のほうはというと、その異様な雰囲気に圧倒されて中に入ることができないでいた。

 その理由は、ギルドの外観は基本的にレンガ造りで、ところどころ板張りの補修がしてあるだけなのだが、恐ろしいことにそのすべてが真っ黒に塗りつぶされているのだ。

 ラスビレグの街並みが基本的に白とシンプルな木造で統一された街並みだっただけに、このギルドだけが異様に浮いてしまっている。

 勝手にケルト風で中世ヨーロッパ的なギルドをイメージしていた俺だが、これはどちらかというと黒ミサかサバトの集まりと言ったほうが正しそうだ。

 それに、もっとも恐ろしいのは他でもない。ギルドの扉の上に飾られた看板に、でっかく


「暴龍の爪」


 と書かれているのだ。怖すぎる。

 どうみてもヤ〇ザ事務所にしか見えないので、俺がなんとか理由をつけて帰ろうとしていると、


「たのもー!」

 

 痺れをきらしたメルルが、扉をバンッとこじあけた。


「お、おいバカ!」


 俺がメルルを連れ戻そうとするも、時すでに遅し。メルルは持ち前の豪胆さでズカズカと中に入っていくのだった。


「どうした、貴様は入らんのか?」


 メルルの後に続くエリゼ。


「は、入ります…」


 俺はあまりにも帰りたい気持ちでいっぱいだったのだが、一人でうなだれていてもしょうがないので、どうにか目をつけられないようにそそくさとギルドの中に入ることにした。


 ギルドのなかは、それはもう怖い人でいっぱいだった。

 髑髏の眼帯をしてるもの、馬くらいなら真っ二つにできそうなデカ刀を背負っている者、なぜかずっとナイフを舐めているもの、シンプルに目がイッちゃってるもの、etc...

ビビりの俺はずっとエリゼの背中に隠れていたのだが、エリゼとメルルはまったく気にする様子もなく、ギルドの長椅子に座っていたうちの一人につかつかと歩み寄って、


「おい、受付はどこだ」と聞いた。


「あ、ああ…奥の女の人に聞けばいいよ」


 男ははじめ初対面の相手にため口をきかれたのでキレかけていたが、エリゼの圧におされてしぶしぶ答えた。


 (すげえなこいつ…)


 俺がエリゼの手際の良さ、もとい圧の強さに感心していたところ、エリゼはさっさと終わらせるぞと言わんばかりに速足でギルドの奥まで歩いていった。


「ギルドの受付はここか?」


 いきなりあらわれたエリゼに、受付のお姉さんはあきらかに困ったような表情だ。


「え、えーと。そうです」


「冒険者になる手続きをしたい、なるべく早く頼む」


「おい、そんな高圧的にでたら誰でも怖がっちまうだろ」

 

 俺があわててエリゼに注意をすると、あん? という表情で俺を睨みつけてくる。

 そういうところですよエリゼさん。と言おうと思ったが、この場でミンチにされそうなのでやめることにした。


「俺たちこの街に来たばかりで、冒険者になりたいんです。お金がないのでなるべく早く手続きを済ませたいんですよ」


 俺が渾身のスマイルをきめてお姉さんに話しかけると、


「ああ、そういうことでしたか。では手続きの書類をお持ちいたしますので少々お待ちください」

 

 といって受付のお姉さんはカウンターの奥に消えていった。


「おいエリゼ、会話ってのはこうするんだよ」


 俺がドヤ顔でエリゼに突っかかると、エリゼはふん、と鼻で笑って


「そんなことは知らん。私は面倒くさい駆け引きは嫌いだ」と言った。

 おいおい負け惜しみですか?



 しばらくすると、受付のお姉さんが何やら書類を抱えてカウンターの奥から戻ってきた。

 お姉さんは受付の椅子にすてこんっと座り、俺たちの前に二枚の書類を拡げた。


「こちらが魔法狩猟協会の会員になる契約書で、こちらがギルド所属の契約書です」


「ギルドの所属の契約書って?」」


「冒険者はすべて魔法狩猟協会に所属しますが、なにせ冒険者は数が多いですからね。名目上ギルドの一員という扱いになります。基本的には、契約をしたギルドの一員になることがほとんどですね」


「なるほど、つまり…」


「はい、暴龍の爪の一員ですね」


 俺はお姉さんの説明を聞きながら、思わず顔が引きつってしまった。

 なにせ、ヤ〇ザの一味になったも同然だからな。


「おお、暴龍の爪とな、かっこいいのぉ」


 メルルはそんな俺の考えはつゆ知らず、子供ごころに無邪気に楽しんでいる。

 まあ、こいつが楽しそうならそれでいいか。


「とりあえず契約するよ。ここにサインすればいいのか?」


「はい、ありがとうございます」


 受付のお姉さんはニコッと笑って、四枚の書類を差し出した。


「…あれ、四枚?」


 魔法狩猟協会の契約書と、ギルド所属の契約書、あわせて一人二枚。ってことは、


「ク、クハハハハ! 泥一(でいいち)よ、貴様のぶんが忘れられとるのぉ!」


 腹を抱えて笑うメルル。


「いや、どう考えてもお前のだろ」


「なにぃ!?」


 ショックをうけたメルルは受付の台によじのぼって受付のお姉さんにつめよった。


「なぜじゃ、どうしてワシのぶんがないのじゃ!」


 おいおいやめなさいよ、ガラ悪いから。


「え、えーと。子供が冒険者になるのはちょっと…」


「なにい! そんな決まりがあるのか!?」


「決まりはありませんが…」


 あきらかにお姉さんが困っているので、まあまあ落ち着けよといって、俺は台にかじりついているメルルを無理に引き離す。


「あの、決まりはないんですよね。ならせめて契約だけでもできませんか? クエストに行くかはまたその時決めますから」


「ま、まあ…それなら…」


 お姉さんはしぶしぶながらも了承してくれ、メルルのぶんの契約書をとるためにまたカウンターの奥へと消えた。


「ガハハハハ! ワシの覇気にひれ伏したか!」


「いや、俺の説得のおかげだろ…」


 またしばらくして、お姉さんは戻ってきた。

 そして今度はしっかりと六枚の契約書を拡げてくれた。


「ではここにお名前と拇印(ぼいん)を」


 お姉さんの渡してくれた契約書に、俺とエリゼはサインし、しっかりと親指で押印した。


 メルルは背が届かなかったので、エリゼに抱っこされながら『ゔぉるふがんぐ・めるる』と汚い字でサインした。

 こいつ字汚ねえな…と思ったが、考えてみれば子供なんてみんなそんなものなので言うのはやめにした。

 お姉さんはサインされた契約書をじっくりと確認し、


「ありがとうございます、では最後の手続きです」といった。


「最後の手続き?」


「はい、魔法狩猟協会所属の手付金として一人1000ドールいただきます」

 お姉さんの口から思いもよらぬ一言が発されたので、俺とエリゼとメルルの三人は思わず顔を見合わせてしまった。


「「「…え?」」」


「ちょ、ちょっと待ってください。手付金!?」


「え? はい…」


「それって絶対に必要ですか?」


「はい…」


「し、しばしお待ちを~」


 俺はお姉さんにニッコリと笑いかけ、エリゼとメルルを呼び集めた。


「おいどういうことだよエリゼ。手付金なんて聞いてないぞ」


「最初に言っただろう、私も詳しいことは知らんと」


 こいついけしゃあしゃあと…。


「よくわからんが何かマズいのか?」とメルル。


「ああ、かなりマズいな」


「冒険者になれんのか?」


「ああ」


「それは嫌じゃぁ!」


「こら、うるさい!」


 暴れ出そうとするメルルを必死に抑え込み…というかホールドし、なんとかなだめる。


「…エリゼ、1000ドールってどれくらいだ?」


「貴様の国の通貨で言うと10万円くらいだな」


「10万か…」


 無理だ。10万円なんてすぐに稼げる額じゃない。

 俺は頭をフル回転させたが、この状況を打開する案は何一つ浮かばなかった。

 というか、そんなものは一つもなかった。


「仕方ない。お姉さんにはあやまって、また後日出直そう」


「んぎぎ、いやじゃああああ!」


 納得のいかないメルルは俺のホールドを脱出し、地面に大の字のなって暴れ出す。


 (そういえばこれ見るの今日二回目だな…)


 こうなったメルルが梃子でも動かないことを知っているので、どうしようかと俺が思案していると、


「おいおい、どうしたんだよ」


 と、聞いたことのある声が聞こえてきた。

 その声につられて後ろを振り返った俺は、その見覚えのある、というより数時間前に別れたきりの不精髭のナイスガイが目に入ってきた。


「ハンサム!」

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